cowardly attackは「臆病な攻撃」か?

 みなさんは、久野 暲・高見健一『謎解きの英文法 形容詞』(くろしお出版、2018年10月)はもう読まれましたか?この著者たちのシリーズ(全10冊)は、英語を勉強する者にとって、とても勉強になる良書です。私も長らく読んでいますが、興味深いテーマに関していろいろな発見がありました。みなさんにオススメしておきますね。さて、この本の最終章の第11章に、「テロリストの自爆行為はcowardlyか?」という実に興味深い論考があります。今日の話題はこのcowardlyという単語です。私たちの『ライトハウス英和辞典』(第6版、研究社、2012年)、『コンパスローズ英和辞典』(研究社、2018年)には「おくびょうな;ひきょうな」と載っています。

 例の「9.11」の卑劣極まりない自爆テロを指して、当時のジョージ・ブッシュ大統領が、cowardly”(臆病な?)と呼びました。その他テロリストたちの自爆テロを、今ではcowardly act / cowardly attackと表現することが定番となっています。最近では、アフガニスタンの自爆テロで、再びこの表現が新聞の見出しを賑わせています。本章では、テロリストたちの自爆行為が、自らの死を覚悟した「勇敢な行為」であるはずなのに、どうして「臆病な行為」(cowardly act)と呼ぶのかという疑問から出発して、実際に自爆行為をcowardlyと呼ぶのは妥当ではない、とする識者たち見解を紹介し、近年種々の辞典に「卑怯な」を挙げているのは誤訳だ、と結論づけています。実に面白い指摘でした。ただ、残念ながら、私は同意することはできません。

 著者たちは、この「卑怯な」という意味を初めて載せたのは、New Oxford American Dictionary(2001)  の“adj. lack of courage   ■ (of an action) carried out against a person who is unable to retaliate : a cowardly attack on a helpless victim” であるとしています。著者たちはこの副次的な意味(■)に噛みつき、近年の英和辞典に挙げられた「卑怯な」という訳語は「誤訳」だと主張するのです。果たしてそうでしょうか?

 私は、この主張には問題点が2つあると思います。まず第1に古くはH.W.Fowler, Modern English Usage(1926)に、すでにこんな記述があります。“The identification of coward & bully has gone so far in the popular consciousness that person & acts in which no trace of fear is to be found are often called coward(ly) merely because advantage has be taken of superior strength or position; such action may be unchivalrous, unsportsmanlike, mean, tyrannical, & many other bad things, but not cowardly” まさに、私たちの知りたい情報がはっきりと書かれているではありませんか!さらには、私の手元にあるThe Oxford American Dictionary and Language Guide(Oxford University Press, 1999)において、すでに上記の副次的な意味は収録されております。そもそも辞書に載る意味は、辞典編集部で用例やコーパスに基づいて、現実の語法を詳細に検討して掲載されるものです。私も辞典に関わっているのでよく分かるのですが、いい加減なものではないのです。したがって、オックスフォード辞典編集部が、この意味を掲載したのには、それなりの証拠の積み重ねがあってのことと推察されます。これがまず1番目の問題点です。第2に、「誤訳」と断じる前に、どうしてこのような副次的な意味が生じるようになったのか、そこら辺の経緯・背景を検討してみる必要があると思われます(「多義語」には必ず意味の関連が認められるんです)。そもそも正々堂々と真っ正面から立ち向かわなくてはならない強敵を前にすると、自分の無力・非力を痛感して、その敵に対して必要以上の恐怖感にかられ、まともに正々堂々と戦ったのではとうていかなわないので、それと誠実に向き合うことを回避しようとする気持ち(臆病)が働きます。その際、敵に対する恐怖感に駆られて怯えている人が取る態度としては、次の2つが考えられるでしょう:(1)勝負することそのものを避けて、敵から逃げてしまうこと(これが「臆病な」の意味です)、そして次が今話題としているcowardlyの意味ですが、(2)正々堂々とした勝負を避けて、敵を不意打ちしたり、騙し討ちしたりすること(これが「卑怯な」の意味です)です。ドイツ語のfeigeにもこれと同じような二義が存在するという報告もありますから、英語だけの現象ではないのでしょう。このことは、アメリカ英語だけに見られる現象ではないことは、先ほどのオックスフォード系辞典や、イギリス系のMacmillan English Dictionary (2009)が、語義の2として、“cruel towards someone who is weaker than you : a cowardly attack”と収録していることからも明らかです。大多数の辞典に未だに収録がない事実は、それほどこの語の「臆病な」という意味があまりにも明白過ぎて、話者にそれほど意識されていないのかもしれません。

