西村京太郎先生の戦争論

 北朝鮮がグアムに向けて4発のミサイルを発射し、島根・広島・高知を通過するというとんでもない計画を発表し、戦争への引き金になるのではとの報道に、緊張が走りました。私の住んでいる島根県も一躍注目され、出雲駐屯地に「パック3」が配備されるなど、慌ただしい対応を見せています。8月29日(火)早朝には、襟裳岬上空を通過して、弾道ミサイルが太平洋上に着弾しました。私は当日、広島のホテルの部屋で、テレビのニュースに釘付けになっていました。9月3日(日)には核実験までやったみたいですね(広島に落とされた原爆の10倍以上の威力という報道も)。いったいどうなっていくのでしょうか?恐ろしい。

 そんな中、戦中派の西村京太郎先生が初めて書き下ろした自伝的ノンフィクション『十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」』(集英社新書)が、大きな話題となっています。私も発売と同時に書店に走り、読了しました。昭和20年4月1日。少年・矢島喜八郎、のちの作家・西村京太郎さんは、エリート将校養成機関「東京陸軍幼年学校」に入学します。8月15日の敗戦までの、短くも濃密な4か月半。「天皇の軍隊」の実像に戸惑い、同級生の遺体を燃やしながら死生観を培い、「本土決戦で楯となれ」という命令に死の覚悟を決めました。戦時下での少年は何を見て、何を悟ったのか。そして、戦後の混乱をどのように生き抜いて作家となったのか。本書は、自身の来歴とともに、いまこそ傾聴したい、戦中派の貴重な証言となっています。

 さて、熱狂的なファンである私は、600冊になろうとしている西村先生の著書のほとんどを読んでいるんですが、2015年に刊行された先生の作品群には、大きな傾向の変化が見て取れました。主人公の十津川警部が活躍する設定は同じなんですが、物語中には必ず、戦争の事実の記述や体験談が盛り込まれたということです。戦後70年という節目の年に、意図的に戦争を入れておられるな、と私は感じていました。個人的には、思いもかけない列車のトリックや、人間模様を主軸としたトラベルミステリーが好みなんですが、読んでいると、必ず戦争と絡めたお話になっていくのが、その当時の先生の特徴でした。例えば、その代表例が『八月十四日夜の殺人』(ジョイノベルズ)でしょう。戦争を知らない私も、この長編を読むことによって、ずいぶん勉強になったものです。若い人たちもぜひ読んでいただきたい西村先生の作品です(最近、実業之日本社文庫で再発売されています)。十津川警部の声を通して、日本人の無関心を嘆いておられます。

 亡くなった両親は、あの、玉音放送があって、その後、B29による、爆撃がなくなったので、ホットしたと、子供だった十津川に話していたから、その辺の事情も、知っているつもりだった。しかし、終戦前後の詳細になると、十津川も知らなかった。そこで、亀井と二人で今日中に、なんとか細かいところまで知ろうと、十津川は考えていた。しかし、終戦というか、敗戦というか、それがどうして、決まったのかについて書かれた膨大な資料を、亀井と読み進めていくうちに、まず自分の知識が、あまりにも少なく、真相に、遠いか、知ることになった。

 チョット重たいな、と思いながらもこれらの全作品を読んでいますが、どうしてこのような作風変化が生じたのか?という理由を、日本推理作家協会「嗜好と文化」Vol.46に登場した西村先生はインタビューで語っておられました。⇒コチラで全文を読むことができます

 戦争ものを書いておきたいと思いまして。B29などをデスクに置いておくと、この爆撃機に校庭で追いかけまわされたなあ、と当時のことが思い出されますから。最近の作品に、戦争中や戦後社会のことを書いています。戦後70年の今年出版される十津川作品にはすべて戦争、戦後のことが入っています。特攻隊員の生き残りなど、事件の関係者の祖父、祖母の経験したことを回想として描いています。元軍国少年としては、今の視点で書くのではなく、当時生きていた人間がその時どう感じていたか、を伝えたいという思いがある。表現上難しいところもありますが、これが実際にあったことだ、ということを伝えたい。でないと、戦争を忘れちゃうでしょう。最近の若い編集者と話していると、B29を見て、『これは何ですか』と聞く。戦争や戦後のこと、知らないんですね。がくぜんとします。

 先日、8月10日放送の「報道ステーション」(テレビ朝日系)で、著者の西村京太郎先生が、日本人がその国民性からして「戦争に向いていない」と断言されましたね。先生は上の『十五歳の戦争』の中で、その理由を次のようにまとめておられます。

