渡部昇一先生のエピソード(4)

 渡部昇一先生の出世作と言えば、知的生活の方法』(講談社現代新書)ですね(私はこの本を学生時代に読んだことが大きな影響を与えました)。これは先生がハマトン『知的生活』を読んで、触発されて書かれたバイブルでした。ハマトンは死ぬ直前まで原稿を書いていたんですが、死後発表されたその絶筆には、彼独自の「幸福論」が書かれていました。

 ハマトンには、実に優秀な子どもがいて、フランスの大学教授にまでなったんですが、自殺してしまいます。仲の良かった奥さんも耳が聞こえなくなってしまいます。ハマトンはこれらの悲劇を味わいながら、自身の体験を振り返って、幸福というのは、このまま続いてくれればいいのにと思っていると、いきなり取り上げられてしまうものだと言います。面白い本を読んでいてとても幸せだ、もっと読みたいと思っている時に、いきなり取り上げられた感じは、自分の人生の中でしょっちゅうあったと言うのです。このまま続いていけばいいのに、と思っていると、いきなり取り上げられる。その代わりにまた別の面白い本が出てくる。それをまた読み続けていると、途中でまた取り上げられる。その繰り返しであったと言うんです。つまり幸福に完全はないのだ、とハマトンは言いたいわけですね。勝利も同じことで、完全な勝利などというものは長い人生においてはあり得ない、ということを主張しているのです。

◎渡部先生の「学校論」

 ここから渡部先生は、学校」にこのハマトンの主張を当てはめて考えておられます。受験、受験一辺倒の生活で来ると、人生にも完全な勝利があると錯覚してしまいがちです。学校では、試験で1番になるとか2番になれば、ライバルに勝つことは出来ます。ライバルよりもいい大学に入ったということで完全なる勝利を得たと思ってしまいます。大学時代に優秀な成績で完全な勝利をつかんでいる人は、そのままいけばエリートコースに乗って幸福をつかめると思ってしまいがちです。大変な競争率を突破して、花形産業に入ったはいいけれど、そういう会社に限って何年か経つと斜陽産業になっていることは、最近頻繁に見る現象ですね。そういう花形の所へ行けなかった人が、突然注目を浴びるということもよく目撃します。幸福な結婚生活を送ってきた伴侶が突然自動車事故や病気で死ぬ、将来どんな立派な人間になるかと期待していたよく出来た子どもが、突然グレ始めたりもする。どんなことが起るか分からないというのがこの人生なんです。

 学校というところは、点数で判断するから、勝った負けたがすぐ分かる仕組みになっています。逆に言えば、学校は点数で表されるものしか計ってくれない、それでしか評価してくれないということです。学校時代の勝負というのは、結果が分かりやすいからそれだけ楽なんです。ところが、世の中に出ると、点数で計れないもので満ち満ちています。毎日が解答のない問題との闘いです。学生時代の勝ち負けが人生の全てではない、と悟ってさえいれば、勝敗を恐れないでどんどん競争を望んでやるべきだ、と渡部先生は主張します。基本的には、競争から逃げるというのが一番よくないと言われます。

 勝っても負けても、単に点数で計れるものでしかないんだからどうってことはない。何でも鍛えるだけ鍛えてみる、という姿勢が大切だと言われます。初めから負けてもいいやと思うんじゃなくて、負けたってどうってことはないけれども、勝てるかどうか試してみよう、という気持ちがあった方が、人間的に幅が出てくる。学校というものは、自分を鍛えるところだと思っていれば、存在価値が大きい、意味があると言われます。

 点数だけが全てだ、と思って社会に出てしまうからおかしなことになっってしまいます。数学の計算試験で答えを一桁間違えても、学生時代は100点満点で98点になるくらいのものです。ところが、会社に入って1桁間違えるとえらいことになります。学校というところは1カ所間違えれば2点減点するというルールで動いている社会なんです。この学生時代のルールが人生すべてに通じる、と思ってしまうととんでもないことになります。私たちの人生には学校のような「試験範囲」もなければ、「ルール」も無数にあります。「計るモノサシ」自体もありません。学校とは全く異なる世界なんです。

 したがって学生時代の成績争いは、スタートラインにつく以前の準備体操、ウォーミングアップにすぎない、ただしだからといってここで手を抜き、逃げるクセをつけてしまうと、負け続ける可能性が強い。だから大学までは負けてもいいから、とにかくルールの範囲内で勝負に挑む。アンフェアな競争をする必要もないし、度を超した競争をする必要は全くない、というのが渡部先生の学校論でした。

 昔は、いい学校を出れば、人生のコースは決まったようなところがありました。でも今では出身校では決まりません。どんな取り組みをしたかが、ますます重要になってきていると思います。高校時代の成績はそれほどでなかった生徒が、島根県立大学に入るや大活躍をして、1番の成績を取り、わざわざ学長自ら、進路部長をしている私のところに直々に報告に来て下さったことがあって、ビックリすると同時に嬉しかったことを覚えています。ちょっとしたきっかけで、人間は化けるのです。❤❤❤

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