「いわゆる」はso-calledか?

 英作文の授業で、『システム英作文』(桐原書店)を使って演習をやっています。先日の授業で、「新聞はいわば社会の目であり耳である」という問題に対して、生徒が黒板に書いてくれた英語は下のようなものでした。

   Newspapers are, so-called, the eyes and ears of society.

私は大きくバツ(×)をして、これではダメだと言って、そのままにしておきました。次の時間に「なぜ大きくバツをしてダメだと言ったと思うか?」とフォローしました。私はいつもこんなふうに答えをその場で言わずに、次の時間にちゃんと調べているかどうかを確認するというやり方をとっています。以前の松江北高の生徒たちは、このような問いかけに対して、ちゃんと自分の間違いに向き合って、何がいけなかったのかを自問して調べていたものでした。忘れられないのは、自分の間違っていた理由と解決法をレポート用紙3枚にまとめて早朝に持ってきた生徒もいたぐらいです。最近は全然ダメです。私がいつも指摘している「やりっ放し」にしている生徒がほとんどになってきましたね。こんなところにも「低落現象」の一端を見ることができます。

 上の英語のどこがおかしいのか?が分からない生徒がほとんどです。次の時間に「so-calledは形容詞なので位置がまずい」と言ってくれた生徒がいましたが、名詞の前に置いても、これでもまだいけません。生徒達は使っている『音読英単語』(Z会)「いわゆる」と出ていたので、それをそのまま当てはめて使っていたのでした。語義をよく読んでみると、ちゃんと「〔形〕(本当かどうか疑わしいが)いわゆる」と出てはいるのですが、用例には、a so-called genius (いわゆる天才)/The boy is a so-called genius, but he is lacking in common sense.(その少年はいわゆる天才だが、常識に欠けている)とあるだけです。これだけしか書いてなければ、高校生にその正しい使い方は伝わりませんね。ここでは「▲世間ではそう思われているようだが、私は全くそうは思わない」くらいの注意書きは必要でしょう。ここがso-calledの特徴です。

 最近は、英和辞典も精度があがっていますから、正しい情報を提供してくれていますが、私の若い頃は本当にひどいものでした。so-calledという単語は「いわゆる」としか出ていませんでしたから、what we callwhat is called、as it were(この句がなぜ「いわゆる」という意味になるのかは、私がいつも生徒に尋ねる定番の質問です)などと一緒に覚えたものでした。毎日入試問題の長文読解演習を行っていますが、so-calledという表現がよく出てきます。生徒は何も考えずに「いわゆる」と読んでいます。しかし、so-calledは、日本語の「いわゆる」とは似ても似つかぬ表現です。そのことは、スティーブ・モリヤマ『イギリス英語は落とし穴だらけ』(研究社、2016年)にも、はっきりと指摘されています:

 十中八九、「皮肉」+「否定」のニュアンスが伴うため、初心者は使うべきではない表現の1つと言えます。
 残念ながら、受験に頻出の表現のようで、元来の意味だった「世間一般で言われている」「いわゆる」という意味で記憶してしまっている人が多いようですね。<暴発リスク>が高すぎるので、記憶のアップデートをおススメいたします。
 言葉というのは、時代の流れの中で「否定的な」意味が生まれると、たいていその原義では使われなくなります。なぜなら、他に選択肢があるなら、誤解されるリスクのある表現は誰でも避けて通りたいからです。
 それではどんな場合にso-calledは使えるでしょうか。例えば、大都市近郊の駅前で時折見かける「〇〇温泉」(なんちゃって温泉)は、とても温泉とは呼び難いお粗末なものが多い気がしますが、こういう場合はまさにso-called spasと表現することで皮肉を込めることができます。さらに発音するときにがたいso-called を強調すると、より一層皮肉のニュアンスが明確になります。また、いざというときには頼りにならない「晴れの日の友」(fair-weather friends)は、まさにso-called friendsと言い換えられます。(pp.20-30)

 最近の主な英和辞典の扱いを概観しておきましょう。ずいぶん進化しています。

●[しばしば軽べつ的]いわゆる,俗にいう,名前ばかりの(ライトハウス英和)
●自分はそうは思わないが,一般にそう言われているという意味で用いることが
多い(フェイバリット英和) ●実際にはその表現に当てはまらないと話し手が思っていることを示す(ウィズ
ダム
英和) ●軽べつ的に「その名に値しない」という意味を含むことがある(グランドセン
チュ
リー英和) ●多くの場合,軽蔑的ニュアンスを含む.what you[we,they]call, what is
calledにはそのような含みはない.科学論文ではso-calledは中立的な意味で使
れる.(ジーニアス英和) ●不信・軽蔑・不適切だという気持ちを込めて(小学館プログレッシブ英和) ●疑問・軽蔑の意を含む(オーレックス英和)

 英米の辞典には、ちゃんとそのことが明記されています。要は、筆者の「皮肉」がたっぷりと込められている(下線部参照)という点を意識することですね。♥♥♥

●used to describe someone or something that has been given a name that you think is wrong   ―Longman Dictionary of Contemporary English (Sixth ed. 2016)

●used to show that you do not think that the word or phrase that is being used to describe sb/sth is appropriate   ―Oxford Advanced Learner’s Dictionary(Tenth ed. 2020) 

●used for showing that you think a word used for describing someone or something is not suitable  ―Macmillan English Dictionary for Advanced Learners (2007)

●used to show that you think a word that is used to describe someone or something is not suitable or not correct  ―Cambridge Advanced Learner’s Dictionary (2013)

●commonly designated by the name or term specified expressing one’s view that such a name or term is inappropriate     ―Concise Oxford English Dictionary (Eleventh ed. Revised, 2008)

●You use so-called to indicate that you think a word or expression used to describe someone or something is in fact wrong  ―COBUILD Advanced Learner’s Dictionary (2018)

●(disapproving) used to show that you do not think that the word or phrase that is being used to describe sb/sth is appropriate   ▲So-called always expresses disapproval.    ― Oxford Learner’s Thesaurus : A Dictionary of Synonyms (2008)

●used to indicate a name or description that you think is not really right or suitable ―Merriam-Webster’s Advanced Learner’s English Dictionary (2008) 

●used when you think the word for describing someone or something is not suitable or correct    ―Longman Study Dictionary of American English (2nd ed., 2011)

●used to show that the words you use to describe someone or something are not correct Her so-called friends only wanted her money (=they are not really her friends).    ―Oxford American Dictionary for Learners of English (2011)

 

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