『越後・会津殺人ルート』

 大好きな西村京太郎先生の作品に、越後・会津殺人ルート』(講談社、1995年)という作品があります。この原作のあらすじは、以下のようなものです。十津川警部が容疑者として、逮捕・拘留されてしまうという珍しい作品です。


 5月3日の早朝、井の頭公園で若い女性の刺殺体が発見された。被害者は原田みゆき、近くに住むクラブホステスだった。初動捜査を担当した佐伯警部は、被害者の遺留品の中からスペーシアの切符とともにとんでもないものを発見してしまい仰天する。なんと、それは警察学校時代の同期・十津川省三警部の名刺だった。連絡を受けた十津川警部は、自らの名刺とともに発見されたスペーシアの切符に着目。亀井の制止を振り切り、被害者の背後関係を調べるために彼女の乗るはずだったと思われるスペーシアに乗車した。途中で列車を乗り換え、会津若松に差し掛かったころ、十津川のもとに女性の声で「今日は喜多方に泊り、明日は新潟周りで岩室温泉へ向かえ」という電話がかかってくる。被害者であるみゆきと十津川には面識がなく、彼女の捜査を始めた途端に謎の電話がかかってきたことから、十津川はこの殺人事件そのものが自分をおびき出す為に仕組まれた罠であったことを確信した。

 自分を会津におびき出すためだけに、人一人を殺した犯人の残忍性に憤りつつ、取りあえず謎の声の指示に従う事にした十津川警部。その日は東山温泉に一泊し、翌日に喜多方のとあるラーメン店で食事をしていたところ、女性カメラマンを名乗る渡辺ひろみという女性が接近してきた。女性が事件に関係しているのではないかとにらんだ十津川は、女性の行き先が自分と同じ岩室温泉であることを聞き出すとこれに同行。ところが、その夜なんと岩室温泉で渡辺ひろみが殺害されてしまい、その容疑者として十津川自身が身柄を拘束されてしまう。しかも、十津川の荷物の中から見覚えのないフィルムが発見され、それを現像してみたところ十津川が東山温泉付近の神社で一人の女性を絞殺する一部始終が撮影されていたのだ。慌てた福島県警が、渡辺ひろみが殺害された当夜に連絡を取っていた友人に確認してみたところ、なんと友人宅の留守電に「東山温泉で殺人を犯した男と再会した。男の正体は警視庁の十津川という刑事で・・・」というメッセージが残されていたことが判明する。こうして、【東山温泉で女性殺しを撮影された十津川が、口封じの為に目撃者をはるばる新潟まで追いかけてきて殺害した】という構図が完成してしまった。当然、敬愛する上司の連続殺人容疑を信じられない亀井刑事は、十津川班のメンバーを叱咤激励して捜査を開始。やがて、小坂井めぐみの背後関係から、十津川と因縁のある「とある人物」の存在が浮かび上がってくる。


 この作品は、1999年7月5日に、TBSの『月曜ドラマスペシャル』で、2014年3月22日に、テレビ朝日の『土曜ワイド劇場』で、2017年1月23日に、TBSの『月曜名作劇場』で、三度もドラマ化されています。以下に詳しく述べるように、原作とドラマの脚本は大きく異なり、相当書き換えられていることが分かります。このように、自分の書いた原作と大きく書き換えられてしまうので、西村先生は自分のテレビドラマは見ない、とインタビューに答えておられましたね。

●1999年版

『十津川警部シリーズ17・越後・会津殺人ルート』は、TBS系列の2時間ドラマ『月曜ドラマスペシャル』で、1999年に放送されました。主演は故・渡瀬恒彦さんです。

《原作との相違点》

早見明に相当する人物が、F1レーサーで仙堂肇の実子である仙堂明に変更されています。渡辺ひろみが十津川に接近してきた理由は、「十津川が暴力団と癒着している証拠を提供する」という匿名の告発を受け取ったからに変更。また、彼女は命を狙われるものの、殺害までには至らず十津川の良き協力者となります。一連の殺害の実行犯として、十津川と瓜二つの台北の殺し屋が登場し、十津川役の渡瀬さんが一人二役で演じています。

