「試し語」

 新刊の辞典を手にするたびに目が行く「試し語」(ためしご)なるものを、英語の先生ならみなさんお持ちのことでしょう。私はかつて教員になりたての頃、新刊の「和英辞典」を手に取るたびに引いていたのが「初夜」(しょや)でした。当時辞書の世界に巣食う「孫引き」という因習をまざまざと見せつけられた好例で、判で押したようにどの和英辞典もが、「bridal night」となっていたのです。ところが、当時私が新聞・雑誌や小説で出くわすのはいつも「wedding night」ばかりで、「bridal night」という表現には一度も出会ったことはありませんでした。辞典と現実の語法との乖離をまざまざと見せられた好例でした。

(1) I married a virgin, but I knew on our wedding nightthat sex was never going to be a breathless part of our lives.― “Ann Landers” Asahi Evening News, Aug.30, 1994

(2) On the wedding night, her parents expect to be able to show proof of her viginity. ―Time, Apr.2, 1979

(3) “Okay, Loren, get on upstairs. It’s not a good thing to keep a bride waiting on her wedding night. ― H.Robins, The Betsy.

(4) But I was eight when I witnessed Sharon’s wedding night, and discovered what IT could grow ITself into.  ―Anonymous, I.

 確認を取ったアメリカの辞書の老舗・メリアム・ウェブスター社の膨大な用例ファイルの中にも、bridal nightは一例も記録はありませんでした(当時のFrederick Mish編集長のご教示による)。故・ボリンジャー博士聞いたことがないとおっしゃっておられました。最近の和英辞典は、さすがにwedding nightになっていますが…。

 最近の私の「試し語」は、英語の副詞であることが多いようです。このことは2月26日の「オンライン講演」でも触れたところです。形容詞に-lyがついただけ、などとは一筋縄ではいかない難しさを抱えているんです。

▲2月26日の「オンライン講演」のスライドより

 私は、受験用の英単語集を選ぶ際も、「試し語」を使います。最近では、私は「relative」という単語を使っています。relativeという単語を、『ユメタン』などほとんどの単語集が挙げているように「親戚、親類」という訳語だけ覚えて済ませていると、困ったことになります。 ふつう日本語で「親類」という場合、「家族」に比べるとより距離があり、より広い範囲の人(「おじさん・おばさん」「いとこ」など)を指して使うものではないかと思います。「親類」の定義を国語辞典などで見てみると、

– 血筋や結婚など婚姻などでつながった人のうち、自分の家族以外の人びと
– おじ・おば、いとこやおい・めいなどの血縁関係や婚姻関係でつながりのある人で、別の世帯に属する人
-血縁や婚姻によって結びつきのある人

 私の大好きな『新明解国語辞典』(三省堂)「親類」には「おじ・おばやいとこやおい・めいなどの血縁関係や婚姻関係でつながりがある人で、別の世帯に属する人。「親戚」とも。」とあります。ここで「親戚」を引くと、「「親類」のやや改まった表現」と出ていました。

 かつて、トランプ大統領が来日した際に、面会した拉致被害者の家族会において、大統領はrelativesという語を、「娘、兄弟、母親」に関して使っていました。私が、その語義の正確さに全面的に信頼を置いている英英辞典のLDOCEでその定義を引いてみると、“a member of your family”と、あっさりしたものです。「family の一員・構成員」というそのものずばりの説明です。「親類」に限らず、「家族」にも relative が使えるということをはっきりと示していますね。 「relative=親類・親戚」ではないのです。むしろ「親族」の方が近いかもしれません。書店に並んでいる英和辞典の relative の項を引き比べてみたら、扱いには次のような違いが観察されます。
(1)「親類」「親族」「親戚」「身内」と、関係ありそうな訳語を並べた(だけの)もの
(2)「親類」とその同義といえる「親戚」しか書いていない辞書
(3)親・子・兄弟について使えることをしっかりと説明しているもの
(4)「親族」「身内」だけを載せ、家族や肉親について使えることまでは明記していない辞書

▲八幡が最も優れた受験単語集として薦める『LEAP』(数研出版)

 そんな中でも、次のものは特筆すべきと思います。

★relativeには家族も含まれる。(『システム英単語Basic』)
家族も含めて)親戚 a close relative「親、兄弟など」 a dsitant relative「遠い親類(大叔父など)」(『必携英単語LEAP』)

  hobby「趣味」と訳語を示すだけの単語集は論外です(⇒私の解説はコチラです)。少なくとも次の程度の説明は欲しいところです:「テレビを見るようなことではなく、知識・技術が要るものを言う」『システム英単語Basic』)   もう一つの「試し語」の例を挙げるなら、『ユメタン』などのように、「hospital=病院」としている単語集はアウトです。日本語の「病院」「hospital」と訳されがちですが、「hospital」とは、入院設備のある総合病院を指します。内科や眼科など単科の病院や個人病院は「clinic」と呼びます。「go to hospital」という英語表現には、手術や入院を伴うイメージがあり、大病や大ケガをしてしまったのだと周囲の人を勘違いさせてしまう可能性があります。また、「go to hospital」という英語表現だけでも、「入院する」という意味にもなります。風邪を引いてしまったときに診療を受けるのは、多くの場合「clinic」であると言えます。「医者に行く」という時の普通の表現は、go to the doctorです。最近、市立北九州大学の准教授のアン・クレシーニ先生が、このことを分かりやすくYouTubeで解説しておられました。⇒コチラです  私はこのアン先生「アンちゃんから見るニッポン」というブログ記事(⇒コチラです)を生徒たちに薦めています。日本語・英語の両方の言語で書かれているので、対比しながら読むと、日常英語の勉強、英作文のモデルとして、とっても役に立つんです。♥♥♥

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