「ハウステンボス」身売り?

 衝撃的なニュースが飛び込んできました。旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が、長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」を売却する方向で調整している模様です。「2度あることは3度ある?」「ハウステンボス」の「身売り」はこれで3回目です。このニュースの前に、「ハウステンボス」の歴史を振り返っておきましょう。私は今までに三回「ハウステンボス」を訪れています。

 「ハウステンボス」は総開発面積が152haと、国内最大の単独テーマパークです。この広大な敷地は江戸時代に干拓された新田で、太平洋戦争時に海軍が接収し、海軍兵学校分校を開設。戦後は復員兵を受け入れる厚生省佐世保引揚援護局が置かれた後、陸上自衛隊針尾駐屯地となりました。1957年に同駐屯地は廃止され、長崎県に払い下げられ、県は「針尾工業団地」として造成したものの、工業用水不足などで企業誘致が進まず、空き地のまま20年以上放置されました。そこで県は長崎オランダ村(長崎県西海市)にテーマパークの開設を依頼して、同社が受け入れて1992年3月に「ハウステンボス」を開業しました。

 2,000億円以上をかけてハリボテではない本格的な街づくりを実現したテーマパークだっただけに、バブル崩壊後の開園にもかかわらず入場者は多く、1996年度には380万人にも達しました。が、立地の悪さに加え、代わり映えしない施設内容から、その後は年々減少に転じ、2001年度の入場者は293万人と300万人を切ります。私も開業時に、松江南高校英語科のみんなと訪問していますが、あまり強い印象はありませんでした初期投資負担が重かった上に、メインバンクだった都市銀行が金融大再編前に債務処理を迫られたこともあり、ハウステンボス運営会社の資金繰りが急速に悪化して、2003年2月に2,289億円の負債を抱えて会社更生法の適用を申請し、事実上倒産しました。

 テーマパークとしての営業は継続し、野村ホールディングスのベンチャーキャピタルである野村プリンシパル・ファイナンスをスポンサーとする再生計画案が認可され、同社が「ハウステンボス」に110億円を出資して、2004年4月にリニューアルオープン、経営再建に乗り出します。当初は韓国や台湾、香港、中国などの海外旅行ブームに乗ってインバウンド集客に成功しました。しかし、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融不況の影響で、インバウンド客が激減。テコ入れ策はいずれも起爆剤とはなり得ず、活気のないテーマパークからさらに客足が遠のくという負のスパイラルに陥り、2009年3月期には約27億円の営業赤字を計上し、2010年3月、出資分を回収できないまま、野村プリンシパル「ハウステンボス」の支援から手を引きました。

 そこに登場するのが、旅行会社HIS澤田秀雄社長です。実は、ハウステンボス」への経営支援の打診は2004年頃にもありました。しかし「ハウステンボス」のある佐世保市は、雨が多く、周辺の商圏人口も少なく、それでいて、広い園内には空中電線が1本もないほどの過剰投資がなされていて、その維持にかかる経費は多額に及びます。テーマパークとしてはきれいな街ですが、「最悪」とも言える条件下にあると思ったので、支援は断わっています。その後、2010年には、佐世保市朝長則男市長から再度、支援の要請を受けます。朝長市長は地元出身で市議や県議を務められて佐世保市長に就任した人です。それだけに、「ハウステンボス」の再建はご自身にとっても大きな課題と考えていました。とはいえ、一度断わった2004年当時同様、最新の価値評価でも苦しい状況はまったく変わっていませんでした。特に、年々老朽化が進む設備の維持・更新費用は年間20億円と推定され、財務状況を考えればやはり再建は難しいと思われました。何より本社HIS経営幹部も強硬に反対したこともあり、2度目のお断りを入れます。そして、秘書には「次のアポイントメントは絶対に受けないように」と指示しました。澤田さんは、3度頼まれるとノーと言えない」という厄介な性格があることを、十分に自覚していたからです。しかし市長は、どこからか「澤田社長は3度目は断らない」というこの“悪癖”を聞きつけたらしく、ある日突然、HIS新宿本社をアポなしで訪ねて来られて、しかも入口で澤田さんが出勤してくるのをじっと待っていました。その時も、テーマパークとしての条件が非常に厳しいと思いました。まずは過剰な設備投資です。「ハウステンボス」は東京ディズニーランドの約1.6倍の広さがあります。首都圏には3,000万人以上いますが、地元の佐世保市長崎市を足しても100万人にも満たない。市場に対して、規模が大きすぎるんです。そして長崎、特に佐世保は雨が多く、天候が悪いと入場者は3割ほど減ってしまうというのも躊躇する要因でした。

