「18番(おはこ)」

 もう時効だから書いてもいいと思いますが、その昔、島根県の高校入試問題を作っていたときに、英語の会話文問題で「18番」(おはこ)を取り上げて、この表現に困惑するアメリカ人に、日本人が四苦八苦しながら説明を試みる、という場面を出題しました。『広辞苑 第六版』によれば、「おはこ」とは、「①最も得意とするもの。得意の芸。②転じて、その人の癖」のことをいいます。語源について、同辞典では「箱に入れて大切に保存する意から。歌舞伎十八番を市川家が秘蔵芸としたことから「十八番」とも当てて書く」とあります。また、『語源海』によれば、「歌舞伎から出た語。特に演出などの秘伝書が秘蔵されている箱からの呼称」であり、「宛字の<十八番>は七代目市川団十郎が当たり芸を十八種出したところから」と出ています。『暮らしのことば新語源辞典』は、「十八番をオハコというのにも複数の説が見られる」としており、「「歌舞伎十八番」の台本を箱に入れて保存したから」という説のほか、「箱の中の品が真作であることを示すいわゆる「箱書き」から、すぐれたものと認定された芸の意をこめた」といった説が紹介されています。他にも、書や骨董品などの高級品は、鑑定士が箱に入れて、「これは本物ですよ」と署名したことから「御箱=本物の芸術」という意味になったとか。仏教の教えに由来するとか諸説いろいろあるようです。「十八」という数については、『歌舞伎辞典』の「歌舞伎十八番」の項に、①歌舞伎では特別の演目を十八番と呼んでいた、②総称・代表の意によるもの、③主人公の年齢との関係などの諸説が紹介されていますが、解釈は定まっていないようです。中でも有力なのは①です。

  江戸時代に、荒事芸を創始した市川団十郎家(成田屋)は、歌舞伎役者の家系の中でも「宗家(そうけ)」として別格の扱いを受けてきましたが、その7世市川団十郎(1791-1859)が、初世以来受け継がれてきた市川家の得意芸を18だけ選び出し、これを「歌舞伎十八番」(家の芸)として定めたところから出た言葉なのです(市川家の権威づけの為に、制定したという説もあります)。代々の団十郎によって、「勧進帳」「助六」など、この「歌舞伎十八番」の演目は大切に受け継がれて来た訳ですが、このことから、世間一般にも、得意芸のことを「十八番(おはこ)」というようになりました。

 問題作成をしていた当時は、島根県の中学三年生の受験生約3,000人の平均点を60点にするという目標があったんですが、見事に達成したのはいい想い出です。各小問ごとに予想平均点を設定して、微調整に微調整を繰り返して、問題を練り上げて完成しました。ものすごい時間と労力がかかります。現役教員の頃の、定期考査校内模試の作問も、このようにして、夜を徹して長い時間をかけて、入念にやっていたものですが、最近の実態を見るに、隔世の感があります。私が北高に帰ってきた頃は、定期考査で80点以上を取った生徒だけが個別添削指導を受けることができる、という不文律がありました。そのためにテストの平均点が必ず60点になるように作るという大目標を達成するために努力していたのを思い出します。自分の担当クラスの予想平均点を大問ごとに集計して、学年平均点をあらかじめ算出して、試験結果と照合して、反省。校内模試も理想的な正規分布にするために、平均点43点になるように、長い時間をかけて夜を徹して問題を練り上げていたものです。最近は……?それにしても、50万人以上が受験する「共通テスト」で、平均点37.96点の数学ⅠBはいったいどうなっているのか?私の常識ではあり得ないことです。問題作成委員会はいったいどんな検討をやっていたんでしょうかね。♥♥♥

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