渡部昇一先生のエピソード(17)~本とインターネット

 週に3回、米子・勝田ケ丘志学館に、JR山陰線・境線と乗り継いで出かけます。電車に乗って、向かい側のシートや周りの座席に目をやると、腰掛けている高校生・大人がみんな下をうつむいてスマホの画面に見入って、何やらひたすらタッチしています。今日の博労町駅でも、中間試験終了後の列車待ちの高校生たちがホームにズラーっと並んで、スマホに見入っています。異様な光景です。他にすることはないのでしょうかね?スマホは今や現代人にとってなくてはならない必需品となっています。便利なだけでなく、暇をつぶすために楽しむさまざまな動画やゲーム、それにネット情報もごまんとあります。しかし、よ~く考えてみて下さい。スマホがなかった時代はどうだったんでしょうか?今スマホを見ている時間には、別のことをしていたわけです。たとえ今、スマホがなくても、不便で退屈な生活になるということはないはずです。実際のところ、ネットで検索する情報のほとんどは、あってもなくてもどちらでもいいようなものではないでしょうか?逆に情報がありすぎて、判断に迷ったり、間違った情報に踊らされたり、マイナス面も大きいのではないか?と私などは思っています。

 尊敬する故・渡部昇一先生が、本とインターネットの違いについて気がついたことを、実に面白い「比喩」で説明しておられました。先生のご友人が素晴らしいグレープフルーツを贈ってきてくれたことがありました。実にジューシーで、甘くて美味しいグレープフルーツだったそうです。その時に先生が考えられたことは、「待てよ、このグレープフルーツにはビタミンCがいっぱいだ。いい色がついているから、ひょっとするとベータカロチンも入っているかもしれない。果肉には食物繊維もあるだろう。しかしそうした栄養素は今ならサプリメントから、いとも簡単に摂取することができるではないか。ビタミンCだって、タブレットからであろうが、粉末からであろうが、簡単に摂ることができる。カロチンだって摂れる。全てはサプリメントで間に合うのに、どうしておれはこのグレープフルーツを感激しながら食べているのか?」そこでハタと思い当たります。グレープフルーツを食べてビタミンCを摂るのと、サプリメントでビタミンCを摂ることの差が、「読書」と「インターネット情報」の差に相当するに違いないと。栄養は全てサプリメントから摂れることは分かっています。しかし私たちはやっぱり食べ物を食べます。それはなぜかというと、「美味しいから」というのが一番の理由でしょう。すべてこの中身は何かといったら、ビタミンCとクエン酸と糖分くらいのものです。こんなものはサプリメントですぐに摂れる。なのにどうして、グレープフルーツの皮をむいて、においをかぎながら食べるのか?いわゆる食事とサプリメントの違いは、本とインターネットの違いではないかと思うようになった、とのことでした。食べ物は、非常に無駄が多い。分かりやすい例を挙げれば、物を食べるとウンチが出ます。サプリメントだけならおそらく出ないと思います。しかし、人間はウンチを出すことによって、赤ん坊から子ども、子どもから大人になるのです。サプリメントだけでも栄養は足りるはずですが、それで成長するかといったら成長しないのではないか?やはり物をよくかんで食べ、そして無駄なものは出しつつ、という過程を経て成長があるのだと思われます。サプリメントは味もなく、即効性でよく効きます。ビタミンCが足りなければパッと飲めるし、できものができたらビタミンB2などを飲めば効き目があります。これはインターネットに喩えることができます。栄養を摂るだけなら、サプリメントも要らないくらいで、点滴でも十分です。それにもかかわらず美味しいものを食べたいと思う。それと同じように、情報だけならインターネットで十分なのに本を読むというのは、読書には、インターネットから得る情報とは何か別の要素があるからでしょう。インターネットよりももっと豊かな「何か」が、読書という体験には隠されているに違いありません。本を読むことで、「あ~、そうだったのか!」「感動した」といった何とも言えない感情を味わうことができるのです。「活字の海」へ漕ぎ出すことができます。

 食事には、サプリメントのように即効性のものではなくても、美味しいものを食べれば「美味しい!」という肉体的な快感のようなものがあります。それから、緩やかではあるけれども、食べた物が体を作ったりします。そこに大きな差があるのだ、と先生はおっしゃいます。体が出来上がった大人が、自分に合ったサプリメントを選んで摂るのは非常にいいことですが、まだ体のできていない人間が、サプリメントばかりやっていてもしょうがないのではないかと思うのです。

 ところが、スマホやインターネットの普及とともに、人々の読書時間はどんどん減っています。一週間の読書時間が二時間以下というのは、ほぼ読まないことに等しいので、日本

▲尊敬する新 将命氏

人の三分の一はほとんど読書をしていないことになります。高校生・大学生にいたっては、1日の読書時間ゼロという人が半分以上います。若者たちは、本を買うお金を携帯電話代などに回していますから、読書時間はこれからも減る一方でしょうね。本は「精神の食べ物」です。本を読むことで、(1)論理的思考力や教養が身につく、(2)想像力が鍛えられる、(3)感情や感性が豊かになる、(4)体系的な知識を吸収できる、(5)信頼性の高い情報にリーチできる、(6)先人の知識・体験を追体験できる、(7)語彙が増える、(8)視野が広がり、人生のヒントをもらえる、などの数多くの恩恵が受けられます。安直な情報だけに頼っていたら、日本人の精神は痩せ細ってしまいます。このことに、私は非常に強い危機感をいだいています。尊敬する経営コンサルタントの新 将命(あたらしまさみ)さん(彼の本は片っ端から読了しました)、「1日に4回メシを食え!」と主張されます。3回の食事と、1回は「活字のメシ」です。私は毎日「活字のメシ」を楽しく食べています。♥♥♥

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