渡部昇一先生のエピソード(14)~鉄砲撃ちの名人

 最近、私は松江北高補習科・勝田ケ丘志学館の生徒たちにこんな話をしました。私のお気に入りのネタなんです。

 鉄砲撃ちの名人に、ある人が「地面にいる鳥と、高い枝に止まっている鳥、どちらのほうが撃つのが難しいですか?」と尋ねました。すると、名人は、こう答えたと言います。「地面にいる鳥も、高い枝に止まっている鳥も、どちらとも撃つには同じくらいの集中力と技術がいる」 素人考えで見ると、地面にいる鳥の方が楽に撃てそうですが、実際に要する集中力と労力・技量は同じだと言うのです。つまり、一見難しそうな目標であっても、そこへ到達するのに必要な努力は、一見容易そうな目標とさして変わらないということです。逆に言うならば、一見たやすそうに見える目標も、難しそうな目標を達するくらいの努力が必要だということです。要するに、目標が高かろうが、低かろうが、必要な努力は同じだということなのです。ならば、高い目標を掲げたほうが得策ですね。

 このことは、チョット考えてみれば分かりますね。平凡な人生、平凡なサラリーマンとは言っても、会社では上司から、部下から、同僚からそれ相当のプレッシャーを受け、取引先からはいろいろと無理難題や苦情を持ち込まれ、家では家族の問題もあるに違いありません。リストラの心配だってあるでしょう。自分一人の身ではありませんんから、しっかりとした収入源も確保しなくてはなりません。これは特段楽でも何でもない、苦労の多い人生と言えるでしょう。では、一見すぐには叶いそうにない、大きな目標を持って生きていく人の場合を考えてみましょう。乗り越えなくてはならないことは、たくさんあります。しかしその達成感たるや、平凡な生活を求めていろいろなことに小突き回される人生よりも、格段に大きいものではないでしょうか。むしろ自分が本当にやりたいことのための苦労ですから、この方がやり甲斐や生き甲斐があるし、楽なのです。努力なんかまっぴらで楽な生き方をしたい、と言う人もいます。楽な生き方とは、本当に簡単で苦労知らずなのでしょうか?家事をやってみたら分かると思いますが、案外細々とした日常的なことで、心労に悩まされることになります。心労なく楽しく生きるのにも努力はついて回るものなのです。ならば高い目標を掲げて、それを目指して苦労するのは、自分で進んでやる苦労ですから、辛抱のし甲斐もあります。目標を達成した時の喜びも格別です。どっちみち苦労するのですから、ならば高い目標を持ったほうが得策だというわけです。

 人は、理想や目標を掲げ、それを目指して生きていこうとします。しかし、目標が高すぎて失敗するのではないか、という不安にかられたり、紆余曲折の中で目標を見失ったりしがちです。そんな時には、この「鉄砲撃ちの名人」の話を思い出すことにしましょう。一見難しそうな目標を持っても、実はそこへの到達はそれほど困難というわけではなく、逆に、簡単そうな道も楽々行けるわけではないということです。目標が高かろうが、低かろうが、必要な努力は同じだと思えば、一見難しそうな目標に対して、くじけることもなくなるでしょう。

 私は、若い頃に、故・渡部昇一先生の自己啓発本で、この印象的な話を読んで、ずっと教訓としてきました。私は毎年卒業生に色紙を頼まれると、「力を尽くして狭き門より入れ」(ルカ伝)と書くことにしているのですが、それと相通ずるお話です。新約聖書ルカ伝の一節で有名なものです。高校生のときに、アンドレ・ジイドの名作『狭き門』を読んだときに、扉に書かれているのを見て、いい言葉だなと思って長い間大切にしてきました。生徒に色紙を頼まれると、必ずこの言葉を添えるようにしています。災難は楽をして生きようとする輩を好む」(文覚)という言葉もあるくらいです。私は、「辛い道」「楽な道」があったら、躊躇なく苦しい方を選択することにしてきました。すると不思議なことに、後でずいぶん楽ができるんですよ。

 尊敬する渡部昇一先生が、「人生で一番大切なことを一つだけ挙げよ」と求められた時に、いつも口にされたのが、「できない理由を探すな!」でした。この言葉は、私の生き方に大きな勇気と指針を与えてくれました。どんなに困難なことでも、絶えず努力を絶やさない人には、不思議なことに、天の一角から「助けのロープ」が降りてくる、ともおっしゃっておられましたね(⇒コチラです)。私も今までにそんな体験を何度したことでしょう。どんなに苦しくても、できない理由を探さずに努力を絶やさず持続するなら、ある日きっと、「天から助けのロープが降りてくる」であろう、というものです。日頃、生徒たちにもこの生き方を強調しています。♥♥♥

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