先日、菅 義偉首相の酷評された英文に関して反論した際に(⇒コチラです)、2010年鳩山由紀夫首相(当時)の「loopy事件」に触れました。ご存じない方もいらっしゃるので、ここで再び取り上げることにしました。首相を辞めた後にも、国益に反する言動で、たびたびマスコミに取り上げられた政治家です。2010年には『ワシントンポスト』紙で、「ルーピー」(LOOPY)として取り上げられて、その意味するところをめぐって、ちょっとした論争になったことがあります。
鳩山由紀夫首相を、核安全保障サミットの「最大の敗者」であり、loopyと叩いたのが、米紙『ワシントン・ポスト』の著名コラムニストのアル・カメン氏でした。loopyというのは「クルクルパー」つまり「馬鹿な;狂った」という意味です。その後の電子版で、同記事で首相を批評した際に使用した「ルーピー(loopy)」という言葉は、一般的な「愚か」「変わり者」の意味ではなく、真意は「鳩山首相が現実から遊離している」という意味であると記しました。その一方では、当時の平野博文官房長官が「非礼だ」と不快感を示すなど批判が起こったことに対し、カメン氏が苦し紛れの釈明をしたとの見方もありました。果たして首相は「愚か」なのか、「組織の意思決定の輪から外れている」のか?どちらにせよ、当時の「鳩山元首相の状況を確かに言い表している言葉ではありました。評価されていないことだけは確かなようです。
カメン氏は、「ルーピー」(loopy)の意味について、「組織の意思決定について十分な情報を得ている、つまり輪の中に入っている状態とは正反対の意味」と説明しました。「in the loop:必要な全ての情報を踏まえている」という表現の対極にあるとして、「奇妙に現実から遊離した人」というのが真意だと言います。コラムでは、鳩山首相が国会の党首討論で「ポスト紙の言うように、私は愚かな首相かもしれない」と答弁したことについて触れ、「ルーピー」が日本で注目されていることを紹介。この単語を使ったTシャツが、日本で売られていることにも触れていました。カメン氏は、「ルーピー」を「輪の中に入れない状態」として使用していると主張しましたが、英米の辞書にはこの意味は出てきません。元々は「輪が多い」です。しかし、その元の意味から派生して出来たのが、現在最も多く使われている「癖がある」、「頭が変」や「正体のない」といった意味です。多くの場合は、少し頭がオカシイ人や癖のある人に対して使われます。英米の辞書の定義を見てみましょう。
●crazy or strange [LDOCE]
●informal slightly mad, crazy or stupid [CED]
●crazy, bizarre [Merriam-Webster]
大学の恩師・島根大、島根県立大の山田政美(やまだまさよし)名誉教授は、「ルーピー」の意味をカメン氏本人にメールで問い合わせました。「さまざまな辞書で調べてみたが、カメン氏の釈明通りの意味は発見できなかったので、新しい意味かも。ルーピーの意味を辞書で引くと、クレージーの意味が多かった。一番新しい辞書ではステューピッド(愚かな)の意味がありました」。山田先生は俗語研究の専門家で、英和辞典『リーダーズプラス』(研究社)などの監修にも参加しておられます。loopyは、1925年に初めて文献に登場することを確認。。「この新しい解釈を辞書に取り入れ、原稿を書き下ろしてみたい」と話しておられました。先生は大学では英語の社会言語学という講義を受け持っておられ、学生にもこの解釈を紹介するとのコメントを残されました。「コラムニストは言葉に敏感な方だと思います。言葉とは常に揺れ動くものであり、改めて難しいものだと思いました。」 山田先生はカメン氏に対し好意的でしたが、果たしてloopyの本当の所はどうなのでしょうか。♥♥♥