「さだまさし 原点への旅」

 6月5日(土)16時、テレビ東京系ネットで、テレQ開局30周年記念特別番組さだまさし「原点」への旅 が放送されました。久しぶりに見応えのあるテレビ番組で釘付けになりました。テーマは、いま明かされる、さだまさしさん若き日の苦悩―“父親以上”と慕う恩人の足跡と、十七音の句に秘められた思いをたどる旅です。さださんの歌の原点がまさにここにありました。番組内で、2021年3月18日に「八女ハーモニーホール」で開催された、「さだまさしアコースティックコンサート」の様子が紹介されました。「あの時、健吉さんが支えてくれなければ、多分ここまで長く歌ってこなかった」さださんが語る、知られざる“どん底時代”を救った恩人、文芸評論家・山本健吉のメッセージとは?そして、健吉最初の妻・石橋秀野が残した壮絶な句(「蝉時雨(せみしぐれ) 子は担送車に 追ひつけず」)が、69歳のさださんの現在(いま)と静かに共鳴します。美しい名曲にのせ、歌手・さだまさしの「原点への旅」がスタートしました。ナレーションの岩崎宏美さんはデビュー以来46年以上さださんのお世話になっており、さださんのことを「お兄ちゃん」「生き神さま」と呼ぶほどです。番組を通して素敵なナビゲーター役を務めておられましたね。

 3月18日のさださんのコンサートの数時間前、さださんは八女市の「無量寿院」で行われていた文芸評論家・山本健吉さんの三十三回忌法要を訪れていました。法要には町をあげて多くの人が参列。山本さんはさださんと同じ長崎県出身なんですが、父親の実家があった八女市のこのお寺が菩提寺となっています。本来ならば三十三回忌は去年の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、今年ようやく開催の運びとなりました。山本さんは1988年5月7日に81歳で死去。娘の石橋安見さんは現在79歳で、山本さんとさださんは家族ぐるみの付き合いをしていて、安見さんのことを「お姉ちゃん」と呼ぶほどの仲です。

 3月18日、福岡・八女市の小さなホールで行われたこの日のコンサートで、さださんは八女市ゆかりの文芸評論家・山本健吉さんの三十三回忌法要のことを話題にしていました。さださんは山本さんとの友情の証としてコンサートを開催。山本さんはかつてさださんをどん底から救った恩人です。もうひとり、さださんの人生に影響を与えた女流俳人の石橋秀野さんがおり、33歳で亡くなった彼女の最期の俳句が、さださんの胸を打ちました。彼女の俳句には俳人の夏井いつきさんも絶賛。実は、石橋さんは山本さんの一人目の妻なんですが、山本さんは生前このことを周囲には一切明かすことはありませんでした。

 さだまさしさんは、誰もが知る名曲を残し、これまで開催したコンサートは、何と4474回(日本一の記録)。いまでこそ大人気を博していますが、彼ほど世間から叩かれた歌い手も珍しいと思います(大借金は別として)。私は若い頃から、ずっとさださんを応援し続けていますから、その一部始終を目撃してきました。「精霊流し」「暗い」「無縁坂」「マザコン」「雨やどり」「軟弱」「関白宣言」「女性蔑視」と批判され叩かれました。「防人の詩」では「右翼」「好戦的」とレッテルを貼られました。「しあわせについて」「左翼」と真逆の批判を受けたこともあります。その他にも、「いい子ぶっている」とか、「夏・長崎」を始めた時には「選挙に出るのか!」と、さんざんの叩かれようでした。よくもまあこれだけ言われたものです。当時を振り返って、2017年の雑誌『Oriijin(オリイジン)』春号で、さださん自身が回想していました。

 絶望?いや、そりゃもういっぱいありますよ。例えば、20代のときに『さだは暗い』と言われた時期とか。右翼の街宣車が、僕の『防人の詩』を流して走り、原爆の日近くに、広島の野外コンサートに出たら、日和見って言われた。僕は真ん中に立っているだけなのに、『お前はどっちなんだ?いいかげんにしろ』って(笑)。

 世間の評価というものを理解するのに、僕は結構な時間がかかった。自分が有名になるっていう恐ろしさも経験して、3~4年かかったんじゃないかな。個人を平気で叩いて、叩いた人は叩いたことを忘れるっていうメカニズムがなかなか理解できなかった。その間、人を恨みもし、呪いもし、怒りもし、悲しみもし…最後は笑えるようになったけど。多かれ少なかれ、みんなが経験することだね。人を疑い、怒りを覚え、自分自身で悲しむ―でも、それを抜けると笑える。そこまで行けるかどうかじゃないかと、僕は思う。

