古畑任三郎

 民放のドラマ「警部補・古畑任三郎」シリーズなどに出演し、多くのテレビ・ドラマで活躍した俳優の田村正和(たむらまさかず)さんが、心不全のため、東京都内の病院でお亡くなりになりました。77歳でした。ニヒルな二枚目で、私生活をベールに包んだミステリアスなスターでした。大好きな、いい役者さんでした。

 田村正和さんは京都で生まれ、父親は往年の大スター阪東妻三郎さん、兄の高廣さんと弟のさんも俳優という、役者一家の中で育ちました。昭和36年に映画「永遠の人」で俳優として本格的にデビューし、その後、テレビ・ドラマを中心に活躍して、「眠狂四郎」のような時代劇でのニヒルな剣客の役や、「うちの子にかぎって・・・」でのコミカルな教師役などで人気を集めました。2018年に眠狂四郎を演じた田村さんは、試写会を見て大きなショックを受けて、オンエアを見たくないと語ったそうです。「あんな顔じゃだめですよ」とこぼし、自らの引き際を悟り、表舞台から去って行きました。「オレは自分が思っている、そして見る人も思っている“田村正和”という役者を演じているんだ。田村正和を演じられなくなったらオレは辞める。最近は、顔に張りもなくなってきて、みんなが思っている田村正和ができなくなってきた」という美学を語っていました。見事な引き際でした。

 数ある作品の中でも、三谷幸喜さんが脚本を務めたドラマ「古畑任三郎」シリーズでは、完全犯罪をもくろむ犯人を、徐々に追い詰めていく刑事の役が、当たり役となりました。このドラマ、ミステリー好きの私は、はまってしまい毎週見ていました。12年間続きましたね。田村さんの代表作、「古畑任三郎」シリーズは、フジテレビで平成6年から放送されました。企画を担当した石原 隆取締役は、「『古畑任三郎』の企画を始めたとき、真っ先に名前が思い浮かんだのが田村正和さんでした。収録が始まり、飄々と、そしてねちっこく犯人に迫っていく古畑任三郎を演じる田村さんを見たとき、やはりこの方にお願いして良かったと思ったのが、つい昨日のように思い出されます。田村さんなくして、あのドラマはありませんでした。この度の訃報に接し、とても残念な思いでいっぱいです。謹んで哀悼の意を表したいと思います」とコメントしていました。

 このシリーズで共演した西村まさ彦さん(部下の今泉慎太郎役)は、「『古畑任三郎』でご一緒させていただいたことは私にとって飛躍の大きなきっかけとなりました。作品、役に向き合う真摯でストイックな姿勢。多くのことを学ばさせていただきました。田村さんには感謝の気持ちでいっぱいです。お元気でいらっしゃるだろうかと、時折思うことがありました。生きていてくだされば、ただそれだけでお話しする機会もあっただろうにと残念でなりません。心静かに、ご冥福をお祈り申し上げます」とコメント。

 この番組は1クールで終わる予定だったと言います。三谷幸喜さんが脚本を担当しており、セリフが異常に長い。しかも独特の言い回しなので、覚えるのに時間がかかる。なのに、三谷さんの台本が出来上がるのが遅い。演技に完璧を求める田村さんにとって、これは「役者哲学」に反することです。「もう二度と出ない!」とオカンムリだったそうです。後には田村さんも古畑が面白くなっていったようです。あそこで、終わっていたら、今の「田村正和像」はまた違ったものになっていたかもしれません。

 「古畑任三郎」は、『刑事コロンボ』で知られる「倒叙もの」と呼ばれる形式で、ストーリーが進行していきます。これは、犯行の様子の全容をまず最初に見せておき、刑事の古畑任三郎が真犯人とのやりとりから容疑を固め、最後には自供に追い込んでいくというパターンです。犯人は(ストーリーの中の世界で)有名人や社会的地位の高い人物が多いのも、『刑事コロンボ』と同様です。これにより、視聴者は「誰が真犯人なのか?」という興味ではなく、「真犯人をどうやって追い詰めるか?」という点に注目が向けられることになります。犯人が最後までわからないストーリーでは、犯人役に大物俳優を迎えることが難しいのですが(だって配役だけで視聴者に誰が犯人が分かってしまいますものね)、この手法を取り入れることにより、大物ゲストを無理なく犯人役に迎えることができるようになっており、実際、ゲストには大物人気俳優が多数登場しています(中森明菜、堺正章、菅原文太、明石家さんま、木村拓哉、風間杜夫、津川雅彦、玉置浩二、江口洋介、緒形拳、松本幸四郎、イチロー、松嶋菜々子等々)。

 また、終盤の解決篇の直前には画面が暗転して、古畑が視聴者に向かって「挑戦」する構成が私のお気に入りでした。これは、アメリカのテレビ・ムービー『エラリー・クイーン』からの借用です。脚本担当の三谷幸喜さんは少年時代、東京12チャンネルで放送されていたこの番組の大ファンだったことから、この形式にこだわったのでしょう。私も高校生の頃、エラリー・クイーンにのぼせて、国名シリーズ、XYZの悲劇などを読み耽ったものです。最後の方には、「読者への挑戦」というコーナーがあり、それまでの手がかりをヒントに犯人を当てようとするのですが、だいたい裏切られたものです。心より御冥福をお祈りします。♥♥♥

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