弁護士高林鮎子シリ-ズと津村秀介

 スカパーの「ホームドラマチャンネル」(661ch)で、先月から「弁護士  高林鮎子」のシリーズを第1回放映分から再放送をやっています。私は以前からこのシリーズ番組の大ファンだったこともあって、今回は録画をしながらもう一度じっくり見返しています。どうやら第34回まで全部放映してくれそうな雰囲気なので、嬉しく思っています。全部一度は見ているはずなのですが、今は前より目が肥えてきていますから(笑)、当時は気づかなかったような細かいところに目が行きます。第1作からは「女弁護士 高林鮎子」となっていたものが、第24作以降はただ単に「弁護士 高林鮎子」とタイトルが変更になっています。男女雇用機会均等法による影響と思われます。

%e9%ab%98%e6%9e%97%e9%ae%8e%e5%ad%90 草鹿法律事務所に所属する美人弁護士・高林鮎子(たかばやしあゆこ)が、数十年にわたって司法試験に落ち続けている万年見習いの竹森慎平とともに、主に依頼人の被疑者の無実の証明のために弁護を受けることをきっかけとして、最終的に真実を明らかにして、事件を解決するまでを描く作品です。ほぼ毎回、鉄道・列車を利用する事件を解決し、そのカギは時刻表の中に隠されています。高林鮎子、竹森慎平、草鹿達之介の3人の絶妙な掛け合いと、真犯人によって何重にも張り巡らされた鉄壁のアリバイ崩しが、お茶の間で高い人気を得ることとなりました。この高林鮎子竹森慎平などの役は、原作には全く登場しない、ドラマオリジナルのものです。このドラマの原作は、津村秀介さんの「浦上伸介シリーズ」です。今日はシリーズの第6弾船岡発普通列車 ~無縁坂の女」を見ました。原作は津村さんの『異域の死者』です。山陰本線の「船岡駅」東北本線の「船岡駅」を巧みに使った鉄壁のアリバイ工作の完全犯罪を、高林・竹森コンビで解明していきます。実に面白かった。最後のエンド・ロールで流れてくる、主題歌の竹内まりや「シングル・アゲイン」も懐かしい曲ですね。

 私の大好きな推理小説作家に、津村秀介(つむらしゅうすけ)さんという方がおられます(私は高校時代はエラリー・クイーンに、大学時代はアガサ・クリスティに、教員になってからは西村京太郎と、熱狂的ミステリー・ファンです)。事件記者%e6%b4%a5%e6%9d%91%e7%a7%80%e4%bb%8b浦上伸介(うらがみしんすけ)という将棋のめっぽう強い私立探偵が活躍するアリバイ崩し、中でも特に時刻表のアリバイ・トリックを駆使した作品の得意な作家です。作風は堅実そのもので、難解で複雑なアリバイ崩しに加えて、犯行の動機や社会的背景も重視して描くという、「本格派」と「社会派」のテーマの融合が図られた作風が特徴です。浦上伸介シリーズは「事件記者 浦上伸介」として、高嶋政伸の主演で、2001年からテレビ東京の「女と愛とミステリー」及びそれに続く「水曜ミステリー9」でシリーズ化され放送されています。津村作品の原点については、彼はこんなふうに語っています。

 本格的な旅の出発点となったのは、17歳の時。どうしても寝台列車に乗ってみたくて、東京を夜中に出発して、沼津ですれ違う寝台特急に乗り、朝方、東京に帰ってくるというものだった。とても旅行とはいえない程度の距離だったが、時刻表で列車時間を調べ、ひとりで出かけて行くのは、胸の高なる魅力的な体験だったように覚えている。それ以来、私は一冊の『時刻表』と『旅』のとりこになった。(昭和62年 津村秀介談)

 さて、今日お話ししたいのは、先ほど紹介した1986年から2005年にかけての間、眞野あずさ主演で非常に人気のあった日本テレビ系の火曜サスペンス劇場「弁護士・高林鮎子」シリーズです。草鹿法律事務所に勤める美人弁護士・高林鮎子が、長年にわたり司法試験に落ち続けている竹森慎平とともに、被疑者の無実を証明するために弁護を受け、最終的に真実を明らかにして事件を解決するまでを描く作品です。ほぼ毎回、真犯人が鉄道を利用しての鉄壁のアリバイを主張し、それを崩すことで真実が明らかになり、事件解決へとつながっていくというパターンがあります。キャラクターはテレビドラマ・オリジナルのものですが、初回作品を除いて(宮脇俊三作品)、第2作から第34作までの「時刻表トリック」は、上の津村秀介作品を原作とするものであり、テレビ画面上のクレジットでは「原作 津村秀介」と表示されていました。素朴な疑問?原作は浦上伸介を主人公にしているのに、このテレビでは、小説にまったく顔も見せない高林鮎子弁護士がヒロインとは…?? 事情をご存じない人は、非常に奇異に思われることでしょう。教員になってから、津村作品をことごとく読んでいる私も、どうしても不思議さ・違和感がぬぐえませんでした。なぜこのようなキャラクターの改変がなされたのでしょうか?

 当時の番組テレビプロデューサーが、こう回想しておられます。「原作者の分身ともいえるシリーズキャラクター(=浦上伸介)を、私たちの設定した人物(=高林鮎子)に移すことを了解してもらえるだろうか。…しかし私たちの心配は杞憂に終わった。津村さんは快諾してくれたのだ。」

 津村さんは、自分の作ったシリーズ・キャラクターの浦上伸介が、縁もゆかりもない高林鮎子なる人物に置き換えられることに、抵抗はなかったのでしょうか?ミステリー評論家の新保博久氏の推測によれば、津村さんが心を動かされたのは、ヒロインのキャラクターの鮎子という名前が、彼の尊敬する推理作家鮎川哲也(あゆかわてつや)氏を想起させたからではないか、とのことです。傑作『黒いトランク』で有名な鮎川さんが(やはり彼もアリバイ崩しの名手でした)、自分の後継者と指名したのが津村さんだったのです。自分が敬愛する鮎川哲也氏の子供を思わせる鮎子というファーストネームに、親近感を抱いたのではないか、というわけですね。なるほど。それならわかる!

 その津村秀介さんは、2000年にお亡くなりになり、もう新作を読むことはできません。時々無性に、津村さんの時刻表の「アリバイ崩し」を読みたくなることがあって、古い作品を書庫から引っ張り出したりしては読んでいます。今どきこんなコテコテのアリバイ崩し、それも鉄道の時刻表のアリバイ・トリックばかりを描く作家は皆無ですものね。本のページの中に時刻表が出てくると、もうそれだけで、俄然ファイトが湧いて目がそちらに釘付けになる八幡でした(笑)。❤❤❤

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