追悼「再婚列車殺人事件」

 3月14日、15日、16日の3日間、3月3日にお亡くなりになった国民的作家・西村京太郎先生を追悼する特別番組が、テレビ朝日2で特集されました。その一日目は「終着駅殺人事件」(1981年)「再婚列車殺人事件」(1982年)の二作品でした。後者の主演は緒形拳さん。相手役は大谷直子さん。準主役の亀井刑事役は故・愛川欽也さん、十津川警部役は故・三橋達也さんでした。このドラマは、鳥取県米子市が舞台となっており、あの出雲大社(島根県)も出てくるところから、地元西村ファンの私としては忘れることのできない旧作品です。原作の小説は「再婚旅行殺人事件」で、短編集『蜜月列車殺人事件』(1982年)に収録されました。

 3年前、亀井刑事は井村尚子と知り合った。 鳥取に犯人が逃亡したという情報を聞き、十津川警部、亀井刑事、清水刑事は、鳥取に飛んだ。情報どおり、犯人は現れたが、女性を人質に取った。だが、鳥取県警の刑事達の協力により、犯人はあっさり逮捕されてしまった。その人質の女性は、とりあえず、病院に運ばれた。名前は、井村尚子と言う。尚子は、夫の井村正義と別れたが、3年後、よりを戻そうと正義が言ってきた。二人は再婚旅行と称して、急行「さんべ3号」に乗り込んだ。急行「さんべ3号」は、途中の長門市駅で二手に別れる。そして、下関駅で再び一つの列車になる。一度別れてもう一度くっつくという事で「再婚列車」と呼ばれているらしい。二人は、その列車と同じように、二手に分かれた。が、尚子の乗っている「さんべ3号」の方で、殺人事件が発生!しかも第一発見者は尚子。捜査線上に浮かび上がった容疑者・夫は、その時間帯に山陰本線経由の列車に乗っていたことが分かった。容疑者はどうやって、美祢線経由の列車内で被害者を毒殺したのか?亀井刑事は、再び、尚子と会う事になった。 井村正義と尚子は、再婚旅行をやり直そうと、もう一度、山陰の方へ向かった。 だが、そこで今度は、井村尚子が殺されてしまう!! 夫は別の列車に乗っていた。一体犯人のねらいは・・・・?

 急行「さんべ」は、1961年に関西方面と山陰方面を結ぶ列車として誕生しました。列車名の「さんべ」は、沿線の名山「三瓶山」に由来しています。当初は列車名も漢字の「三瓶」だったといいます。その後「さんべ」の名は、1968年に山陰方面と九州方面を結ぶ列車に転用されました。新しい「さんべ」は、山陰本線経由、美祢線経由、山口線経由の3つのルートを走る準急列車を統合して格上げした列車でした。急行「さんべ」は、米子駅熊本駅・小倉駅・博多駅を結ぶ列車が仕立てられ、夜行列車と日中を走る列車がありました。山陰方面は、鳥取発着へ延長された時期もあります。分割した列車を再び併結する列車は、昼間に設定された1往復でした。この列車がこのドラマの舞台となります。

 この作品中、急行「さんべ3号」は、7両編成で鳥取から博多までを走る急行列車です。2号車はグリーン車になっています。鳥取を午前8時26分に発車した7両の急行「さんべ3号」は、途中長門市駅で二つに分かれ、前より1号車~4号車までは美祢線経由、後より5号車~7号車は山陰本線をひた走るのです。二つに分かれた急行「さんべ3号」は、別々の線を走り、再び下関駅で一緒になり博多まで行く、別名“(離婚)再婚列車”とも呼ばれています。この列車を舞台にした殺人事件が展開します。

