さだまさしと「防人の詩」

 65歳になった、さだまさしさん。誰もが知る名曲を残し、これまで開催したコンサートは4200本以上。いまでこそ大人気を博していますが、彼ほど世間から叩かれた歌い手も珍しいと思います(借金は別として)。私は若い頃から、ずっとさださんを応援し続けていますから、その一部始終を目撃してきました。精霊流し」「暗い」無縁坂」「マザコン雨やどり」「軟弱関白宣言」「女性蔑視」と批判され叩かれました。防人の詩」では「右翼」と言われました。しあわせについて」「左翼」と真反対の批判を受けたこともあります。その他にも、いい子ぶっている」とか、夏・長崎」を始めた時には「選挙に出るのか!」と、さんざん叩かれました。よくもまあこれだけ言われたものです。当時を振り返って、今年2017年の雑誌『Oriijin(オリイジン)』春号で、さださん本人が回想しています。

 絶望?いや、そりゃもういっぱいありますよ。例えば、20代のときに『さだは暗い』と言われた時期とか。右翼の街宣車が、僕の『防人の詩』を流して走り、原爆の日近くに、広島の野外コンサートに出たら、日和見って言われた。僕は真ん中に立っているだけなのに、『お前はどっちなんだ?いいかげんにしろ』って(笑)。

 世間の評価というものを理解するのに、僕は結構な時間がかかった。自分が有名になるっていう恐ろしさも経験して、3~4年かかったんじゃないかな。個人を平気で叩いて、叩いた人は叩いたことを忘れるっていうメカニズムがなかなか理解できなかった。その間、人を恨みもし、呪いもし、怒りもし、悲しみもし…最後は笑えるようになったけど。多かれ少なかれ、みんなが経験することだね。人を疑い、怒りを覚え、自分自身で悲しむ―でも、それを抜けると笑える。そこまで行けるかどうかじゃないかと、僕は思う。

 上に出てくる「防人の詩」は、『二百三高地』という東映の戦争映画で、しかも勝った戦争の主題歌を歌ったことで「右翼的」だというレッテルを貼られました。歌もちゃんと聞かずに、「防人」というタイトルだけに反応して、「戦争賛美」「好戦的な右翼思想だ」と短絡的に批判されたのでした。この歌のどこが「戦争を賛美」なんでしょうかね「本当に、ちゃんと聴いてくれたの?こんな反戦歌、他にないでしょう」と思ったさださんです。さださん自身は「いまの緊迫した世界情勢の中で、日本という国を愛するたった一人の“人間”として『自分の中の万葉集』『自分の中の防人の歌』というつもりでつくりました」と述べ、「いさなとり 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ」(万葉集)という歌に触発されて作ったと言います。いわれのない批判だと思いつつも、これが伝わらないところでやっていてもしょうがない」と、あまりのひどさに同郷の文芸評論家・山本健吉先生に弱音を吐きます。僕なんか、たかが歌だと思っているんですが、人格まで非難されるんですね」山本先生は、いや、詩歌というのは、そういうものなんだよ。自分の人生観を賭けて歌を歌ってるわけだから、そういうことを言う人がいるのは当然のこと。ただ君は、もういなくなった人を歌うのが非常に上手だ。「精霊流し」も「無縁坂」にしても、あたかも亡き人を謳っているかのような、そんな印象を受ける。「みるくは風になった」も「防人の詩」にしてもそうだが、いなくなった人の歌を歌うのは、挽歌といって日本の詩歌の伝統であって神髄である。君は知ってか知らずか、心のどこかで日本の詩歌の本道をちゃんととらえている。それでいい。君はまちがっていないんだから、何を言われてもやりつづけなさい。ひるむ必要はない。詩歌に生きた人は、そんなことでひるんだ人は一人もいない」と勇気づけてくださったのです。それを聞いてさださんは、肚をくくります(『やばい老人になろう やんちゃでちょうどいい』)。

 この映画『二百三高地』の音楽監督は、故・山本直純先生でした。「戦争の勝った負けた以外の小さな人間の営みを、ちゃんと浮き彫りにしていきたい。そういう映画なんだ」と言われ、引き受けた曲です。185分という大作で、途中休憩となる前の、死屍累々たる戦地の惨状の中を、あおい輝彦さんが血みどろになり地獄絵図の中を歩く、戦争の無惨さ、生命の尊さを問うシーン、そこに流れてくるのがこの歌でした。

 教えてください
この世に生きとし生けるものの
すべての命に限りがあるのならば
海は死にますか 山は死にますか
風はどうですか 空もそうですか
おしえてください

で始まる「防人の詩」は、書き出しの「諦観」から、次の詩で、生命や人生の「無常観」へと風穴を開ける希望の歌となっていきます。月の満ち欠けを悲観的に捉えるのではなく、前向きに捉える、命に対するさださんの切なる思いが結実しています。私の大好きな曲です。この美しいメロディーは、締め切りの切羽詰まった中で、駆け込み寺的に誕生したことが新著に綴られていました。

去る人があれば 来る人もあって
欠けてゆく月も やがて満ちて来る
なりわいの中で

(追記)10月6日(金)から11月5日(日)まで、長崎県美術館で「特別展 さだまさしの世界」が始まります。吟遊詩人、小説家、話芸の達人、平和活動家、ボランティア支援組織発起人といった多彩な顔を持つ、さださんの世界の総合展示会です。近くにある「ピースミュージアム」とともに訪れてこようと計画中です。カフェで提供される「パンプキンパイとシナモン・ティー」も目標の一つです(ファンの人ならこれが何を意味するか分かりますね?岡村孝子さんはこの曲に感化されて「あみん」を結成しました)。妹の玲子さんがオーナーの「自由飛行館」も久しぶりに訪問してきます。

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