『九州特急「ソニックにちりん」殺人事件』

 西村京太郎先生の1996年6月の長編推理小説『九州特急「ソニックにちりん」殺人事件』(カッパブックス)は、阿蘇・大分を舞台にした十津川警部シリーズのトラベル・ミステリーです。特急「ソニックにちりん」が運行開始したのが、1995年のことですから、西村先生は、走り始めてすぐに九州に取材に行って作品化しておられ、さすがと思われます(西村京太郎『十津川警部とたどる寝台特急の旅』(角川oneテーマ21,2013年)。

 官僚出身の元首相秘書佐久間が突如失踪する。彼は次の総選挙に都内から立候補が決定しており、政治の裏側にも通じていることから、犯罪の可能性があるとして捜査を任された十津川警部。手掛かりとして春から運行を開始した特急「ソニックにちりん」と阿蘇の風景写真が見つかるが、佐久間が最近九州に旅行した形跡は見当たらない。しかし佐久間が20年前に大分の税務署長として2年間赴任していたことが判明する。九州に向かった十津川と亀井は「ソニックにちりん」の写真に写っていた女性が、ソニックレディと呼ばれるJR社員の矢吹みほであること、もう一枚の阿蘇の写真は内牧温泉の旅館だと知る。みほには会えなかったが母親の宏子に会い、20数年前に大分で小料理屋をやっていたことを聞き出す。やがて失踪していた佐久間が、無事帰京したとの報告が届く。岩手の花巻温泉にいたというが、十津川達は信じない。そのころ、内牧温泉の近くの牧場でみほの死体が発見された。熊本県警の管轄なので、十津川は手を出すことができない。しかも、佐久間の失踪のことも、政治的圧力がかかりうやむやにされようとする。みほを殺した犯人を突き止めたい宏子が上京するが、正体不明のグループに拉致され、逃げ出して入った病院にも、脅迫電話がかかる始末。宏子をガードする十津川だが爆破騒ぎが起きるなどてんやわんや。政治的圧力を受けながら、十津川達は真実を1つ1つ手繰り寄せていく、というお話。

 トラベル・ミステリーには、その土地ならではの事件であったり風習であったり、今ほど便利に情報が入る時代でもないし、ガイド的な役割を果たしたりなど、様々な役割がありました。西村京太郎先生のトラベル・ミステリーと言えば、初期の頃は時刻表とか列車のアリバイトリックとか、その場所ならではの奇抜性が受けた面も強くあります。そういう意味では、この作品は「ソニックにちりん」の車内で事件が起こるわけでもないので、そこの要素は薄い。反面、政治的圧力に心を悩ませながらも、捜査を断固行う十津川警部達の姿というのは、先生の面目躍如、初期の社会派の部分を彷彿とさせるところもあり、とても魅力的です。加えて最後に真犯人に仕掛けるトリックはなかなか優れていると思いました。しかし、本当の悪人はいまだ悠々と政界を泳いでいる、というラストの感じも悪くありません。巨悪は眠らないのです。

 二人が、ホームに出ると、問題の列車はすでに入線していた。
 写真で見たときも思ったのだが、ソニックにちりんのフロントは、セルリアンブルーの
色のせいもあって、昆虫を思わせる。設計者もたぶん、昆虫をイメージして、作ったに違
いない。
 九州には、つばめ号や、ゆふいんの森号のように、奇抜な形の列車が走っているが、新
しく走り出したこのソニックにちりんも、人気をつかむにちがいない。
 車内に入ると、今度は、童話の世界になった。座席のヘッドレストは、誰が見ても、ミ
ッキーマウスの耳の形である。それに、原色に近い色彩があふれている。
 子供が喜ぶだろうなと、十津川は思った。設計し、製造した人たちも、そのへんを狙っ
たのだろう。(中略)
 二人の乗ったグリーンは、1号車の半分を使い、十五の座席が用意されている。
 1号車は、禁煙だが、運転席のすぐうしろに、楕円形の休憩室が設けられ、そこには、
灰皿が用意されていた。

 題名の特急「ソニックにちりん」は、1995年3月18日より特急「にちりん」として営業運転を開始したのが元祖です。九州各地の道路網が次第に整備されていく中、1996年には福岡・大分間も高速道路で結ばれることになっていました。それに対抗するために、いち早くJR九州で新型車両が導入されたのです。大好きな水戸岡鋭治先生(ドーンデザイン研究所)のデザインでした。4月20日からは、車両愛称の「ソニック」を冠した特急「ソニックにちりん」となりますが、走っていた期間は実に短かったのです。何か問題があったわけではなく、博多―大分駅間の特急「にちりん」が、ほとんどこの883系となり、それを機に二つの特急の名称が「ソニック」に統一され、1997年3月22日のダイヤ改正から、現行の特急「ソニック」となりました。「鉄道友の会」が選定する「ブルーリボン賞」をはじめ、「グッドデザイン賞」「ブルネル賞」も受賞している名列車です。現在は日豊本線の博多―大分間を30分間隔で発着しています。

 車体は軽量ステンレス製で、昆虫のバッタを思わせる先頭部はメタリックの塗装。実にかっこいい。車内は、ガラスを多用した仕切り壁が、開放的な空間を創出しているほか、動物の耳のようなヘッドレストがついた座席が印象的です。半室構造のグリーン客車の運転席後部とグリーン客室の間には、楕円形のフリースペースの「パノラマキャビン」も設置されています。モダンな乗降口も異彩を放っていますね。九州初の、そして営業用交流電車としては最初の振り子電車で、最高速度は130キロです。私は何度も何度も乗っている大好きな電車です。日豊本線には、現在は「白いソニック」も運行していますが(特急「かもめ」の車両です)、私は、883系のこちらの青い電車が好きです。西村先生はその後、『十年目の真実』(ノンノベル、1999年)を書いておられ、これがTBSテレビで、渡瀬恒彦さんの十津川警部物・第44作「特急ソニック殺人事件」として放送されました。⇒コチラです ❤❤❤

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