 急行「さんべ3号」鳥取を午前8時22分に発車。山陰線を西へ進み、長門市(山口県)に午後3時半に着きます。この駅で同列車は「離婚」。グリーン車を含む編成は、同3時36分に発車し美祢線~山陽線へ。残りの編成はそのまま山陰線をひた走り、同5時17分に下関に到着します。その3分後、美祢線を回ってきた編成が追い付いて、晴れて「再婚」を果たすのです。いったんは分かれて別々になった列車同士がその後再び一緒になる、このユニークな運行形態を「再婚」に喩え、「再婚列車」と呼んだのです。再び元の「さんべ3号」に戻った列車は、関門トンネルをくぐり、終点の博多に同6時51分に到着します。この「分割、再連結」という運用は1985年まで実施されたといいます。急行「さんべ」は、長らく山陰地方と九州方面を結ぶ急行として、運行区間の延長と短縮、運行本数の削減、夜行列車の臨時列車化など、時勢に合わせて運行形態を変化させながら、1997年に日中の定期列車を廃止。1999年に臨時の夜行列車も完全に廃止されました。「再婚列車」というこのユニークな名称は、あくまで鉄道好きのマニアの間で言われていただけで、現地で実際にそのように呼ばれていたわけではありません。いったんは別れながら、相手を待たせることなく再会する「さんべ」の絶妙な運行ダイヤを可能にしたのは、長門市-下関の距離にあったようで、調べてみると、山陰線直行が77.7キロ、美祢線回りが79.8キロと、ほぼ同じ距離なんですね。

 原作は、西村京太郎先生「再婚旅行殺人事件」(『別冊小説宝石』1981年5月)です。先生はこの作品が収録された1982年刊の『蜜月列車殺人事件(ハネムーントレイン)』の「あとがき」において、「長谷川章さんの『鉄道面白事典』が、簡潔で、しかも面白いので、ときどき参考にさせていただくのだが、山陰本線に、「さんべ」という面白い急行が走っているのを知ったのも、この本からである」として、次のように執筆のきっかけを告白しておられました。

 途中で切り離して、別々の場所へ行く列車は、よくあるのを知っていたが、いったん分かれて、また、一緒になって、終着駅へ走るというのは知らなかった。この、いわば再婚みたいな列車のことを、『鉄道面白事典』で知って書いたのが、「再婚旅行殺人事件」である。(西村京太郎)

▲私は2016年7月に西村先生を湯河原にお訪ねしました

  「再婚列車」内で起きた謎の殺人事件で、現場に残された白い封筒に、完全犯罪の秘密が隠されていました。アリバイ崩しの見本みたいな作品でしたね。実際のドラマ作品内のクレジットでは、愛川欽也さんがトップに表記されていましたが(出番も一番多い)、新聞欄では緒形 拳(おがたけん)さんがトップに表記されることが多かったようです。もう全部故人となってしまいましたがね。今回ゲストで出演した緒形 拳さんと、主演の愛川欽也さん、島崎喜美男監督は、ともに俳優座養成所の研究生として同じ釜の飯を食った仲だそうです。ドラマ中に、米子市の観光地・皆生温泉「皆生グランドホテル」が出てきて、私も小さい頃よく行ったので懐かしく思い出しました。出雲大社も事件のカギを握る舞台となっています。♥♥♥

 さて、西村先生が去る3月3日にお亡くなりになって、追悼作品が次々と公刊されています。先日ご紹介したムック『西村京太郎の推理世界』(文藝春秋)が一番のオススメです。⇒私の紹介記事はコチラです

▲西村京太郎先生の全軌跡をたどる一冊 全著作リストが貴重!

 ネット上では、「追悼西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(1)~(10)」も公開されています。⇒コチラです  今日は今井書店において、『小説宝石』4月号(光文社)の中で、推理小説研究家の山前 譲(やままえゆずる)さんが追悼文を寄せておられるのを見つけました。山前さんは、現在西村京太郎作品の最も良き理解者・研究者で、再刊される西村先生の文庫本を私が再び全部買うのは、この人の解説を読みたいがためです。『小説NON』5月号(祥伝社)にも、小梛治宣(おなぎはるのぶ、文芸評論家・目黒日本大学学園理事長)さんの追悼文が載りました。さらに西村先生のご逝去を偲んで、各社から十津川警部の短編集も矢継ぎ早に発売されています(写真下)。お亡くなりになってからも、相変わらず熱狂的な西村京太郎ファンの八幡です。♥♥♥

 しかし、十津川警部は終着駅に立ってしまった。実に残念である。しかし、その終着駅にいたるルートは西村作品のなかに数多くある。未知のルートを辿るのは楽しいに違いない。(山前 譲)

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