●2014年版

『西村京太郎トラベルミステリー61・越後・会津殺人ルート〜必ず相席する女!?』は、テレビ朝日系列の2時間ドラマ『土曜ワイド劇場』で、2014年3月22日に放送されました。主演は高橋英樹さんです。

《原作との相違点》

十津川が会津に向かう際の最初の行き先が、猪苗代温泉に変更されています。原田みゆきの名前が「原田由紀」に変更されており、殺害場所は隅田川となっています。渡辺ひろみの名前が「川合ひろみ」に変更されており、早見明と同じ児童養護施設の出身という設定が加えられています。また、渡瀬版の渡辺ひろみと同様、命を狙われるが殺害までには至っていません。小坂井めぐみの名前が「小坂井恵子」に変更されており、早見の起こした事故の目撃者という役割が割り振られています。十津川が福島県警に連行される場面では、十津川の妻直子がその場に居合わせていました。浦辺が「浦部」に変更されており、元刑事ではなく世田谷南署勤務の現職警部補。1999年版や2017年版のように十津川との深い過去の因縁はなく、一年前の交通事故の捜査で知り合っています。

●2017年

『西村京太郎サスペンス・新・十津川警部シリーズ 1「伊豆・下田殺人ルート」』は、TBS系列の2時間ドラマ『月曜名作劇場』で、2017年1月23日に放送されました。主演は内藤剛志さんです。

《原作との相違点》

一連の舞台が伊豆・下田方面に変更。それに合わせて、タイトルも『伊豆・下田殺人ルート』に変更されました。舞台変更により、小坂井めぐみが殺害された現場が東山温泉から、下田の竜宮窟に変更されました。十津川警部を逮捕したのは静岡県警に変更。原田みゆきの名前が、「原田美幸」に変えられており、殺害された現場も「板橋中央公園」となっています。渡辺ひろみが十津川をマークしていた理由が、「警視庁の十津川警部の本性はシリアルキラーだ、その証拠を提供する」という告発メールを受け取ったからに変更。また、原作とは違い、彼女は今回も殺害されておらず、十津川の殺人を目撃した目撃者として事件に関わってゆくことになります。十津川の所持していた、警視庁から貸与されていた携帯に内蔵されていたGPSの記録により、十津川警部の疑いが早い段階で一応は晴れています。小坂井めぐみの職業が、政治家などを相手とする高級コールガールクラブの取締役に設定されています。更に、中国人という設定も加えられています。早見明に相当する人物が登場しません。1999年の渡瀬版と同様に、一連の殺害の実行犯として十津川と瓜二つの殺し屋が登場します。同じく内藤剛志さんの一人二役です。

 このようにドラマ化したものを、原作と比べてみると、少しでも面白くするために制作側が苦心・苦労していることが見えてきて面白いものです。脚本家&プロデューサーが原作と微妙に設定を変えながら、ドラマを構築しているのが、上の3本の作品でハッキリと分かりますね。ドラマ化を許してしまうと、こんな風に原作とは似ても似つかぬ形に作品がねじ曲げられる(?)のを、作者の西村先生はどのようにお感じになっているのか、聞いてみたいところです。以前、西村先生はご自分の作品のテレビドラマはほとんど見ない、とおっしゃっておられました。次のインタビュー(西村先生と奥様)で、小さい頃の「お弁当」になぞらえておられるのが、実に興味深いと思いました。♥♥♥

日垣: 先生は、テレビはお好きですか。
奥様: 自分の作品は一切見ません。
西村: 嫌なんだ。
日垣: どのあたりを見たくないのですか。
奥様: 先生のご本の中には、あまり女性は出ていないんですよね。だけどテレビには 女性を入れないと絵にならないので、女性の刑事や、飲み屋のおかみさんが出るでしょ。だから、自分の作品と違うから見ないと。
日垣: 原作と違うというのは、やはりストレスになりますか。
西村: 小学生のときに、学校でお弁当を食べるでしょう。その時、手で隠しながら食べていたんです。それがずっと続いている。隠れて食べていたから、隠れて見ているんです。 自分の作品のテレビを見ているのを見られるのも恥ずかしいんですよ。見ていない 時の方が多いですけれどもね。なんとなく照れちゃうんだな。      ―日垣 隆「日本一有名な作家直撃・西村京太郎さん公開インタビュー」(2016年)

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