 上のFowlerの本を、OED改訂の主幹であった故・R.W.Burchfieldが改訂増補したFowler’s Modern English Usage (Third Edition, 1998, Oxford University Press)には、上の記述にもう一歩踏み込んで、次のように出ています:

 Fowler (1926) pointed out that acts of violence and persons who committed them were often described as cowardly (reflecting the view of the person or persons attacked) even though courage and determination might well have been needed by the assailant(s). International terrorism in the period since the late 1960s has tended to draw the word cowardly into ever more frequent use in exactly the manner described by Fowler, that is in contexts in which innocent and unsuspecting persons are killed in acts of terrorism.

 “despicably mean, covert, or unprincipled”といった定義を挙げている辞典もあります。小島義郎(編)『ライトハウス和英辞典』(研究社)「卑劣な」の項に 「(卑怯な)cowardly」として、 「彼は卑劣な奴だ He is a mean [dirty; contemptible; cowardly]  fellow. 」という用例を挙げているのは、他の和英辞典と違い、卓見と言わねばなりません。

 実際の英語では、cowardly attackという共起関係が頻繁に見られます。テロ行為などがあった時の頻出表現です。最近もアフガン飛行場の自爆テロを、‘Cowardly attack’: Kabul airport scene of horror as 60 Afghans, 12 U.S. troops die/ ‘Cowardly attack‘: Hochul orders flags at half-staff Friday in wake of Kabul airport attack/ Schumer condemns ‘cowardly’ attack in Kabul that killed 12 U.S. troopsなどと、新聞の見出しが伝えていました。❤❤❤

  • ‘This man has carried out a cowardly attack on an elderly woman who he knew would not be able to defend herself.’

  • ‘This appears to be a premeditated and cowardly racially motivated attack.’

  • ‘This was a particularly cowardly attack, it’s the nastiness of the injuries really.’

  • ‘Saying it was ‘a cowardly attack by three on one, the Judge did acknowledge that no weapon had been used.’’

  • ‘Ours is the greatest city in the world and we will not be divided by your cowardly attacks.’

  • ‘I would urge the man responsible for the cowardly attack to come forward and admit the crime and face the justice which awaits him.’

  • ‘And Londoners will not be divided by this cowardly attack.’

  • ‘A cowardly attack on innocent civilians brought us an unprecedented level of cooperation and understanding around the world.’

  • ‘‘This was a very cowardly and unprovoked attack on a middle-aged lady going about her normal business,’ he said.’

  • ‘It was a cowardly attack for very little gain – they got a couple of tins of groceries and a few pounds.’

  • ‘My prayers and condolences are with those whose lives were tragically altered by the cowardly attacks.’

  • ‘This cowardly attack ended the life of ‘a loving, kind and gentle man’.’

  • ‘It is an horrific and extremely cowardly attack, which was totally unprovoked.’

  • ‘After the case she said the men behind the cowardly attack would have known there were children in the house.’

  • ‘What concerns me was they contained a cowardly attack on a local councillor.’

【追記】 coward(臆病者)という単語は受験指導でも重要な単語ですが、この単語に「cowウシが尻尾をまいて逃げる様子から」とさりげなく触れている竹岡広信『必携英単語LEAP』(数研出版、2018年)に感心しました。古期フランス語coe(しっぽ)からきた単語です。動物が両足にしっぽをはさんで逃げる情景が浮かびます。こんなウンチクをさりげなく盛り込んでくれているところが、他の単語集には見られないこの単語集ならではの特徴で、私が高く評価して英語好きの生徒たちに薦めている理由でもあります。♦♦♦

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