オンライン講演への質問事項

 2月27日(土)に行われた私のオンライン講演「2022大学入学共通テストに求められるチカラとは~大学入学共通テストの問題分析の報告と指導事例」(ラーンズ主催)に対して、チャットで質問事項が寄せられました。ご覧になった先生方のご参考になるかもしれませんので、私の回答を公開しておきますね。

(Q1)質問なのですが、新指導要領における主体的・対話的で深い学びを受験指導とどのように折り合いをつけているのかということ、また場面や状況を設定した読みをどのように実践されているのかということについて、具体的なアドバイスをいただけると幸いです。

 各県におけるエキスパート教員の実践授業を見に行かれたり、販売されている授業のビデオなどが参考になるでしょう。私は景山浩之先生(鳥取県立米子東高校)の、新しい指導観と受験指導の融合した授業を見せていただいて衝撃を受けました。福島卓也先生(鳥取県教育委員会)も新指導要領を生かしたチャレンジングな授業を展開されます。ただ最近の若い先生方の授業を見ていて気になることは、新指導要領で強調される形式を真似るだけで、肝心の英語の力がついていないことです。「一体今日の授業でどんな力がついたの?」と感じることが多いです。今後は、異なる場面、異なるジャンルの英文、資料・データの考察を伴う問題を読むことが対策となるでしょう。

 詳細な場面設定に関しては、「共通テスト」で新しく盛り込まれた特徴ですので、私もこれから考えなければいけません。ただセンター試験(本試・追試)時代から、問題の始めにリード文で場面設定が行われる問題もありましたので、そこをしっかり読むことでヒントが与えられることがありました。今回の「事実」と「意見」を区別する問題、本文の情報に基づいてその「先」を推測する問題、時系列でまとめる問題、メール、メッセージ、チラシ、ウェブサイト、掲示板、SNS、プレゼンのスライド・ポスターなどの問題は、現代の私たちの生活に身近な場面を想定した出題です。こうした問題をたくさん解くことになりそうです。討論したり、意見を書かせたりする発信型の授業、ディベート活動も同様です。コミュニケーション活動を念頭においた授業展開に関しては、白畑知彦・中川右也『英語のしくみと教え方 こころ・ことば・学びの理論をもとにして』(くろしお出版、2020年)が参考になります。

(Q2)ベネッセの方の説明ですと語数は2800→4200となっていましたが、先生の説明ですと4300→5500でした。どちらが正しいのでしょうか?

 本文のみをカウントしたものか、設問・選択肢の語数まで含めてカウントしたものかの違いです。重要なことは、どちらにしても1,000語以上(ほぼ長文2題分)の大幅な増加が見られるということです。読みの相当のスピードアップが必要です。「正確に」と「素早く」がキーワードとなります。

(Q3)「多種多様な文章や資料」に関して、英字新聞以外の「使える」資料にはどのようなものがあるでしょうか。投げ込みでの素材の確保に苦慮しています。

 講演中にも触れましたが、リトールドされた英語の読み物を図書館にたくさん揃えておき、できる生徒や興味を抱く生徒のプラスアルファの勉強に充てることも大切です。英検(英語検定協会のHPで3年分問題公開中)やGTEC(ベネッセ)の問題も役に立つでしょう。また、各年のセンター試験問題(本試・追試)や大学入試問題(国公立&私立)が宝庫です。センター試験の過去問は今回の「共通テスト」と非常に類似性の高い問題設定となっています。『大学入試問題正解』(旺文社)で気に入った入試問題を選び、それを『センターTEN』や『イグザム』(ジェイシー教育研究所)などのソフトで加工してストックしておくとよいと思います。私はこれらのソフトが登場する何十年も前からOCRを使って気に入った素材文をデータ化しており、数百本の読解素材のストックがありますので、これを使い回しています。その場しのぎではなくて、長い先を見通してこうした努力を続けていかれるとよいと思います。講演でも触れましたが、「伝記」ジャンルですと、Biography ONLINE(https://www.biographyonline.net/people.html)に素材文はゴロゴロと転がっています。これから出版される「共通テスト」の問題集も活用したいですね。

(Q4)センター時代は、全部読まなくても解ける問題があるけど、できるだけ一読はするように指導していました。2回は読む時間はないけれど。でも、今回、スキミング、スキャニングが必要かなぁと感じました。あるいは、スピードに慣れるため、TOEICを使ってみるとか。でもやはり集中して一読はすべきでしょうか?

 「共通テスト」の問題を見る限り、読まずに解くという考え方は危険です。スキミング&スキャニングを能率良く行うために「読みに強弱」をつけて読ませる指導が大切だと思います。そのためにも圧倒的な「語彙力」が必要です。多種多様な素材が出るということで、TOEICの問題集をやらねばならない、という動きがありますが、あまりオススメできません。テストの目的も質も異なりますから。時間が足りないから、小手先のテクニックで「問題を解く順番を変えれば何とかなる」という考えも甘すぎます。とにかく「語彙力」を鍛えて、読みのスピードアップを図ることが重要です。速読教材や、今後各出版社や模試会社から出てくる問題集を効果的に使いたいですね。

