竹岡広信『LEAP』~理想の単語集

 竹岡広信(たけおかひろのぶ)先生の新しい英単語集『LEAP』(数研出版、2018年10月)が出版されました。数研本宮佑太さんが持って来て下さいました。書店にも出回っていますね。高校生の英語学習で一番苦労するのが英単語の暗記です。私は英語学習の8割までは、「単語の勉強」だと公言しています。従来の単語集は、単語、発音、意味、用例の構成で、どの本も似たりよったりでした。生徒は丸暗記するしかなかったんです。しかしそれでは、テストには対応できるものの、テストが終わってしまえば記憶の中からすっぽりと抜け落ちていきます。卒業してしまえば、きれいさっぱりと忘却のかなたです。私はこれではいけないと思い、入学時から少しずつ、語源・接頭辞・接尾辞を指導することで、記憶の定着を図ってきました。それをまとめた冊子が、『英単語はアタマ・オナカ・シッポで攻略だ!』(自費出版、2010年)でした。幸い生徒にも好評で、この冊子は全国の先生方からもたくさんの申し込みをいただき、完売しています。今でも欲しいと言ってくださる先生が多いので、この夏にセンター試験の第1問頻出語の音声ファイルCD(MP3)を製作する際に、特別付録としてこの本の全内容をPDFファイルで収録しました。

 さて今回の竹岡先生の新しい単語集、一言で言うと、竹岡先生のアタマにある全てのことが詰まった「学術的な単語集」と私は感じています。英単語の暗記に役立つと思われる学術的な知識を総動員して作られた画期的な単語集です。LEAPという書名は、Learn English Vocabulary, both Active and Passive「英語の発信語彙も受信語彙も両方学ぶ」の頭文字を取ったもののようですが、同時に生徒たちが四技能の英語世界へ「飛翔」(leap)してくれるようにとの願いが込められて、「四技能対応型英単語集」とあります。この(1)「発信語彙」「受信語彙」を区別したのが大きな特徴です。さらには、各語に(2)CEFRレベルを掲載して語彙難易度を明示してあることも、従来の単語集にはなかった特徴です。竹岡先生の長年の指導の成果から、敢えて取り上げられている難語も幾つか見られます。(3)単語の正確なニュアンスに徹底的にこだわっています。これは、竹岡先生の学識を至る所に感じることができる単語集です。(4)類義語の正確な記述も魅力です。(5)用法への的確な指示も忘れてはなりません。(6)訳語にかなりこだわって作られていることも見逃せません。(7)丸暗記によらない単語記憶のさまざまな工夫が盛り込まれている点(「語源」だけでなく「語呂合わせ」までも)を、私は高く評価します。

 一例を挙げてみましょう。termという単語は「多義語」でさまざまな意味があるので、教室で押さえるのに一苦労しておられる先生も多いと思いますが、竹岡先生はこんな説明を挙げておられます:「(限られた)枠」→①「(意味の→)用語」②「(時間の→)期間」③「(相手との関係の→)間柄」④「(取り決めの→)条件」こうして意味同士の関連を押さえておいてやると、生徒たちの記憶の負担はずいぶん楽になるはずです。さらにこの単語を含む頻出の熟語on good terms with~「~と良好な関係にある」(*特に「仲がよい」という訳ではない)という注記を与えておられます。*の部分が重要です。現場でも誤解している先生がたくさんおられる熟語で、私も以前詳しく報告しています。⇒コチラをご覧ください 私も授業でこれらのことに触れ、terminator(抹殺者) terminate(終わらせる)terminal(終着駅) determine(決心する) exterminate(根絶する)などへと発展していきます。未知語への応用につながる学習法と言っていいと思います。

 disabled(障がいのある)という単語に添えられた注記「「障がい者」を表現する際、handicapped peopleは差別的な響きがある」stiff(筋肉などが凝った)に与えられた説明「「寝違い」のように筋肉が痛くて、動かしづらい状態で、日本語の「凝る」よりも症状が重いイメージ」はさすがと思います。abroadを引いてみてください。そこには私が教室で押さえることが全部書かれていました。形容詞significant①重要な ②(数量、増減、相違などが)かなりの という語の派生語である副詞のsignificantly「かなり」という訳語しか与えられていないのは、他の単語集が「重要なことに」を重視しているのとは質を異にしています。これなどはコーパスを参照すると自明なことなんですが、残念ながら現場の常識とはなっていません。recently(最近、近ごろ)に与えられた語法注記「原則的には過去時制、現在完了で使われる。現在時制で使うこともあるが、現在時制の場合はthese days, nowadaysを使う方が無難」類義語のlatelyには「通例、現在完了時制で使う(*recentlyは現在完了、過去時制で使う)」は実に正確な語法記述です。⇒私の論文「LATELYとRECENTLYは同義か」(『英語教育』誌)はコチラ  現場で誤解の多いbe willing to doにも「嫌がらずに~する ▲(必要に応じて)~しても構わない」と正確なニュアンスが伝えられています(「喜んで~する」ではない!)そしてその副詞 willinglyには「進んで」というこれまた正確な訳語が添えられている点にも感心しました。⇒私の解説はコチラです

 このように、単語集のどのページをめくっても、竹岡先生の深い学識が感じられます。私はこの本を手元において、1ページ1ページを読むのを楽しみにしているこの頃です。膨大な先生の頭脳をこのような形でまとめてくださったことに対して、現場の教員の一人として厚く感謝したいと思います。竹岡先生のこの単語集に寄せる熱烈な思いは、数研出版のPR冊子『CHART NETWORK』最新号「『必携 英単語LEAP』に抱く熱き思い」として寄稿されています。⇒コチラで全文を読むことが出来ますのでぜひご一読を!前著『必携英語表現集  Essential English Expressions<厳選800表現>』(数研出版)とともに重宝したい教材です。⇒私の紹介記事はコチラです

 もう三つだけ私の雑感を述べておきますね。受験英語でも頻出のbe familiar with~「~を(よく)知っている、~に詳しい」と、この単語集にあります。現場でもほとんどの先生方がこのように理解して、それ以上考えることをしません。ネイティブ・スピーカーたちがこの句に抱くイメージは、少し違っているようです。⇒私の報告はコチラです  respectable「(人、家庭などが)ちゃんとした」は、他の単語集が「尊敬すべき」などとしているのとは違って、さすがだと感じます。a respectable personと言うと、時にその人には失礼になることがあります。この単語は「まともな、ちゃんとした」という意味であって、悪いことをしたり、いかがわしい過去を持たないということであり、とりたてて「立派な」「尊敬すべき」などということではありません。次のようなM.アルトハウス先生(津田塾大学)の用例からも明らかですね。誤ったイメージを持っている先生も多いようです。

That family is poor but quite respectable.

He looked respectable but he turned out to be a swindler.

 英語のorphan「孤児 =a child whose parents are both dead」とされたのは、英米の学習辞典もそのような記述をしていますから、やむからぬ所かも知れません。しかし、鈴木孝夫先生によって明らかにされたように、この語は片親のない子にも使うことが出来ます。したがって、コンパスローズ英和辞典』(研究社)のような「普通は両親をなくした子をいうが、片親のない子にも用いることがある」といった語法注記が必要な単語です。日本語の「孤児」とはズレているんです。そのことはCollins English Dictionary (2009)が“a child, one or (more commonly) both of whose parents are dead”と正確に記述しています。

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