特急「はしだて」

 大好きな西村京太郎先生に、『猫と死体はタンゴ鉄道に乗って』(講談社ノベルス、2012年)という作品があります。あの日本三景の一つである天橋立」(あまのはしだて)が舞台となった推理小説です。あらすじは次の通りです。

 東京・谷中にある「カフェ猫」の主人が子猫とともに焼死体で見つかった。 事件直前にウエイトレスの野中弥生が「大江山 いく野の道の遠ければ まだふみもみず天の橋立」の歌を残して失踪したことが判明。 警視庁・西本刑事は、歌に詠まれた丹後に赴くが、聞き込み相手は一様に口が重い。 隠された過去に何があるのか? そして東京で新たな殺人が発生! 次なる殺害阻止へ、十津川警部も丹後へ向かう!!

 さて、天橋立に向かうには、京都駅から特急「はしだて」号に乗るのが一番便利なんですが、実に面白いことに、この特急「はしだて」号には、JR「はしだて」号と、北近畿タンゴ鉄道(当時、現在では京都丹後鉄道)の「はしだて」号の2種類があります。どちらも特急列車で天橋立駅まで行けるんですが、JRの方は電車で、北近畿タンゴ鉄道はディーゼル車です(同社が所有している車両は全てディーゼル車で、電車は一両もない)。昔はこの区間は全線が非電化だったのですが、天橋立駅までが電化されると、早速JRが、京都発の電車特急「はしだて」をこのルートに走らせました。西村先生の上の作品中でも、そこらへんの複雑な事情が説明されています:

 福知山から天橋立までが電化されたので、JRでは、京都から天橋立まで、特急「はしだて」電車を走らせることができるのだが、肝心の北近畿タンゴ鉄道は、全車両が電車ではなく、気動車(ディーゼル)である。せっかく電化したのに、タンゴ鉄道の特急「はしだて」は、電車ではなく気動車である。つまり京都から二種類の特急「はしだて」が、走っていることになる。(pp.86-87)

▲JRの電車特急「はしだて」 天橋立駅にて

▲京都丹後鉄道の特急「丹後の海」(右)隣に止まっているのがJR特急「はしだて」天橋立駅にて

 JRの特急「はしだて」天橋立駅までは行けるんですが、その先は非電化なので走ることができず、現在は天橋立駅が終点です。その点、北近畿タンゴ鉄道「はしだて」はディーゼルなので、天橋立駅の先までも行けるし、全線区間を走ることができるのです。TBSドラマで放送された、渡瀬恒彦さんが演じる十津川警部シリーズ「丹後殺人迷路」(1997年)では、北近畿タンゴ鉄道所属の、KTR8000形の最新車両「タンゴディスカバリー」号で運転されていましたね。現在は「京都丹後鉄道」となり、水戸岡鋭治(みとおかえいじ)先生デザインの最新特急「丹後の海」で運転されています。水戸岡ファンの私としては、この特急列車、どうしても乗ってみたかったんで、ようやく夢が叶いました。⇒私の詳しい乗車レポートはコチラです

 これは、京都丹後鉄道有の車両です。以前は「タンゴディスカバリー」という列車名でしたが、2011年3月から列車名が「はしだて」「まいづる」に変わりました。2015年12月に「丹後の海」車両へリニューアル。JR九州の「ななつ星」「或る列車」など、数々の列車デザインで知られる水戸岡鋭治先生が、このリニューアルを担当されました。丹後の海を描いた外観も内装も、本当に素敵な車両でした。この車両が定期的に米子駅に止まっているのを昨年から観察しています。今日も止まっていました。米子の工場で点検整備をやっているとのことでした。山陰線を走る特急だからでしょう。

 さて上記の作品に戻ります。天橋立でのこんな描写がありました。

 近くには、土産物を売る店が並び、その奥に、文殊の知恵で有名は文殊菩薩を
本尊とする智恩寺という寺がある。
 二人は、土産物店も、一軒ずつ、当たっていった。(中略)
 智恩寺でも同じだった。寺で働く人たちに向かっても、野中弥生の写真を見せ
て、同じことをきく。(中略)
 質問は主として西本が担当し、日下はあとで役立つかもしれないということで、
写真を撮りまくった。
 この後、二人は、天橋立がいちばんよく見えるという、高台にある展望台に向
かった。
 眼下に、天橋立の全景が見渡せる展望台は、それほど、広いものではなかった。
登ったところにも、天橋立の土産物を売る店がある。
 西本たちと一緒に、十五、六人の観光客が、展望台に登り、土産物を買ったり、
例の股覗きをしたりしている。長い台のようなものがあって、そこに上がって、
若いアベックが、股覗きをしていた。  (pp.55-56)

 みなさんは上の描写を読んで、何か違和感は感じませんか?「智恩寺」から「股覗き」の展望台のある「傘松公園」までは、観光船で阿蘇海を渡り、一宮乗船場まで12分かかります。さらに桟橋から歩いて籠神社の境内を通り抜けて、ケーブルカー・リフト乗り場である府中駅に行き、ケーブルカーと並行するリフトの好きな方に乗って向かうのです。「智恩寺」からすぐに向かえるような場所にはありません。もう一カ所、「股覗き」のできる展望台のある「天橋立ビューランド」へ行くにも、リフトかモノレールで上がっていきます。上の記述では、そこら辺の描写がすっぽりと抜け落ちているので、違和感をぬぐえないのです。渡瀬恒彦さん演じるTBS系十津川警部シリーズ『丹後殺人迷路』でも、十津川警部智恩寺から天橋立に行こうとして、亀井刑事から「天橋立の風景は傘松公園の展望台に行かなきゃ見られません」と教えられるシーンがありましたね。私もこのルートで「傘松公園」に登り、台に上がって「股覗き」をしてきましたよ。⇒私の詳しいレポートはコチラ  ❤❤❤

▲傘松公園から「股のぞき」

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