be willing toの誤解

 このbe willing to Vという成句の誤解については、私はここで何度も述べてきました。⇒「be willing to の語感」⇒コチラをご覧ください 「再びbe willing toを考える」⇒コチラをご覧ください  決して、私が高校時代に習ったような「喜んで~する」という意味ではありません。この成句は、やってもいい、異存はない、いとわない」程度の意味で、積極性は含まれず「本当はやりたくないけれど…」という気持ちを暗に示していますデイビッド・セイン先生は、be willing to …ifと、後ろにifの条件文がついていると考えるとよい、と的確なアドバイスをしておられました。

 ただ残念ながら、まだこの成句を「喜んで~する」意味だと誤解しておられる現場の先生方がたくさんおられます。自分が高校時代に習ったことを、何の疑問も抱かずにそのまま生徒に伝えてしまっています。ちょっと気をつけて英文を読めば、間違いに気がつくはずなのですが…。このような誤解はまだかなり現場に蔓延しているように感じています。in fact, be familiar with, after all などはその代表選手です。

 勝田ケ丘志学館では、英作文の授業に『アップリフト英作文 入試標準』(Z会出版)を使って指導しています。これは現場目線で、なかなかよくできたテキストで、基礎的なことから応用に至るまで、順序よく学んでいけるように配列がされています。ポイントの整理(POINTS)⇒並べ替え問題で確認(Step 1)⇒基本問題で確認(Step 2)⇒中級問題で演習(Step 3)⇒上級入試問題で仕上げ(Challenge)、と進んでいきます。昨年までは『システム英作文』(桐原書店)を使って指導していましたが(これも基礎から完成まで順序よく指導できる優れたテキストです)、今年はこのテキストに乗り換えました。英作文の指導で、私がいつも強調しているコツは、コチラに書きましたのでご覧ください。1回り目の演習が今日で終わり、次回からはまた始めに戻って、応用編へと演習開始です。今日の最後の課の頻出構文の問題の中に、大事なのは、君が喜んでその計画に参加してくれるかどうかだ」(立命館大学・改題)という問題があります。複数の生徒たちにこの問題に対する自分の解答を板書してもらうのですが、生徒たちは私の失敗談から何度もこのことについては注意を受けているので、What is important is whether you will be happy to join the plan/ whether you will participate in the plan happilyなどと書いてきます。しかし、問題集の「解答・解説」の模範解答では、「「The important thing is whether (or not) you are willing to take part in the plan.  ▲「喜んで…する」はbe willing to do…を用いる」とあります。誤解の典型的な解答です(先日はrespectableに関して問題点を取り上げました⇒コチラです)。現場で使われている数多くの参考書、熟語集が、未だに同様の誤りを繰り返しています。

 私が読書の際に集めた数々の用例からも感じられることですが、ネイティブ・スピーカーたちがこの表現にどのような感じを抱いているかは、次の証言からも明らかでしょう。

 I’m willing to help. willingも多くの日本人に誤解されている言葉です。辞書にもwillingの項には“喜んで、快く~する」という意味だけが掲載されていることが多いのですが、これでは説明不足というしかありません。be willing to…というフレーズが出てきたら、be willing to…ifと、後ろにifの条件文がついていると考えてください。例えば、I’m willing to help.の場合には、I’m willing to help if you let me use your car.(自動車を貸してくれるのなら、喜んで手伝いますよ)といった何らかの条件をネイティブは想定しながら話をしているのです。   ―デイビッド・セイン『ネイティブに嫌われる英語』(アスコム)

 辞書や参考書の中には、”be willing to do”は「喜んで~する」と書いてあるものがありますが、この表現にはそうした能動的な積極性はなく、「~するのは苦ではない」というニュアンスで用いられるのがふつうです。古い日本語に「~するのもやぶさかではない」という表現がありますが、それにぴったりなのが”be willing to do”なのです。 ―キャサリン・クラフト『先生、その英語使いません!』(DHC)

 私は、『ライトハウス英和辞典』(研究社)の編集作業の中で、M.アルトハウス先生(津田塾大学)の指摘で、このことに改めて気づかされました。そこで私は、『ライトハウス英和辞典』、「語法 be ready to…ほど積極的な気持ちはない:If you’d like me to go with you, I’m quite willing. (もしいっしょに行ってほしいのならお供してもいいですよ)/We were disappointed by the outcome of the election, but we’re willing to accept it.(我々は選挙の結果に失望したがそれを受け入れる気だ)」のような記述を残しました。be ready to と違い、自分から積極的にしたいというのではなく、特に反対する理由もないので同調の態度をとる時に用いる。ただしwillingが名詞を修飾する場合は積極的な意味を持つ」(『ジーニアス英和辞典』)中でも最も丁寧な記述は、尊敬する山岸勝榮先生の『スーパーアンカー英和辞典』(学研)に見られます。「(1)be willing to doは通例必要なこと・頼まれたことなどを他人の希望に添うようにするときに「してもかまわない」という意味合いで用い、積極的な気持ちは希薄。(2)be ready to doはそのような場合にも、自発的に快くやる場合にも用いる」という語法記事だけでなく、コラム英作の落とし穴  喜んで…します」として「喜んでお手伝いします」を(×)I’m willing to help you.という人がいる。willing は積極的な気持ちは表さず、手を貸すのが務めだから手伝う、くらいのニュアンスになる。ほんとうに「喜んで」という気持ちであれば、I’d be glad to help you.とする。」と懇切丁寧な注記が添えられています。

 さて、意味に関してはそれぐらいにしておいて、最近、赤野一郎先生古希記念論文集編集委員会(編)による『言語分析のフロンティア』(金星堂、2019年)という論文集を読みました。英語学、語法研究、辞書学、コーパス言語学など、学会を多岐にわたり牽引してこられた赤野一郎(あかのいちろう)先生の古希をお祝いするために編まれた論文集です。巻頭には、赤野先生の英語研究の歴史が「私の英語への旅路」というエッセイ(実は論文!)にまとめられており、面白く読みました。私も赤野先生の論文には若い頃からお世話になって、勉強させていただいております。その論文集の中に、衛藤圭一先生「Be willing toに関する意味論的・語用論的一考察」という実に面白い論文が掲載されています。みなさんにもぜひご一読をお薦めします。willとの意味的差異がwillingnessにあることを提示した上で、話し手の意思に積極性が見られないことを示しておられます。この成句の意味論を論じたものは幾つかありますが、「語用論」にまで踏み込んだ考察というところが、この論文の優れた点です。(1)交渉を有利に進める条件はif節と共起して表す、(2)全面的に納得できない要因はbut節と共起して表す、(3)疑問文の場合、控えめな依頼の意味はWould you be willing toという形式を通じて表す、という語法上の特徴が3点観察された、と結論づけておられました。これで、意味だけでなく、実際の場面での使われ方が明らかとなりました。

 ついでですが、willingly副詞になると、喜んで」という意味になることには注意しておきたいと思います。英語は一筋縄ではいかない、実に奥が深い。♥♥♥

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