「ギャンブラーの誤謬」

 授業で、東京大学2002年度の「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」に関する入試問題を読んでいます。英文読解の力をつけるために私が日頃強調しているのは、①語彙力、②文法・構文力、③論理展開を把握する力、の三つですが、これを鍛えるためには実に良い英文です(東大入試の英文は本当に良く練られた質の高いものです)。英文は、「神が世界を相手にサイコロ遊びをするなどとはとうてい思えない」というアインシュタインの有名な言葉で始まりますが、人生は理詰めで動くチェスではなく、一手ごとにサイコロを振る運任せのバックギャモン・ゲームなのだ、と展開します。しかし、日常生活では過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想することが有益である、という英文です。確かに、人生では未来を予測するのは難しいことです。何が起こるか分かりませんからね。

 今日私は、いつものように松江駅から米子駅を目指して、山陰線のガラガラのワンマン電車(2両)に乗っていました。すると安来駅の手前のところで、電車が緊急停車をして、車内にピーピーというけたたましい非常警報が鳴り響きます。一体何が起こったのか?電車には数人しか乗っていませんでしたが、無線交信が車内に響き渡り、緊張が走ります。私も初めての経験でした。どうやら線路内に人が入っていて接触でもしたのでしょうか?車両の最後尾に行ってみると、お年寄りらしき人が線路内をフラフラと歩いておられるのが見えました。すぐにパトカーがやって来て、警察の現場検証が始まりました。運転手さんも電車を離れて現場に向かって行かれました。その間30分以上足止めをくらい、一向に電車が動く気配がありません。「勝田ケ丘志学館」の授業に間に合うかどうかが心配でした。幸い、お年寄りに大きなお怪我はなかったようで、運転手さんが帰ってこられました。米子駅に着いても、乗り換えの境線はとっくに出てしまっており、駅からタクシーを飛ばして何とか授業には間に合いました。ところが慌てていたので、電車の中に傘を忘れてしまいました〔笑〕。世の中かくのごとしで、予期せぬことが起こるんです。ラグビーのワールドカップで、日本が世界2位のアイルランドを倒したこと(ジャイアント・キリング)もそうですね。「人生はバックギャモン・ゲームだ」という一文は、そういうことを言ったものです。実際に「バックギャモン」をやったことのある人なら、この言葉の意味がさらによく分かることでしょう。私は授業で、何を言っているのかよく分からない英文に出くわした時には、その「具体例」を考えると見えてくるよ、とアドバイスしています。

 「ギャンブラーの誤謬」というのは、コイン投げで表、表、表と連続して表が出ると、次は裏が出そうな気がするという心理傾向です。実際には何回表が連続して出ようとも、コイン投げは、毎回独立事象(前回の結果と次のコイン投げは無関係)ですから、次に表が出る確率は1/2なんですが…。日常生活においては、過去の歴史から、パターンを読んで、次に何が起こるかを予想する(ギャンブラ-の誤謬)ことは、意味のあることですし、またそうすべきです。私が過去のセンター試験を詳細に分析して、そこから次のセンタ-試験の内容を予想するのもその一つの例でしょう。過去のデータから、来週の天気を予想するのもそうですね。「歴史は繰り返す」もそうです。ところがそれが通用しない例外が一つだけあります。それが「ギャンブル装置」です。出来事がそのような予想過程とは無関係に起こるように設計されている機械には、今言ったような過程は通用しないのです。さてこの後に、次の英文が続きます。生徒は訳はできるのですが、その言わんとする「論理展開」を考えることができません。

If our love of patterns were not sensible because randomness is everywhere, gambling machines should be easy to build and gamblers easy to beat.(どこもかしこも行き当たりばったりのことばかりだという理由で、私たちのパターン好きは分別のある振る舞いではないとすれば、ギャンブル装置を作るのは簡単なはずであり、ギャンブラーを打ち負かすのも簡単なはずである

 最後の結論部分の次の英文も、生徒たちは、その背後にある「論理展開」を読むことができませんでした。この論理をじっくりと考えて「あー、そうか!」と納得するのに、松江北高補習科勝田ケ丘志学館ともに、あーでもない、こうでもないと、1時間以上を費やしました。

Indeed, calling our intuitive predictions reliable because they fail with gambling devices is unreasonable. A gambling device is an artificially invented machine which is, by definition, designed to defeat our intuitive predictions. It is like calling our hands badly designed because their shape makes it hard to get out of handcuffs.(いやそれどころか実際のところ、ギャンブル装置でしくじったからといって、直感的な予想が当てにならないと言うのは筋が通らない。ギャンブル装置というのは人工的に考案された機械であり、明らかに直感的な予想を負かすように設計されているのだから。それはちょうど、手の形のせいで手錠をすり抜けるのが難しいからといって、手のデザインが悪いと言って非難するのと同じようなものである

 ①「語彙」の部分でつまづいたのは、by definition(明らかに、当然のことながら)という成句でした。生徒たちは「定義によって」と単語を訳しただけでそれ以上考えようとしません。私も学生時代この成句に初めて出会った時には、はたと考え込んでしまいました。当時の辞典には載っていませんでした。今は英米の学習辞典にも、当然日本の学習英和辞典にも収録されています。分からない時には、辞書を引く手間を惜しんではなりません。両英文中に何度も出てくるbecauseも「~だからといって」の用法です。calling~部分は「SVOC」(日本人高校生が苦手な構造)となっており、ここまでが主語であり、述語部分はis unreasonableで「SVC」の構文となっています。ここら辺は、「文法・構文」の力が必要ですね。そして一番厄介なのが、両英文が何を言わんとしているのか、その③「論理」をしっかりと把握しなければなりません。訳はしたけれど、何を言っているのか分からない、では英文を読んだことにはなりません。生徒たちの理解は、最初は2割~5割程度でしたが、いろいろな「具体例」を出して考えてもらい(パチンコ屋さんの例、ラスベガスのカジノのサイコロまで持って来て実演、ドイツのカードシャーク社から出た最新の不思議なトリック・デックを実演)、最後にはようやく10割の理解にたどり着きました。先生方は、この二つの英文をどのように料理なさいますか?考えてみてください。今日の授業風景からの報告でした。❤❤❤

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