4月6日に発売になった文春ムック『永久保存版 西村京太郎の推理世界』(文藝春秋、1100円)が届きました。2022年3月3日に逝去された日本ミステリー界の至宝、トラベル・ミステリーや十津川警部シリーズで知られる、西村京太郎先生の作家としての全軌跡をたどった一冊です。西村京太郎先生は、1930年(昭和5年)生まれですが、奇しくもその年は小説誌『オール讀物』〔文藝春秋)が創刊された年でした。1963年に「第2回オール讀物推理小説新人賞」を「歪んだ朝」で受賞し、メジャーデビューを果たし、亡くなる直前まで連載しておられた絶筆「SL『やまぐち』号殺人事件」(今夏発売予定)もまた『オール讀物』だったという深いご縁から、この追悼号は文藝春秋社で編集されました。
これまで数多くの作品がドラマ化された「十津川警部」シリーズをはじめ、鉄道(トラベル)ミステリーの分野を切り開いた日本ミステリー界の至宝・西村京太郎先生の偉大な足跡を振り返りつつ、まずは、ミステリー作家の赤川次郎さん、東野圭吾さんたちが「追悼の辞」を送ります。そして、綾辻行人さんと有栖川有栖さんが、西村作品の中からベスト5を選定する対談や、社会派ミステリーとして定評のあるデビュー作品「歪んだ朝」と、当時の選考委員である有馬頼義、高木彬光、水上勉、松本清張、各氏の選評も収録しています。その他、秘蔵の写真や、山村美紗さん、宮脇俊三さんとの豪華対談や、生涯647冊にわたる全著作リストなど、約60年にわたる西村先生の作家生活に、あらゆる角度から迫った一冊です。
中身を見てみましょう。まず巻頭には長年の盟友として、後輩として西村先生を敬愛する作家の赤川次郎さん(『オール讀物』2021年7月号の豪華対談は非常に面白かった。本書にも再収録)と東野圭吾さんからの「追悼の辞」が掲載されています。続いてデビュー時の選評が再掲載され、選考委員は何と有馬頼義、高木彬光、水上勉、松本清張という豪華布陣でした。もちろん社会派ミステリーとして今なお名作の呼び声高い「歪んだ朝」も全文掲載です。

さらに綾辻行人さんと有栖川有栖さんが、膨大な作品の中から自らの「ベスト5」を選びます。大ベストセラーとなった1978年の『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』以前、子供の頃から西村作品を愛読していた綾辻さんと、大学時代に夢中になったという有栖川さんは、どんな名作を掘り出してくれたのでしょう? 西村作品のファンはもちろん、これからの読書案内にもぴったりの偏愛トークが繰り広げられています。
そして『オール讀物』に掲載された読切短編の中からは、社会派サスペンスとして「美談崩れ」「見舞の人」、十津川シリーズからは「夜行列車『日本海』の謎」「事件の裏」の4本を掲載。いずれも読みごたえがある作品ですが、長編とはまた異なり、十津川警部の内面にも深く踏み込んでいきます。人間・十津川を存分に楽しむことができます。
▲豪華客船・飛鳥IIに取材で乗船
実はこの一週間前に、私は湯河原で西村先生とお会いしています。「来週、境港から飛鳥Ⅱに乗るんだよ」と、それはそれは楽しみにしておられました。
ほかにも鉄道ファンにはお馴染みの宮脇俊三さん、かつて京都で隣同士に住んでいた故・山村美紗さん(⇒私の解説はコチラです)、「聞く力」抜群の阿川佐和子さん、推理作家協会理事長(当時)の大沢在昌さんをはじめ、作家同士の四方山秘話や、日本ミステリーの歴史の中で西村先生の登場を見つめた北村薫さん、北上次郎さん、戸川安宣さんの座談会も掲載。西村先生の偉大な功績を改めて振り返ることができます。
▲山村美紗さんと西村先生
巻末には山前 譲さんの手による西村京太郎先生の「生涯作品全著作リスト」が掲載されています。その数は647作品。山前さんは、現在西村先生の最も良き理解者で、新刊に添えられる解説文を楽しみしている八幡です。この膨大な著作リストだけでもこのムック本を買う価値がありますよ。ぜひ永久保存版としてじっくり眺めてみてください。お亡くなりになった今も、先生の作品は次々と出版されています。♥♥♥
4月8日 『十津川警部捜査行 東海特急殺しのダイヤ』(実業之日本社文庫)
4月13日 『十津川警部殺意の交錯』(徳間書店)
4月14日 『十津川警部捜査行 わが愛、知床に消えた女』(双葉社)
4月21日 『私を愛してください』(集英社文庫)
5月11日 『飯田線・愛と殺人と』(光文社文庫)
5月12日 『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』(双葉文庫)
5月23日 『東京―金沢 69年目の殺人』(KADOKAWA)