西九州新幹線「かもめ」

◎水戸岡鋭治先生の仕事です

 9月23日、西九州新幹線「かもめ」が開業しました。全5駅を最短23分で結びます(1日47本運行)。1973年に整備計画が決定してから、ほぼ半世紀かけて実現しました。建設費は着工時の想定より2割増しの6197億円で、多くは国と長崎県、佐賀県が負担します。未着工の武雄温泉―新鳥栖間(51㎞)は、ルートさえ未だに決まっておらず、全国の新幹線網から外れたままです。佐賀県が新幹線整備に後ろ向きなのは、巨額の財政負担(660億円)を求められる割には、メリットが乏しいと見ているためです。

 長崎駅では午前6時17分、上り一番列車の武雄温泉駅行き「かもめ2号」が満席で出発しました。武雄温泉駅で特急列車の「リレーかもめ」に乗り継ぐことで、最速1時間20分で長崎と博多がつながりました(従来より30分短縮)。区間66キロ、乗車時間約30分の日本で一番短い新幹線が走り始めました。開業3日間(23~25日)の利用者数が3万2100人でした。これは前年比で約4.4倍になります。

 外装には、JR九州青柳俊彦会長(車両落成時に社長)が揮毫した列車名「かもめ」の文字をひらがなで入れ、落款まで入れられています。企業カラーの赤を帯状に引いており、紅白のツートンカラーが華やかですね。ロゴマークは羽を広げたカモメがモチーフですが、背後には長崎から出発して、武雄温泉で乗り継ぎ、目的地まで「かもめ」が飛躍することをイメージした3つの円が描かれています。デザインは豪華寝台観光列車「ななつ

▲「かもめ」のシンボルマーク

星」と同じ、工業デザイナーの水戸岡鋭治先生が手がけました。車体の各部には「かもめ」「KAMOME」の文字がそこらじゅうに配されているのは、水戸岡先生の哲学です(⇒コチラの私の記事を参照)。水戸岡鋭治先生といえば、JR九州新幹線800系「つばめ」、特急車両の885系「かもめ」特急「ソニック」「ゆふいんの森」号などJR九州をはじめ、日本全国であらゆる名列車のデザインを手掛けておられます。私は水戸岡先生の大ファンですから、先生のデザインされた全国の鉄道車両にせっせと乗りに出かけています(最近では、「丹後の海」「丹後あおまつ」「丹後あかまつ」「チャギントン電車」)。今は足が不自由なので、乗りに行けませんが、動けるようになったっら、すぐ乗りに行ってこようと思っています。

 「JR九州の車両はとがったものだったが、『かもめ』は大人で優しいホテルのようなデザイン」と解説しています。これまでたくさんのJR九州の車両デザインを手がけた水戸岡先生ですが、新幹線車両はとにかく制約との戦いでした(「今までのデザインの中で一番厳しかった、その中でどれだけのことができるかが腕の見せどころ」とおっしゃっておられました)。800系の時には一からデザインしましたが、今回はJR東海のN700Sを借りて、どこまで変えられるか、というのがテーマでした。それは仕方のない話で、何百両も作るJR東海と違い、JR九州では開業までにたった24両しか作られないのですから。新幹線は安全快適に、そして高速に、静かに走る性能を実現するべく、極限までブラッシュアップされたサラブレッドのような車両設計になっていることから、「少しでもなにか変えようとすると、新幹線のルール、重量、コストの全部がオーバーしてしまう。ですが、ひとつひとつ丁寧に仕事をすることでオンリーワンの車両を目指しました」と話しました。JR九州の青柳俊彦代表取締役社長も「車体の基本となる部分にも改良を加えようとすると非常に大変な作業になることから、表面的な箇所にこだわりを持った」と語ります。「JR東海が完成させたN700Sという車両に手を加えていくというのは、難しい仕事でしたが、デザイナーとしては非常に大切な仕事でもありました。数々の制約の中、最後の1%のデザインをどう行っていくか。ここにこだわりました。また、ご利用いただいたお客さまがどこで記念写真を撮ってもすぐに『かもめ』だ、ということがわかるよう、至る所に『かもめ』という文字をデザインしています。コストやデザインの制約の中でも、表面的箇所やテキスタイルデザインを丁寧に行っていくことで、オリジナリティは十分に出るし、オンリーワンは表現できるはずです。西九州新幹線の乗車時間は短いですが、それでもまた乗りたい、そう思っていただける車両になったと思っています」と、水戸岡先生「かもめ」への強い思いを語りました。『新幹線EX』春号 Vol.63(イカロス出版、2022年)は、その「かもめ」誕生の特集でした(写真下)。外観も内装も、N700Sとは見えないほどユニークです。水戸岡先生の神の手にかかれば、見慣れた車両もまったくの別物になってしまうのです。

 指定席は通路を挟んで2列ずつで、1~3号車のシートはそれぞれグレーの菊大柄やグリーンの獅子柄、ベージュの唐草、自由席の4~6号車(2+3列配置)は明るいイエローと、車両ごとに異なるデザインにしました。全席に電源コンセントが設置されています。席間には木製の肘掛けがあり、格納式のテーブルを備えています。実は、水戸岡先生は、なんと真っ黒な新幹線を作りたかったとのこと。こちらが、その“幻の”デザイン案です!!

 他になくて面白いからということでしたが、素直に黒もかっこいいですね。結局、最後は JR九州の皆さんの意見もあり、黒が負けて白と赤に決定したそうですよ。チャーミングでオンリーワン、題して「メイクアップ新幹線」(化粧する新幹線)です。今回の新幹線は、安全性やコスト面から“制約”への挑戦でもあったそうです。そんな中で、いかに制約を乗り越えてオンリーワンの愛される新幹線に仕上げるか。知恵と根気で諦めずにやっていけば、お金をかけなくても新しくて楽しいものができると、今回ずいぶん勉強になった、と言う水戸岡先生。そのうちの一つが、顔です。

 ライトの部分はアイシャドウで目を大きくし、先端には鼻つけて高く見えるようにしました。本当はまつ毛とチークもつけたかったと、まつ毛を描き足しながらチャーミングな言葉が水戸岡先生からも。手間ひまと愛情をかけることで、オンリーワンの愛らしい新幹線を目指したそうです。

 手書きの鍛えられたデッサンの線は“圧倒的に情報量があるから優しい”という水戸岡先生。サラサラと無造作に描く一本の線からも、プロフェッショナルの芯の強さと温もりを、確かに感じます。新幹線「かもめ」の魅力的な顔や、座り心地抜群の椅子も、ここから生まれたんですね。たくさんのメモの中には、感動を生むためのプロのアイデアが詰まっています。感動することで、子どもたちの中には知力、気力、感性、情熱が芽生えます。だからデザインで感動体験を生むためにずっと学習しながら作っているという水戸岡先生。いつも日本一、世界一になっていくということを考えていて、そういうメッセージを子どもたちに投げかけているかどうかが、その地域のこれからの将来を決めていきます。ちょっとしたことかもしれないけれど、この新幹線が走ることによって沿線が元気になるのが一番嬉しいと、語っておられました。「旅と鉄道」の最新号『西九州新幹線の旅』(天夢人)増刊11月号(写真下)がこの「かもめ」を特集しており、面白く読みました。♥♥♥

【追記】 西九州新幹線の開業に合わせて、やはり水戸岡先生がデザインした「ふたつ星4047」もデビューし、西九州エリアを走り出しました。こちらは速さを追求する新幹線と違い、ローカル線をゆっくりと走りながら、地元の魅力を発券できる列車になっています。これにも乗ってみたい!

 

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