 上に出てくる「防人の詩」は、『二百三高地』という東映の戦争映画で、しかも勝った戦争の主題歌を歌ったことで「右翼的」だというレッテルを貼られました。歌もちゃんと聞かずに、「防人」というタイトルだけに反応して、「戦争賛美」「好戦的な右翼思想だ」と短絡的に批判されたのでした。この歌のどこが「戦争を賛美」なんでしょうかね?「本当に、ちゃんと聴いてくれたの?こんな反戦歌、他にないでしょう」と思ったさださんです。さださん自身は「いまの緊迫した世界情勢の中で、日本という国を愛するたった一人の“人間”として『自分の中の万葉集』『自分の中の防人の歌』というつもりでつくりました」と述べ、「いさなとり 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ」(万葉集)という歌に触発されて作ったと言います。いわれのない批判だと思いつつも、「これが伝わらないところでやっていてもしょうがない」と、あまりのひどさに、同郷の文芸評論家・山本健吉先生に弱音を吐きます。「僕なんか、たかが歌だと思っているんですが、人格まで非難されるんですね」―山本先生は、「いや、詩歌というのは、そういうものなんだよ。自分の人生観を賭けて歌を歌ってるわけだから、そういうことを言う人がいるのは当然のこと。ただ君は、もういなくなった人を歌うのが非常に上手だ。「精霊流し」も「無縁坂」にしても、あたかも亡き人を謳っているかのような、そんな印象を受ける。「みるくは風になった」も「防人の詩」にしてもそうだが、いなくなった人の歌を歌うのは、「挽歌」といって日本の詩歌の伝統であって神髄である。君は知ってか知らずか、心のどこかで日本の詩歌の本道をちゃんととらえている。それでいい。君はまちがっていないんだから、何を言われてもやりつづけなさい。ひるむ必要はない。詩歌に生きた人は、そんなことでひるんだ人は一人もいない」と勇気づけてくださったのです。それを聞いてさださんは、肚をくくります。

 28歳の時に、映画「二百三高地」の主題歌のオファーが入りました。日露戦争を舞台に日本軍の壮絶な戦いを描いた映画で、音楽を山本直純先生が担当。人が殺し合う無残さ、悲しさを表現したいという舛田監督の思いも受け止め、「無常観みたいなものをひっくるめた鯨取りの歌にしてみようかと思った」との事。万葉集の鯨取りの歌は物悲しい諦めで終わるが、さださんはそこから一歩踏み込んだ未来への希望なら歌えると思ったと言います。一方で、当時は映画製作(「跳べイカロスの翼」)で多忙を極めていたため、曲作りは思うように進みませんでした。山本先生のマネージャーが新潟までやって来て、「今日いただかないと私は帰れません」と哀願するマネージャーに、30分ほどで、1節目のメロディと歌詞だけ書き上げて「メロディはこれで全てだが言葉は自分の中に伝えたい事はあるので、何回これをやるかだけ知らせてくれたら詩は後で書く、とにかくこれでいいか、何回使うか聞いてほしい」と預けたのです。翌朝山本先生から「6回!」とだけ電話があり、その後細かい所も相談し曲は完成に至りました。そうやって完成したのが「防人の詩」です。舛田監督はこの曲に深く感銘を受け、わざわざ歌を立てるシーンを足したくらいです。映画のヒットと共に、「防人の詩」は65万枚を売り上げる大ヒットを記録。一方でタイトルだけで戦争を賛美する歌だと勘違いした人たちから、「好戦的」「右翼的」などと猛烈なバッシングを受けました。それまでのヒット作も何かとバッシングを受ける事は少なくなかったこともあり、あまりに一方的な物言いに投げ出したくなる事もあったとさださんは振り返ります。

 「防人の詩」の歌詞は、山本健吉先生の指導に基づくものです。いわく「君はもういなくなってしまった大切な人を歌うことに長けている。もういなくなってしまった大切な人のことを歌うのは ”挽歌”といって、日本の詩歌においても大切な伝統なのだ。」などと伝えられ、それを残すべく作曲にあたったといいます。万葉集は挽歌を「死者を哀悼する詩歌」と定義づけて、“レクイエム”とも言い換えられます。さださんが歌う「精霊流し」もまた水難事故で亡くなった従兄弟への挽歌です。去年にもアフガニスタンで殺害された中村 哲医師に捧げる挽歌「一粒の麦~Moment~」を作りました。去年その母校である九州大学にて追悼の会が開かれ、400人以上の参列者が死を悼みました。中村さんは貧困層への無償の医療支援に取り組む傍ら、干ばつに悩むアフガニスタンに用水路などを建設、地域の発展に貢献してきました。ところが、2019年12月に武装集団に襲撃されて73歳で死去、その追悼会にはさださんも出演して同曲を歌っています。2人に直接の面識はない、それでも事件には衝撃を受けたといい、その衝撃を中村さんに捧げる歌に費やしたのです。さださんは、出会ったこともない人を歌うのに、当初は違和感を持ちながらも、それでも山本先生挽歌にまつわる言葉を思い出して「叱られても残すべき」と決意したと言います。♥♥♥

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