単数形のthey

 アメリカの大手老舗辞書出版社メリアム・ウェブスター社(Merriam-Webster)は、毎年年末になると「今年のことば」を選びます。2018年は、「Justice(正義)」で、政治家の不正が問われる世相を映し出した選考でした。2017年は、噴出するセクハラ問題を映した「feminism(フェミニズム)」でした(ちなみに過去は、2016年―Surreal  2015年―-ism  2014年―Culture  2013年―Science  2012年―Socialism  2011年―Pragmatic   2010年―Austerity   2009年―Admonish   2008年―Bailout)。2019年は、アメリカなどの英語圏で性的マイノリティーを表す単数形の代名詞としても使われる動きが広がっていることを反映して、「they(ゼイ)」が選ばれたことを、昨年の12月10日に発表しました。今までは複数の人を指す人称代名詞という理解が覆る動きです。辞書編集に携わる者として、これは見過ごせない出来事です。メリアム・ウェブスターの英語辞典には、次のような定義と注記が追加されました。

3 d.—used to refer to a single person whose gender identity is nonbinary (see nonbinary sense c)

usage    The use of they, their, them, and themselves as pronouns of indefinite gender and indefinite number is well established in speech and writing, even in literary and formal contexts. In recent years, these pronouns have also been adopted by individuals whose gender identity is nonbinary, as illustrated in sense 3d above.

 theyは、一般的には、「彼ら」や「それら」といった複数形の意味を表す代名詞ですが、アメリカなどの英語圏では最近、性的マイノリティーを対象に「彼」や「彼女」といった単数形の意味でも使われ始めています。昨年は、アメリカの女性議員が自分の子どもの代名詞をtheyだと公表したことや、イギリスのシンガーソングライターが、自分をtheyと呼んでほしいと訴えたことなどが大きな話題となり、theyの検索回数が前の年の4倍以上にのぼったということです。こうした流れを受けて、メリアム・ウェブスター社も昨年9月に、辞書のtheyに、性的マイノリティーを対象にした単数形の代名詞としての意味を加えました。男女の性別にとらわれない第3の性「ノンバイナリー」への認知が広がったことを受けて進んできました。メリアム・ウェブスター社は、このような単数使用が「英語の用法として確立したことは間違いない」「代名詞は最も頻繁に使われることばの1つで、無視されがちだが、この1年ほどの間に性別を伴わない意味での利用が増え、オンライン辞書での検索回数も昨年比313%も増加した」としています。最近の辞書には、この用法が記載されるようになってきました。下は最新OALD第10版(2020年)の定義です。

used instead of he or she to refer to a person whose sex is not mentioned or not known : If anyone arrives late they’ll have to wait outside.

    英語で人称代名詞(モノ以外)の三人称単数といえば、「he」か「she」しか存在しない、というのが常識でした。けれども性別が多様化する現代において、さすがにそれでは不便すぎると感じる人が増えたようです。Merriam-Websterのオンライン英語辞典では、「they」の意味として、新しく「自分の性別をnonbinaryと認識している単一の人物」という定義が加わりました。この場合のnonbinaryは、男性か女性かの二者択一では分類できない中立的な性別のことです。つまり、LGBTの人などを表す三人称単数として「they」を使う用法が定着してきたのです。さらに、このようにtheyを三人称単数として使う場合、「自分自身」を意味する再帰代名詞はthemselvesでなくthemselfを使うことも多いといいます。それでも動詞はareと複数のままです。例文ではThey were in their late 20s.となっていて、They wasとはしていません。新しい認識を取り入れつつも、昔ながらの伝統的な文法にどこまで忠実になるべきか、ネイティブの人たちも苦労しているのかもしれません。

 カリフォルニア州バークリー市議会は、男や女の特定の性別に結びつく市の用語をなくしていく方針です。マンホールは「マン」と穴を意味する「ホール」を組み合わせた単語です。「マン」は男女を問わず「人」という意味でも使われるが、男性を指すこともあり、問題視されました。市の用語は男性的なものが多いが、「ポリスウーマン(女性警官)」など女性的なものも言い換えの対象になっています。「ヒー(彼)」「シー(彼女)」など代名詞は使わず、肩書や地位で呼ぶことも求めています。果たしてこのような“politically correct”な動きが、大きな意味を持つものなのか、私は個人的には疑問視していますが。♥♥♥

manhole→maintenance hole manpower(労働力)→human effort/ workforce  bondsman(保証人)→bonds-person  pregnant woman(妊婦)→pregnant employee      brother/sister→sibling

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