 そんな中、ついに澤田さんが重い腰を上げて、再建に乗り出します。経営再建を引き受けるにあたり、3年やってもダメだったら撤退する」と伝えていました。当初、HISの取締役全員を連れてきたときは、閑古鳥が鳴いており、人がいなくて寒々しいぐらいでした。それが見違えました。「ハウステンボス」は時代遅れの「石炭」だと思われていましたが、実は磨けば磨くほど輝く「ダイヤモンド」の原石だったのです。再建にあたり、澤田さんは、「ハウステンボス」内のホテルに住民票を移し、現場に来て、問題点を徹底的に洗い出そうと1年の半分以上は滞在していたそうです。誰が引き受けてもうまくいかなかったあの「ハウステンボス」がよみがえった要因については、澤田さんご自身が『運をつかむ技術 18年間赤字のハウステンボスを1年で黒字化した秘密』(小学館、2012年)で詳しく述べておられます。指導者のやり方一つでどうにでも変わる、という好例だと思います。(1)なぜ「万年赤字」で、誰が取り組んでもうまくいかなかった「ハウステンボス」の経営に取り組もうと考えたのか?(2)そしてどうやって立て直したのか?この2点に関して、澤田社長の解答が、『運をつかむ技術』(小学館、2012年)に見られます。

 九州財界からの強い働きかけに加え、60億円あった債務の8割を債権放棄した上で残る債務も地元企業が肩代わりして債務をなくし、佐世保市が固定資産税納付額に相当する再生支援交付金を10年間出すなどの条件で、澤田社長もようやく重い腰を上げたのでした。HISは2010年4月、集客数を増やすためにハウステンボス敷地の南側3分の1を無料で入場できる「フリーゾーン」(現「ハーバーゾーン」)として開放し、「ハウステンボス」とは無縁の企業による新規出店も受け入れました。すると開園以来18年間連続営業赤字だった「ハウステンボス」を、わずか半年で黒字転換してみせました。やはりトップが変わると、組織も激変するという好例です。澤田社長は、単なる経営再建だけでなく、約150haのおよぶ広大な敷地を“実験場”として活用し、新規事業の創出にも注力します。その代表例が、2015年7月には、HISが恐竜型ロボットが宿泊受付をする「変なホテル」1号店の開業。その他再生可能エネルギーに特化した電力販売「変なエネ」など、話題を集めました。

▲フロントは恐竜型ロボットの「変なホテル」

 そうした状況で、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴う非常事態宣言の発出などで、国内外からの観光客が激減しました。緊急事態宣言発令などに伴う56日間の休園や、人々の外出自粛などの影響を余儀なくされた2020年9月期は、入場者数138万6,000人と前年同期比で約半分にまで落ち込みました。売上高も113億2,200万円と半減したほか、営業赤字19億9,800万円、最終赤字24億3,800万円を計上し、HIS子会社となって初の赤字決算となりました。直近の2021年9月期も入場者数は127万7,000人とどまり、売上高114億4,000万円、営業赤字28億100万円、最終赤字21億4,600万円と、2期連続の赤字決算となりました。その後は新型コロナの逆風下にもかかわらず、入場者数を増やし、2022年3月中間期(2021年10月〜2022年3月)の連結営業損益は上期としては3年ぶりに黒字転換しています。

 こうしたコロナ禍の影響は、親会社・HISでも深刻です。HISの2020年10月期の連結決算は、コロナ禍での渡航制限などから、売上高は前期比46.8%減の4,302億8,400万円となり、最終赤字250億3,700万円となりました。コロナ前には売り上げの8割を占めていた海外旅行の需要が消失し、国内旅行も緊急事態宣言の長期化で大幅に落ち込んだことで、2021年10月期第3四半期連結決算では、売上高907億3,800万円(前年同期比77.4%減)、最終赤字332億1,700万円とさらなる苦境に陥っています。業績が悪化する中で、手元資金を確保して、財務基盤を安定させる一環となるのが、この「ハウステンボス」の売却です。

 これで3回目の「身売り」となる「ハウステンボス」ですが、開業から30年を経過した現在もテーマパークとしての集客力は保っています。香港の投資会社は買収後も営業を継続し、香港や中国からのインバウンド観光客誘致に取り組む見通しです。

 「ハウステンボス」の株式は、HISが3分の2、残りをJR九州などの地元企業が保有しており、各社は同時に株式を売却すると見られています。売却すると700億~800億円になると具体的な金額も明示しており、それがいよいよ現実味を浴びてきたかたちです。♥♥♥

 

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