やまあらしのジレンマ

 今日のお話は「ヤマアラシのジレンマ」です。ヤマアラシというのは、全身が硬くて針のような鋭いトゲトゲの毛(約3万本)に覆われた小型の動物で、天敵から身を守っています。齧歯類に属し、見た目はとっても愛くるしい顔をしていますが、怒るとそのトゲが強力な武器になる、あの動物ですね。素手で触れようとすると怪我をしかねません。アメリカの精神分析医ベラックは、哲学者ショーペンハウウェルの寓話を引用し、現代人が陥っている傾向を「ヤマアラシのジレンマ」と名付けました。

 冷たい冬のある日「二匹のヤマアラシ」は、嵐にあいました。二匹は寒いので、お互いの体を寄せ合って暖をとろうとしたところ、くっつきすぎると「相手のとげが自分を刺し」痛いので離れました。逆に離れ過ぎると今度は寒さに耐えられなくなりました。またくっつくと痛い。そういうことを繰り返していくうちに、「お互いを傷つけない」「ほどほどに暖めあう」痛くも寒くもないちょうど良い適正な距離、しかもほどほどに暖め合うことができる間隔を発見しました。あとはその距離を保ち続けました。

 ヤマアラシが何匹か群れチームを作っていて、寒くなると身体を寄せ合おうとするのだが、くっつきすぎるとお互いの針の毛が突き刺さって痛い。逆に離れすぎると寒いから、痛くもない寒くもない適正な距離を保つようになる、というお話です。これは「距離感」について触れたお話です。くっつきたいのにくっつけない、離れたいのに離れられない、というジレンマです。人間同士の距離も、このヤマアラシの針の距離だというのです。離れすぎると孤独で不安です。くっつきすぎるとお互いに傷つけ合いかねません。これを「ヤマアラシのジレンマ」と呼んでいます。人には「居心地の良い適正な距離感」というものが存在します。「パーソナルスペース」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。人と人の距離感には次のような「4つの距離」が存在します。

■公共距離

人が利用する最も遠く離れた距離で、個人的な関係が成立しにくくなる距離です。「完全に他人」「嫌いな相手」「職場の重役」などにこの距離をとります。

■社会距離

個人的な用件のときは使いませんが、仕事場で同僚との距離としてよく使われます。積極的には話そうとは思わないけれど、関係維持のために話しておこうという相手です。

■個体距離

この距離は相手の表情を細かく見分けることができます。個人的な関心事を話し合う場や、私的な交渉の場で効果のある距離です。心を許している友人との距離です。

■密接距離

最も短い距離であり、恋人や家族以外がこのスペースに入ると不快になります。親しい友人が落ち込んでいるときに肩を抱いたりするのは、この距離に入っています。手と手が触れあうことが許されたり、お互い抱きしめられる距離です。

この距離を使い分けると、「対人関係」が上手くいくことが明らかになっています。

 ヤマアラシたちは「お互いにとって最適な距離」を見つけました。この姿勢は「ビジネス」にとってとても大切です。「一方的に自分の要求だけ」を押そうとしても上手く行きません。しかし一方で、「相手との距離をずっと取っている」となっても上手くいかないでしょう。特に営業であれば、「お客さんとの距離感」は非常に重要です。もちろんそれは「遠いより近い方がいい」に決まっています。前述の「個体距離」の距離感になれることが重要です。個体距離の相手からの情報に対して「警戒感」が薄れるからです。生物学的に言えば、本能で「安心できる相手」と認識視されている状態です。できる営業というのは「距離感」をつかむのが上手いですね。

 気をつけておきたい点が1つあります。必ずしも「自分が心地よい距離」=「相手の心地よい距離」ではないということです。先ほどのヤマアラシの話で言えば、「自分にはとげが刺さっていないけれど、相手にはとげが刺さっている」場合があるかもしれません。相手によって「距離を見極める」というのはとても重要です。仕事ができる人というのは、「無意識に距離を上手に扱っている人」と言えるかもしれません。人付き合いそのものとも言えますね。同じ相手でも「感情の状態」によって取るべき距離感は変わるでしょう。相手によって「針の長さ(痛いと感じる距離)」が違う中で、それぞれの距離感を覚えていって、適度な距離感を保って付き合うこと、つまり少しずつ近づいていき、相手が傷つかない体勢をお互いに学び、そっと優しく寄り添い合えるようになる、そんな技術を学ぶ必要があるでしょう。相手に依存し過ぎても良くないし、自己中心的過ぎても良くないということです。

 職場での「苦手意識」も、およそこのようなものだと思ったらいいと思います。「苦手意識」という鋭い針が、お互いを傷つけないだけの距離を保ちながら、生きるための「仕事」という大前提に立ち向かってゆきます。苦手な上司・部下とも共存する以外に道はないのですから、相手も生かし、自分も生きる道を探さなければならないのです。♥♥♥

 

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