『夜行列車殺人事件』

 西村京太郎先生のまだ初期の頃のミステリー『夜行列車(ミッドナイト・トレイン)殺人事件』(カッパ・ノベルス、昭和56年)を再読しました。「第34回日本推理作家協会賞」の長篇賞は、西村京太郎先生『終着駅(ターミナル)殺人事件』(カッパノベルス)に決まりました。非凡な着想と、奔放な空想力と、過去の推理小説の因襲や制約をものともしない大胆なストリー展開に、ただただ酔いしれるばかりです。その受賞後第一作となった書き下ろしがこの作品でした。

 四月吉日午前三時の爆破決行を予告する手紙が、国鉄総裁宛に届いた。一方、「国鉄全線完乗」を目指す青年が殺され、その腕時計のアラームが、爆破予告時刻にセットされていた。国鉄当局と連携して厳戒態勢をしく十津川警部ら捜査陣は、犯人の恐るべき計画を阻止できるのか? 時刻表トリックと、息をのむ展開!累計114万部を超える、本格推理サスペンスの傑作!この作品の初版本には、西村先生ご本人の「著者のことば」がカバーに載っていました。


 人びとが眠っているときも、鉄道は眠ることなく動き続けている。“夜汽車” “夜行列車”と呼び方は違っても、その独特の雰囲気に変わりはない。なぜか私たちは夜行列車に郷愁に似たものを感じる。夜の闇を引き裂いて疾走する列車に、一夜を共にする乗客は、ある種の連帯感を持つ。しかし、この列車が、したたかな犯罪者に狙われたらどういう事態が発生するだろうか?乗客は、乗務員は、そして国鉄当局は?私は夜行列車を舞台に、その攻防を、時刻表トリックを駆使して描いてみた。  ―西村京太郎


 「捜査一課の刑事というので、何となく、眼光鋭く、筋骨たくましい男を想像していたのだが、十津川は、どちらかといえば、物静かな、平凡な男に見えた」と描写される(第1章)十津川警部です。舞台は、昭和56年。国鉄分割民営化が昭和62年ですから、ちょうど国鉄解体へと動き出している頃ですね。この頃は夜の鉄路にも非常に活気があった頃で、作中にも「出雲1号」「富士」などの夜行列車が登場し、その他「はつかり11号、東京駅10番線ホームに停車する「オレンジ色を光らせた静岡行きの電車大社線」など、今はなき懐かしい列車や路線が数多く登場します。また、新幹線も東海道・山陽新幹線しか開業していなかったり、山陰本線も京都まで単線非電化だったりと、時代を感じさせられもします。

 物語の初め、国鉄に夜行列車とだけ書かれた投書が届きます。ところがこれだけでは何のことやらさっぱり意味が分かりません。翌日には午前3時の投書が届きます。益々意味が分かりません。そして次の日、爆破決行、その翌々日には四月吉日の投書が届きます。ようやく国鉄内部でも大騒ぎとなり、警視庁捜査一課の十津川警部が登場することになります。

 本書のトリックでは、出雲1号」「はつかり」をはじめとして、各地の列車や駅がトリックとして使われます。近畿地方のある駅もトリックに使われており、このトリックが明示された瞬間にハッとなりました。あまり書くとネタバレになってしまいますが、近畿圏、特に大阪、奈良、京都あたりの方でよくJRに乗る方なら、何かピンとくるものがあるかもしれませんね。私は、最近の戦争に傾倒した西村先生の作品よりも、初期の頃のコテコテの列車のトリック・アリバイトリックを盛り込んだ作品の方に魅力を感じています。

 推理小説好き、鉄道マニアという立場からすると、とても楽しめた作品でした。味のある「挿絵」と共に、なぜかその時代にタイムスリップしたような感じがしました(最近は「挿絵」の慣習はなくなってしまいました)。これも西村先生の導入のうまさ故でしょうか。私がこれまでに読んだ十津川警部シリーズでも、かなり面白い作品なだけに、渡瀬恒彦さん(歴代の十津川警部役者の中で一番好きなのがこの人)がご存命の頃に実写化されなかったのが返す返すも残念です。♥♥♥

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