『特急ゆふいんの森殺人事件』(1)

 大好きな西村京太郎先生の平成2年の作品である『特急ゆふいんの森殺人事件』(実業之日本社)が、文春文庫より6月10日に新装版として出版されました。こうやって昔の作品が次々と再文庫化されるのは、西村京太郎人気が非常に高いことを物語っていますね。


 JR九州では、特定の区間を走る観光客向け列車を、それぞれ特別なデザインの車両で運行する地域それぞれのストーリーを持つ「D&S(デザイン&スト-リー)列車」と名付けて、今や九州各地で毎日走らせています。その先駆的観光特急列車として登場したのが特急「ゆふいんの森」でした。平成元年3月、博多から九大本線を経由して、大分別府との間を一日一往復する特急列車として運行を開始しました。当時、九大本線には急行列車しか運行されていませんでしたから、観光地・由布院への特急列車の設定自体が画期的なことでした。建前上は臨時列車の扱いでしたが、デビューの初日から二ヶ月以上毎日運行され、定期列車に準じた頻度で走っていて、当時のJR九州のこの列車にかける意気込みが窺えます。そのこと以上に異彩を放ったのは、この車両が斬新な姿だったことにあります。そのことを西村先生はこの作品の中で取り上げておられます。私が記録した写真とともにお届けしましょう。

 十六時二十分に、問題の列車が、4番線に到着した。
 三両編成の小さな特急列車だが、全体が、グリーン一色に塗られ、それに、
ゴールドのラインの入った車体は、橋本には、異様に見えた。
 最近、新しい車両が、次々に、生まれているが、その中では、変わりダネと
いえるだろう。
 色彩も特徴があるが、恰好も、日本の列車というより、アメリカの列車の感
じだった。
 前面には、ローマ字で「Yufuin No Mori」と書かれたプレートがついている
(中略)
 列車と同じ、グリーンの制服を着たコンパニオンが乗っていて、乗客を迎え
ていた。橋本は、「ゆふいんレディーズ」と書かれたバッジをつけたコンパニ
オンに迎えられて、車内に入った。
今、はやりのハイデッカー車で、床が高く、座席に腰を下ろすと、窓からの
眺めがよくなっている
 外観は、アメリカ風だが、車内は、アンティックで、天井の灯は、昭和初年
の頃の列車の感じだった。
 運転席が低く作られているので、先頭と、最後尾の車両は、展望車になって
いた

 この作品は、この特急列車が運行開始からわずか四ヶ月後の平成元年七月に、『週刊小説』(平成13年休刊)で連載が始まりました。西村先生は、九州に現れたこの異彩を放つオリジナル特急に強い関心を抱き、真っ先に取材をして、トラベルミステリーに仕立てて世に問われたことが分かります。すごいバイタリティーを感じることです。

 特急「ゆふいんの森」の車両は、この列車のみに使用する専用車両として誕生しました。昭和40年代に製造された標準型のディーゼルカーを改造したのですが、流用されているのは台車やエンジンなどで、車体はほぼ新造です。床を高くしたハイデッカー構造となっていて、窓が大きく、高い位置にある客席から進行方向へと去りゆく景色が眺められる展望車となっているのです。ビジネス特急通勤電車と違って、定期的な利用ができない観光列車は、リピーターの獲得とサービスの恒常的進化がなければ生き残ることは難しいと言えます。デビューから30年以上が経つこの列車が、今なお看板人気列車として名を連ねていることは驚異的と言えるでしょう。平成11年には完全な新造編成を増備して、現在三往復が定期運行されています。♥♥♥

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