小田さんのリメイク

 大好きな小田和正さんがかつて、『Looking Back』(1996年), 『Looking Back2』(2001年)で、昔の自分の楽曲をもう一度アレンジし直して発売し、話題になりましたね。このアルバムは単なる「セルフカバー集」とうたった企画盤ではなく、ましてやベスト盤でもありません。このアルバムは小田さんが「オフコース」時代のアレンジに納得いかなかったものを、もう一度自分なりに納得のいく用に手直ししたリメイク・アルバムなのです。タイトルである「Looking Back」(回想)に示されている通り、自らの過去の曲を振り返り、納得のいかない部分・別のアレンジができる部分を、悔いの残らないように修正したのです。実際、リメイクの出来に小田さんも満足していたようですね。「なぜ昔の名曲をあえて作り直すのか?」という質問に対して小田さんは、「純粋に音楽的な問題なんだ。楽器や録音機材の問題とか、まだ音楽的にいろんな方法論を持ってなかったせいで、サウンド面で納得できない部分が出て来ちゃったんだよ。あるいは「なんでこんな歌い方をしたんだろう?」っていうヴォーカル面での後悔とかね。要するに、自分の至らなさへの納得できない気持ちが、時が経つにつれて大きくなっていったってことだな。で、だんだんその納得できない気持ちを、なんとか解消したくなってきたんだよ。」と。例えば、名曲「僕の贈りもの」は、これまでのアレンジとは一転、子供たちの可愛らしいコーラスが印象的でポップなナンバーに仕上がりました。

 名曲として受け止める私たち聴き手と、作り手側である小田さん本人との間にこんな温度差があったとは、ビックリしたものです。ちょうど作家の井伏鱒二(いぶせますじ)が、名作「山根魚」のラストシーンを書き換えたのと似ています(理由は「だってかわいそうじゃない」でした)。あれは自分に対しての言い訳だから。やればもっとできたんじゃないかなっていうね。」「人生はやり直しがきかないけど、やり直せるならそうしたい、という想いから始まったんだよ。」と。高校時代は野球部で外野を守り、東北大学工学部で建築を専攻し、早稲田大学の大学院まで行った、理系の小田さんらしい言葉ですね。

 「もしこれが人生だったら、やり直そうにも、そんなことは不可能だ。昔、好きだった女がいたとしても、再び愛そうとしても、もうその女は、誰かと結婚しているかもしれないし。でも、自分の楽曲なら、誰にも口出しされずに、アレンジはおろか歌詞まで直してしまうことが出来るのだ。そこまでいったら、タイトルを変えたっていい。すごく嫌だな、この歌詞、嫌だな、というのは、あるんだ。あ、あの部分のアレンジ、嫌だな。すごく多い。その時は、それしか浮かばなかった。どう解決していいかわからなかった。でも、今なら…」小田さん。

 「そういや井伏鱒二が、何年か前、『山椒魚』のエンディングを書き直したんだよ。きっと、ずっと気になってたんだ(笑)。それを、批判した奴もいた。”できあがった作品に手を加えるなんて”。でも、作ったほうは自分の作品なんだし、そんな批判、関係ない。そもそも完璧な作品なんて、みんな作っていないんだから、どんな作家だって、”ここは変えたいなぁ”というのが、一つや二つ、あると思うんだ」  ―小貫信昭『Yes-No 小田和正ヒストリー』

 小田さんの気持ちは、本当によく分かります。私もたくさんの物を書いてきましたから、今ならもっとよく書けるのに、こうしたらもっと分かりやすく伝わる、という思いは常にあります。もしチャンスをいただけるのであれば、手直ししたい本もいっぱいありますから。でも全部が全部、リメイクがいいかというと、必ずしもそうでもありません。例えば、私が大好きな名曲「Yes-No」は、断然オリジナルのアレンジが好きですね。

 当時の小田さんの発言で、私がびっくりしたのは、彼の数々の素敵な歌の詩は、なんと「お風呂」で書くというのです。みんな風呂は体を洗ったり、チョット考え事をする場所ぐらいに思って、本格的に創造する場所とは思っていないかもしれないけど、自分が思っている以上に解放されるね。「今回はダメだろうな」と思っても、風呂に入るとなぜかサーッと書ける」とご本人。実は、私も論文や本や教材のアイデアは、お風呂で出すことが多いんです。八幡家自慢のパナソニック製お風呂で、のんびりと「ジャグジー」に当たりながら、ヒーリング・ライト」をつけて、温泉効果の「美泡湯」の中で瞑想にふけることがよくあります。そんなときに、不思議とひらめいたりするんです。私にとってお風呂は、アイデアの宝庫と言ってもいいでしょう。数年前、「ジャグジー」「美泡湯」がスイッチを入れてもウンともスンとも動かなくなり、修理に来てもらいました。ユニットごと交換してもらったので、とても高くつきました。「もうこのお風呂は製造していないので、部品もないから直せない、大切に使ってください」と釘を刺されました。以来、気をつけて優しく使っています。

▲八幡家自慢の「パナソニック」製お風呂

 文章を練るときに、最も名案が浮かぶのは「三上」であると、中国の昔、欧陽脩という人が言っていますね。すなわち、「枕上」(=寝ているとき)「鞍上」(=馬に乗っているとき、現代ならば通勤電車の中)「厠上」(=トイレで用便中)の三つです。これらには、「他にすることがなく体がゆるやかに拘束されている状態」(外山滋比古)という共通点があります。私ならば、これにお風呂で大発見をしたアルキメデスならぬ「湯上」(=お風呂)を付け加えたい気持ちですね。❤❤❤

【追記】 小田さんは去る9月20日に72歳(!)になられました。古希をはるかに過ぎてあの歌声。信じられません。あの高い声については、100年インタビューで「オリジナルに近い感じでファンは聞きたいわけだから、その期待は裏切りたくない」ときっぱり。キーを下げなきゃ歌えなくなったら、潔く身を引くのがいいなって、ぼんやり思っているんだけど」と、こだわりをのぞかせた小田さんです。質問は、引退にも及びましたが「へへへって書いておいてください」と照れ笑いでごまかしました。

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