京都駅二つの日本一

 2010年の京都大学の二次試験の英語問題に、次のような「和文英訳」が出題されました。京都大学の英作文は一筋縄ではいかず、いかに和文和訳をしながら日本語を読み替えていくかがカギとなります。この問題もそこがポイントになってきます。京都大学の入試問題の英作文は日本語との格闘を要求しているのです。英語の試験にもかかわらず、「日本語力」が問われています。専門性と思考を深めるための道具として「母語」の重要性を伝えようとしています。発信力はもちろん大切だけれども、「その前にもっと必要なものがあるでしょ?」というメッセージだと私は感じています。


 子供のころには列車での旅行というのは心躍るものであった。年に一度、夏休みに祖父母の家に行くときには、何時間も列車に乗ると考えただけでわくわくした。今では長距離列車を見ても、子供のころのように気分が高まることはないが、大きな駅のホームに日本各地に向かうさまざまな列車が並んでいる光景は鮮明に覚えているし、発車の瞬間の独特の高揚感を思い出すこともある。


 私はこの問題を、JR京都駅のホームを思い浮かべながら解説をしました。古都の玄関口である京都駅。JR各線をはじめ、近鉄や京都市営地下鉄が乗り入れ、1日平均約60万人(新型コロナウイルス禍前)が行き交う関西有数のターミナル駅です。空中径路や大階段が人気スポットとなり、駅そのものが観光名所となっています。西南戦争が起こった明治10(1877)年に開業し、今年で145周年。この歴史あるJR京都駅(現在4代目)は、他の駅には見られない「日本一」が二つもあることでも知られています。(1)日本一長い0番ホームと、(2)最も数字の大きい34番ホームです。

▲空中径路

 京都市内を南北に貫く烏丸通を市中心部から南下し、正面に見えてくるのが、近代的なたたずまいの京都駅です。中央口から改札を抜けると、すぐ目の前に0番ホーム(現在全国で40ほどの駅に0番ホームがある:長崎駅、盛岡駅など)。主に北陸方面に向かう「特急サンダーバード」が発着しますが、朝は琵琶湖線などの新快速も発着します。0番ホームに立つと、2~10番までのホームは臨めるんですが、なぜだか1番ホームだけが見当たりません。そう、京都駅には1番ホームが存在しないのです。

▲京都駅0番ホーム。主に北陸方面へと向かう「特急サンダーバード」が発着する

 平成4年、駅ビル工事の一環でホームを拡張した際に、「運転番線」の改訂が行われたことが原因です。「運転番線」は、運転士らが職務上使う番号で、ホームの有無にかかわらず線路ごとに付けられています。京都駅では、JR東海が管理する東海道新幹線の11~14番線の数字は、JR西日本は動かせないという事情があり、JR西日本の在来線11本の運転番線を10以内で収める必要がありました。そのために、0~10の数字を割り当てたのです。

 一方、ホームの方は、1からの番号が振られており、この時点では1番ホームは存在していました。ただ、ホームは1番だが0番線が通るという矛盾した状態で、混乱を招いたことから平成14年、ホームも0番に変更されたといいます。さらに0番ホーム(323メートル)は、その先に続く30番ホーム(235メートル)と一体化され、全長558メートルとなり、日本一の長さを誇ります。東端から西端まで歩くと、831歩、5分43秒もかかります。新幹線のホーム(400メートル強)よりもずっと長いのです(在来線の列車28両分の長さ)。では1番線はどこに行ったのでしょうか?実は0番線と2番線の間にある貨物列車や回送列車の専用通過線路で、ホームが必要でない線路だったのです。

 その後、山陰1番ホームの名称は30番ホームに変更され、ほかの山陰線のホームも31~34番ホームとなりました。これはJRが言葉遊びをして、山陰線の31番ホームの「さんいん」という発音に「31」という数字を充てようとして、それ以前の数字を飛ばしてしまったのです。ここで、もう一つの日本一が誕生しました。京都駅には0~34番のホームがあります。ただ、15番から29番までは空白で欠番となっており、実際にあるホームは19本だけなんですけどね。34番は嵯峨野線(山陰本線)の降り場専用という珍しさもあります。「のりば」数字ではなく、実際に最も多くのりばが存在するのは、東京駅です。在来線が1番から10番、東海道新幹線が14番から19番、東北・上越新幹線が20番から23番と全部で20ホーム。地下にも、在来線のホーム総武・横須賀線の1番から4番、京葉線の1番から4番、合わせて8つの「のりば」があります。合計すると「28」で、単独の駅としては日本一です。

 旅情をかきたてる京都駅は、たびたび小説やエッセーなどにも登場しています。駅や列車を舞台にしたトラベルミステリーといえば、3月にお亡くなりになった作家、西村京太郎先生です。京都駅の0番ホームは、作品タイトルにもなったほどです。平成22年に当時の角川書店から出版された『京都駅0番ホームの危険な乗客たち』(写真右)おなじみの「十津川警部」シリーズの一つとして人気があります。

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▲京都駅の二つの日本一とは?

 暗号めいた新聞広告をもとに、要人に復讐を企てる犯人グループが京都駅0番ホームから寝台特急に乗り込んで計画を遂行し、十津川警部が事件を解決していきます。小説で0番ホームは、当時運行していた大阪と青森、札幌を結ぶ寝台列車「日本海」「トワイライトエクスプレス」が発着する場として描かれました。ほかに京都駅を題材にした西村作品は、京都駅爆破を脅迫する犯人と十津川警部たちとの行き詰まる攻防を描いた『京都駅殺人事件』(光文社)があります。⇒私の解説はコチラです  ただ、長年にわたり京都を拠点に執筆活動をしていた西村先生にしては、京都駅をテーマにした作品は意外に少ないんです。♥♥♥

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