(Q5)「年間を通じた単語の演習」とは、具体的にどのような活動をどれくらいの頻度で行っていましたか。

 『音読英単語』(Z会)を用いて、毎時間授業の冒頭の5分間を使って小テスト(10問)を繰り返していました。「やりっ放し」ではなくて、「反復」が重要です。1回目は、見開き4ページを英単語の意味だけ聞く。8割(クラスによっては7割)取れない者は追試。得点を記録しておくことで、指導の目安になります。2回目のローテーションでは、英⇒日、日⇒英を聞く。綴りに関しては基本語・重要語のみを聞き、過去のデータから生徒たちが綴りを間違い易い単語のリストができているので、これを中心に聞く。3回目は範囲を1章に増やして意味だけを聞く。4回目は3章ずつに増やして意味だけを聞く。最後は全範囲にして聞く。こうやって何度も何度も繰り返しながら定着を図っていました。授業の中では、出てきた単語1つを取り上げて、重要な語根や接頭辞・接尾辞の意味にチョコッと触れておいてやります。後に同じ語根を含む単語が出てきた時に注意を喚起します。これを毎回続けていると3年間で相当の語彙力が身についていきます。もちろん3年間でどのようなアタマ・オナカ・シッポを指導するかは、計画表にしたがって1つずつ潰していきます。私の『英単語はアタマ・オナカ・シッポで攻略だ!』(2011年、自費出版)がその実践版です(データご希望の先生は私に直接メールでお申し込みください)。「ビンゴ」や「スクラブル」やその電子版「スクラブルフラッシュ」、あるいは「ダブレット」のような単語ゲームも折に触れて使ったりもしていました。最近出版された原島広至『英語解剖図鑑』(KADOKAWA、2021年)も、授業の単語ネタには格好の本だと思います。

(Q6)単語の小テストはどのようにされていますか?小テストの頻度とどんな問題で聞かれているかを教えていただきたいです。

 上で述べたような単語小テストを毎時間やっておりました。最初は意味だけ分かればそれでOK。習熟していくにつれて、綴りも聞く。ただし綴りを聞く単語は、生徒が間違い易い基本語に限る。そのために過去の単語小テストで生徒たちが間違えることが多かった単語のデータベースを作っておいて、その中から出題する。単語集に付属しているソフトで機械的に問題を作るのではなく、教師の目を加えて問題作成をすることも重要です。一度ひな形を作っておけば、アレンジしながら使い回すことができますよ。重要な点は、何度も繰り返すことで定着を図ることです。成果の出ない学校の共通点は、1回の「やりっ放し」で終わっている傾向が見られます。しつこく何度も何度もやることです。ある程度力がついてきたら、小テストではなく、授業の冒頭で全員を起立させ、教師が英単語を出題する。意味の言えた者から着席していく。全員が座ったところで、テキストに入る。これはクラスが盛り上がって効果絶大でした。

(Q7)質問ではなく私の悩みになりますが、ReadingのRewriteの時間が十分に取れないことにいつも苦労しています。恐らく学期のシラバス作成時の甘さにあると思うのですが・・・いいバランスを取れるようにまた工夫したいと思います。

 どこまでの力をつけたいのかという目標にもよるでしょうね。私は難関大学を目指す生徒を毎年指導しているので、授業ではReadingとListeningを相互に乗り入れながら、精読と「要約練習」までを要求しています。その場しのぎではなく、年間計画での位置づけが大切でしょうね。次の段取りで進めるよいでしょう。

本文の内容理解(要点)⇒音読による内在化(語彙・文法)⇒発話情報の選定⇒英語への変換(要約・自分の意見やその続きも書く)⇒発表

(Q8)リスニング⇔リーディングの効果的な指導法をもう少し詳しくお聞きしたいです。

 私は読解演習の総仕上げには、毎年数研出版の『Make Progress』という長文問題集を使っています。これはもともと東大寺学園で作られ、洛南高校で編纂された上級編の読解問題集です。英文読解に必要なスキルは全てこの問題集の問題を解くことで身につけさせることができるので気に入っているんです。かなり歯ごたえのある長文が取り上げられていますので、これをきちんと精読させ、英語を読むというのはどういうことなのかを身を以て生徒たちに示しています。筆者の思いの理解にまで踏み込むためには、「つなぎ語」や「句読法」(引用符やコロン、セミコロンなどの意味)まで指導しておきます。授業では、まず最初に音声を聞かせ、予習段階で自分が分からなかった英文を意識させながら聞きます。生徒がつまづいた部分に注意しながら、解説を加え、読み終えると、この読んだ英文を100字の日本語で要約をさせます。「要約」というのは最高の読解問題だというのが私の持論です。そして最後に出てきた重要単語・熟語を整理したプリントを配布して、生徒たちに確認をさせます。ここで終わりません。もう一度音声を聞かせ、自分が読めなかった箇所の英語が理解できたかを確認させます。意味の分からない英文をいくら聞いてもリスニングの力はつきませんが、いったん意味の分かったものを聞くと頭に入ってくるんです。内容のポイントをQuestion & Answerで再確認することもあります。そして最後に、英文に穴のあいたデクテーション用紙を配布して、聞き取りながら穴を埋めていきます。全部終わった後で、実際の入試問題の原典をやってみてもよいでしょう。私は長年この問題集を使っていますので、これらの活動に必要なワークシートを全て手作りして準備してありますので、毎年少々アレンジして使い回しています。教材は作るときには大変ですが、いったん作っておけば、次年度から簡単に使い回すことができますから楽チンですよ。

 今回の「共通テスト」のリスニング問題で言えば、第4問A,Bと第5問のワークシートを用いた問題などは、聞き取った情報をイラストや図表と関連づけてもう一度整理するという情報処理が求められていて、リーディングやライティングの指導とも関わってくるので、活用できるでしょう。

 与えられた情報を統合して答えを導き出すというプロセスは、リーディング、リスニング共に共通して求められている力ですから、リーディングの演習がリスニング対策に繋がる部分も大いにあると思います。読解は読解、リスニングはリスニング、という授業ではなく、こんな形で、相互に乗り入れる形態の授業が力がつくようです。私の43年間の経験に基づく観察です。

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