桑田さん「声を出せ!」

 桑田真澄さん(くわたますみ、54歳)は、現役時代は通算173勝141敗、最優秀防御率2度、MVP、最多奪三振、沢村賞を各一度受賞と、輝かしい成績です。引退後は評論家活動の傍ら、早大大学院、東大大学院で投球フォームなどの動作解析の研究活動に励み、東大野球部や桜美林大学の特別コーチとしてアマチュア野球の指導にあたりました。2021年に原監督に請われ、投手チーフコーチ補佐として15年ぶりに巨人に復帰し、今季からチーフコーチに昇格していました。今年の桑田さんは「選手の伴走者」を理想に掲げて、対話を重ねながら成長方法を共に模索してきました。試合中にベンチに戻った投手の横に座って、話し合う姿は印象深いです。新人記録となる37セーブを挙げた守護神・大勢がリーグ終了後に「体調、メンタルだったりを本当に配慮していただいた」桑田コーチの名を挙げて、感謝を伝えています。8人の若手投手陣がプロ初勝利(プロ野球新記録)をあげて大きく台頭したのは、桑田さんの野球理論の賜でしょう。ただベテラン投手陣は結果を残せず、「投壊」を招き、V逸の原因となりました。報道によれば、来季はファーム総監督に配置転換されるようです(今年の不振の責任を取らされたのでしょう)。新戦力の掘り起こしに期待しましょう。

 今から5年前の7月10日(月)の巨人―ヤクルト戦のテレビ中継で、解説者の桑田さんが言っていることに心を動かされたことを、今でも覚えています。最近のテレビの野球解説者の解説にもピンからキリまであり、誰とは言いませんが、ひどいのは聞くに耐えないようなレベルのものまであります。でも大学院で理論をきちんと学んでいる桑田さんの解説は、非常に分かりやすく、説得力があり、理詰めで整然として面白いんです。彼の野球哲学は「何事にも理由がある」です。

 7回表のヤクルトの守り、三塁手の藤井とキャッチャーの中村がホームベース付近で交錯して、内野フライを取り損ねた時のことです。解説の桑田さんは野手同士が声を掛け合うことは「子供の時からやっているはずですが。僕らの世界では先輩には大きな声で挨拶しろと教えられるけれど、それがこんなプレーの時に生きてくるんですよね」と。目から鱗の言葉でした。大歓声の中でプレーすると、普通の声では全く聞こえない。日頃から大きな声で挨拶する習慣が、こんな場面で生きてくるというのです。巨人のセカンド中井もライトの前までフライを深追いして、長野の前で落球しました。これなども、外野手が大きな声を出して普通にとれる打球でした。この両チームは基本のキ」ができていないから、低迷しているんですね(巨人は13連敗の新記録樹立。ヤクルトは10連敗中でした)。

 野球解説者も、分かりやすく多角的に解説してくれる人が好きです。選手のことも、批判することばかりでなく、褒めるべきところはきちんと褒め、フォローもしてくれる解説にはなかなか出会いません。桑田さんは、配球のことはもちろん、守備やバッティングのことまで、分かりやすく解説してくれていたと思います。故・野村克也さんの解説はレベルが違っていました。ただワーワー騒ぐだけの、居酒屋のオッサンみたいな解説は要りません。当時の桑田さんの丁寧な解説を聞きながら、飽きずに試合を見ることができました。♥♥♥

【追記】 大の巨人ファンの私は、現役時代の桑田さんはあまり好きではありませんでした。会員制メンバーズクラブの社長に登板日を教えたり、現金を貰ったりしていた、と暴露本で糾弾され、これを受けて、桑田さんが野球賭博に関わっているのではないかという疑惑が浮上したのです。登板日漏えいと金品授与の事実は否定しましたが、最終的には金品の授受がなかったという報告は虚偽だったと明かして大問題に。結果的に1カ月の謹慎と罰金1000万円の処分を受けました(本来は1年の謹慎予定でしたが、当時の巨人監督の直談判によって短縮されました)。しかし、スキャンダルはこれで終わりませんでした。今度は不動産投資に失敗して約20億円とも言われる借金を抱えてしまいます。とはいっても、これは桑田さん自身が起こした問題ではなく、姉の元夫が「桑田真澄」名義で引き起こしたものです。しかし、読売グループがこの問題の解決に動いたこともあり(借金の肩代わり)、桑田さんは週刊誌や他球団のファンからは「投げる不動産屋」などとありがたくないニックネームをつけられ糾弾されました。このことがあったものだから、指導者として巨人のユニフォームを二度と着ることはないだろうというのが大方の考えでしたが、そこを原監督が仰天の要請で巨人の現場に戻ってきました。