①国内戦と国際戦の違いがわからない。
②現代戦では、死ぬことより、生きることが重要なのに、日本人は、死に酔ってしまう。
③戦争は、始めたら一刻も早く止めるべきなのに、日本人はだらだらと続けていく。
④日本人は、権力に弱く戦争を叫ぶ権力者の声に従ってしまう。
⑤頭の中で反対でも、沈黙を守り、賛成しなかったからいいと、自分を納得させてしまう。
⑥日本人の場合、社会の前に世間があって、その世間に屈して、社会的行動を取れない。
⑦日本人が、一番恐れるのは、「臆病者」とか「卑怯者」といわれることである。だから「臆病者」「卑怯者」といわれるのを恐れて、戦争に賛成した。

 番組では、ノンフィクション作品『十五歳の戦争  陸軍幼年学校「最後の生徒」』の発売を機に、著者の西村先生がVTR出演して、自身の戦争体験を振り返っておられました。西村先生は陸軍のエリート将校養成学校である「陸軍幼年学校」在学中に、14歳で終戦を迎えたといいます。当時の悲惨な体験から、「日本人は戦争に向いていない」と心から悟ったそうです。西村先生は『十五歳の戦争』の中で、他の国が「現代の戦争」を戦っているのに対し、日本は「際限のない精神主義、根性主義である。これは信仰に近かった」「特攻と玉砕に酔う人たちである」と綴っておられます。「現代戦争ってね、生き延びなくてはいけない」と語ります。一方、西村先生は日本人が「死ねばいいんじゃないか」と考えてしまうため、戦争に根本的に向いていないのだと解説していきます。そして、日本人には今も「死んでなんとか勝つぞ」といった精神性が伏流していると指摘し、そうした国民性から「戦争はしない方がいい」と強調しました。一度戦争が始まったら、「みんなが死んでるのに、俺だけ生きてるわけにはいかない」という考え方をしてしまう、と語っておられました。

 やはり昨年の「赤旗」日曜版にも、西村先生は語っておられました。

 終戦の時は15歳でした。陸軍幼年学校にいたので、あと何年か戦争が続いていたら、小隊を率いて死んでいたでしょう。怖いのは、戦争になると死を恐れなくなること。戦争のための教育をたたきこまれたから、死ぬのは全然怖くなかった。戦争末期は爆撃も激しくなり、誰も勝てるとは思わなかった。でも上の人は”勝てないけど負けない”と言う。そんなおかしな理屈をのみこみ、自分は勇ましく死ぬんだと思いこんでいた。狂気にかりたてられていたというか、狂気が”普通”になっていました。僕は『戦陣訓』が嫌いです。陸軍刑法には、捕虜になったときの規定がある。法律上は、捕虜になってもよかったんです。でも、『戦陣訓』のせいで、死ななくてもとかった人がたくさん死んだと思います。日本人は家庭ではいい人です。でも実際は、戦争中の話をいろいろ読んでいくと、違いますよね。兵隊になったとたん、おかしくなっちゃうんです。僕は戦争したくないけど、なかには戦争したい人もいるんだよね。不思議なんだけど。アニメやマンガの中には、戦争を何か勇ましいことのように描くものもある。だけど実際の戦争は違う。首相も政治家の多くも戦争を知らないんです。昔は自民党の中にも戦争を知る政治家がいて歯止めになっていた。そういう人たちがいなくなっちゃうのは困るんだ。戦争中、東条英機首相の暗殺計画があったんです。それを踏まえて考えると、いまの日本は平和だけど、上の人(首相)がおかしくなって日本が戦争に突き進もうとするようになったら、首相を暗殺しようとする動きが出てくるかもしれない。現実はもちろん許さないことだけど、小説だから、そんな話も考えています。世界中が戦争になっても日本だけはたたかわない方がいい。たたかわない国が、一国でもないと、まずいんだ。日本は第2次世界大戦の時のスイスのように、したたかな外交力を発揮すべきです。アメリカと一緒になって戦争に巻き込まれるのはまずいと思うな。誰から何をいわれようと、日本は戦争はしない。その道を突き進めばいい。そういう国がないと、戦争の仲裁とかもできないでしょう

 西村先生は、戦争を肌身の体験として知っている最後の世代に属しておられます。今、先生にしか書けないご自身の苛烈な体験に、耳を傾けてみましょう。


(追記)月曜日に放送された十津川警部シリーズ最新作において、やはり予告通り、西村京太郎先生と奥様がテレビに登場しておられました。香取教授の自宅を訪ねた十津川警部が、玄関先で振り返ると西村先生ご夫妻がおられ、「あの~、お近くにお住まいの方でしょうか?」と尋ねると、しばらく見つめ合い、「いいえ」と言って立ち去って行くお二人でした。あの場面はいったい何だったんでしょう?いかにも唐突でしたね(笑)。先生も去る9月6日に、87歳の誕生日を迎えておられます。著書ももうすぐ600冊のカウントダウンが始まっています(現在592冊)。先生の今の目標は635冊だと、私に語られました。東京スカイツリーの高さ634mを1つだけ上回りたいとのことでした。⇒私のインタビューはコチラです  最新著作リストは「西村京太郎研究会」コチラをご覧ください。❤❤❤

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