ジョージ・ウィンストンの新作

 長きにわたって活躍を続けるピアニスト、ジョージ・ウィンストンの、前作『レストレス・ウインド』(2019年)以来、約3年ぶり第16作目のソロ・ピアノ・アルバム『ナイト』(2022年)がソニーミュージックからリリースされました。『ナイト』は当世きってのインストゥルメンタル作曲家であるウィンストンの優れた手腕により、毎日太陽が沈むたびに生活が始まる夜行性の世界を鮮やかに洞察しています。

 ジョージ・ウィンストンは日本では、アルバム『オータム』(1980年)に収録された「あこがれ/愛」(Longing/Love)が、1984年にトヨタクレスタのテレビCM曲に使用され、人気が爆発しました。このアルバムはいまだにロングセラーとなっています。昔、東京・NHKホールで、ジョージ・ウィンストンを初めて見た時の衝撃は、忘れることができません。およそピアニストらしくない容貌、頭は禿げて、髭もじゃ、Gパンに、よれよれのTシャツに、靴もはかずに靴下履きでステージに登場したのです。ピアノの足下にはタオルのような布が置いてありました。彼の説明によれば、「自分は演奏中に余計な音はみなさんにお聴かせしたくない。自分のピアノの音色だけを聴いていただきたい。」と、ぼそぼそと述べられました。演奏の前には、ぼそっと曲名だけを告げて即演奏に入る。ところがそのピアノの美しい調べと言ったら、もうただただ驚くばかりでした。その後、名曲「あこがれ・愛」が自動車のCM(トヨタ・クレスタ)に使われ大ヒット、彼の旋律が広く知れ渡るようになります。当時彼のピアノ・アルバムは、「春夏秋冬」季節毎に1枚ずつ制作・発表されており、のぼせて買い集めたものです(『オータム』『ウィンター・イントゥ・スプリング』『ディセンバー』『サマー』)。私は若い頃、辞典の作業で徹夜徹夜の毎日でしたが、部屋にこの美しい調べのCDを流しながら、書き込み作業をやっていた思い出があります。

 新アルバムにはウィンストンのオリジナル曲4曲のほか、レナード・コーエンの「ハレルヤ」、アラン・トゥーサンの「フリーダム・フォー・ザ・スタリオン」、ローラ・ニーロの「ヒーズ・ア・ランナー」、喜納昌吉の「花〜すべての人の心に花を〜」の見事なカヴァー他、異彩を放つ解釈を擁している。制作に20年を費やした『ナイト』は、ウィンストンがその典型的なパフォーマンスをフルレングスのスタジオ・アルバムという形にとらえ、暗闇を美のプリズムへと変えるという、待った甲斐の十分ある作品となっています。いずれも、メロディックな楽曲をやさしいタッチで聴かせる極上のヒーリング・ピアノは心の琴線に触れます。寝る前にぜひ聴きたいピアノです。

 紛れもなく誰もが知る名前、ジョージ・ウィンストン。彼はその唯一無二のソロ・アコースティックピアノの楽曲でファンやミュージシャンにインスピレーションを与え、1,500万枚以上ものアルバムを売り上げてきました。ウィンストンの音楽はすべての人の心を揺さぶり、恒久的に忙しい生活から一歩引いて、心の赴くままに彷徨い冒険する機会を与えてくれます。ウィンストンのその高名なキャリアの50周年を記念する新作が、この『ナイト』です。

ジョージ・ウィンストンのコメント:

 『ナイト』は5ヶ所のスタジオで録音した曲をまとめたものなんだ。夜にしか起こらない自然の驚異というものがある。『ナイト』は基本的に真夜中から午前7時までの間に時計を合わせているんだ。暗闇の時間が1時間過ぎるごとに、夜明けの始まりが近づいてくる。太陽の光は日中ずっと地球に降り注ぎ、海や森を温め、地球の住民の多くを目覚めさせる。そして日が沈むと、夜行性の動物たちが夜の活動のために目覚める。そこには孤独感と不確実感がある。これらがすべて相まって、作曲や、他の作曲家の曲の解釈へのインスピレーションに繋がっているんだ。

ジョージ・ウィンストン『ナイト』ジャケット写真

 彼は、2012年に骨髄移植手術を受けるという大病を患いますが、無事に全快し、現在も年間100本ほどのコンサート活動を元気に続けています。♥♥♥

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