 このダークな印象しかなかった桑田さんが、好感度を一気に上げる出来事が起こります。暴露本が発売された1990年から、14勝→16勝→10勝→8勝→14勝と安定した成績を残していて、特に優勝した1994年は、伝説の中日との「10.8決戦」で好投するなどの活躍でMVPを受賞し、まさに「巨人のエース」にふさわしい結果を残しました。しかし1995年、桑田さんにアクシデントが襲います。ピッチャー前の小フライを反射的にダイビングキャッチしようとした際に、右肘を強打し、肘の靭帯を断裂してしまったのです。選手生命が脅かされる大怪我でしたが、2年後に「奇跡の復活」を果たします。この期間のリハビリは長く壮絶なものでした。ボールを投げられない期間が続きましたが、「下半身は鍛えられる」と、桑田さんはただひたすらジャイアンツ球場で走りました。彼が走り続けた部分の芝は剥げ上がり、現在では「桑田ロード」と呼ばれ伝説となっているそうです。野球に対するひた向きな姿勢を見せ続けることで、マスコミやファンの信頼を勝ち取ったのです。再デビューを果たすときの、マウンドにひざまづいて、野球の神様にお礼を言っている姿は、感動的でさえありました。

 メディアなどで桑田さんは、常々体罰を無くすべきだと主張してきました。そんな桑田さんが、自身のブログで綴った「野球指導者へのお願い」をご紹介しますね。

少年時代、練習に行って殴られなかった日は無いくらい、怒られ殴られた。朝から晩まで練習するのが当たり前の時代、真夏でも水を飲めなかった時代だ。耐え切れず、トイレの水や雨上がりにできた水溜りの水を飲んだ経験もある。甲子園でプレーさせて頂き、ジャイアンツで、そしてメジャーでも投げさせて頂き、野球というものを、ある程度は、熟知していると思う。

そんな経験をしてきた僕が、今の日本の野球指導者にお願いしたいことです。厳しい言い方かもしれないけど、「気が付いてください」「気付いてください」よ。

自分に甘くそして、優しく、子供達に厳しい指導者は要らないですよ。たばこを吸いながら、ミーティングをするのは止めて下さいよ。練習中に、煙草すら我慢できない弱い人に、何が指導できるんですか?昼食に、ビールなど、アルコールを飲んで練習するのはよくないですよ。夜まで、アルコールを我慢できない自分に甘い人が、子供達に何を指導するんですか?不思議ですよね?子供達を指導する前に、誰かに指導してもらってください。

 人に物事を教える立場である以上、自分の人間性がしっかりしていなければ説得力はなくなってしまいますよね。そんな桑田さんはPL学園時代、絶対に後輩に体罰を与えることがなかったそうです。桑田さんが高校生だった時は、体罰や激しい叱責が当たり前に横行する時代でした。朝から晩まで怒られ殴られ、真夏の炎天下の中でも水を飲ませてもらえませんでした。そんな時代でも、桑田さんは後輩には決して体罰を与えなかったそうです。しかし、桑田さんの高校時代の後輩である、元阪神タイガースの片岡篤史さんや元中日ドラゴンズの立浪和義さんは、先輩の中で最も桑田さんを恐れたそうです。片岡さんは桑田さんについて、次のように語っています。

「ミスしても怒らないし、『次は気ぃつけ~』としか言わないけど、目は笑ってませんでした。むしろ手を上げてくれた方がやりやすい…」

 桑田さんは暴力について、「選手たちを思考停止にさせる」とも語っていたと言います。暴力による「怖さ」ではなく、考えさせられる「怖さ」。桑田さんからはそんな雰囲気が流れていたのかもしれませんね。♥♥♥ 

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