「キーウから遠く離れて」

 来年歌手生活50周年を迎えるさだまさしさんが、初めての体験をしました。この二年間というもの全く曲が書けなかったんです。ついにさだまさしも売り切れたかと思った、と語っています。理由は、「音楽に対する刺激がなさすぎたから」だと言います。そんな中で、ロシアがウクライナに攻め込んだ暴挙に、とてもショックを受け、それがきっかけで心が動いて曲ができ始めました。3年間のコロナとの闘いの末に辿り着いた、さだまさしの新境地とも呼ぶべきメッセージ作品です。

 古希を迎えたさださんが、2022年6月1日に発表した、ソロ通算43作目となるアルバム『孤悲』で発表した曲の中に「キーウから遠く離れて」という異彩を放つ反戦歌があります。2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻。その様子は現代では現地の人々のスマホで撮影され、様々なSNSを通して世界中に拡散されています。その中でも、日本のメディアでは、ロシア軍の若い兵士がウクライナの年配の大人たちから叱られ、説教され、戦意を喪失し、互いに抱きしめ合うような映像もありました。

 さださんはそのような映像の中で、一人の老婦人がマリウポリに侵攻してきたロシア兵に向かって「何をしに来たの!帰りなさい」と食ってかかって、ロシア兵が口籠もっていると、「あんた、ポケットにひまわりの種を入れときなさい。あんたが死んだあと私がその花を眺めてやるから」と言った場面を見てショックを受け、感動してこの歌を書き始めたと言います。 このロシア兵が戦場で死んだら、その死体が埋まった場所にヒマワリが咲くというイメージですね。この映像から生命の表現について考えさせられた、と明かしました。「ロック歌手としてウクライナの問題は避けて通れませんでした。ぼくはロック歌手だと思っているんですよ。音楽形式ではなく、魂の話です。変なことがあれば『変だ』と言える勇気を持たなくてはいけません」さださん。「遠くの国では銃声が聞こえる 硝子細工の平和に僕は護られてる」とも歌っています。次は「キーウから遠く離れて」の詩の一節です。

君は誰に向かって その銃を構えているの 気づきなさい 君が撃つのは 君の自由と未来

力で生命を奪う事が出来たとしても 力で心を奪う事は決してできない

わたしは君を撃たないけれど 戦車の前に立ち塞がるでしょう

わたしが撃たれても その後にわたしが続くでしょう

何も出来ずに悔し涙に暮れる生命があり 何が起きているかも知らずに生きる生命がある 

 歌詩のなかにはこのような決然とした強い言葉が並んでいます。さださんは今までにも、「あと1マイル」「フレディもしくは三教街―ロシア租界にて―」「防人の詩」「戦友会」「前夜」など、戦争に関する歌を書いてきました。でも今回だけは決定的な違いがあります。戦争を寓話的に歌うのではなく、我が事として歌っているんです。今そこには銃口が見えているんです。現場にいるんです。「私が生まれてきた訳は 何処かの誰かを救うため」「いのちの理由」でも歌ったように、さださんの歌が誰かの元気や勇気につながればいいですね。それがさださんの「存在理由」です。戦争反対を声高に叫ぶのではなく、あくまでもその土地で暮らす人々の目線に立って、戦争の怖さ、悲惨さ、愚かさを描いたさださんらしい反戦歌です。

 さださんは音楽家なので、銃は撃たないと決めています。それでは銃を撃たないさださんが、どうやって大切な人を守ることができるのでしょうか?方法は一つしかありません。戦争を始めさせないこと、これに尽きます。そのために音楽があり、人の心があり、言葉があります。言葉は、音楽は、痛みや悲しみや喜びを声に出すことにより、共感を生み、元気に変えていく力を持っていると信じています。何一つ罪を犯したわけでもない一般市民が、爆弾や銃撃によって命を落とすという、この戦争の惨劇だけは避けられるものであれば避けなければなりません。この現状は止められなかったのか、どうやったら支援の力になることができるんだろう、我々には何もしてあげられないというもどかしさを感じながら、時代を一生懸命切り取るように、さださんは頑張っています。時代に向き合い、時にはぶつかり、立場の弱い人々に寄り添い、時には憤りや葛藤を感じながら、歌を紡いできたさださんの新境地と言えます。

 キーウ/Kyiv は、最近までキエフ/Kiev と呼ばれていたウクライナ共和国の首都の名前ですが、さださんがこの映像を見た頃はまだキエフ が一般的だったため、曲にどちらを使うか定かではなかったそうですが、レコーディングの段階ではキーウがかなり一般的になっていたので(ウクライナ大使館もそれを薦めていたので)、「キーウ」としたそうですよ。♥♥♥

▲1分04秒あたりより「キーウから遠く離れて」が流れます

 

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