古代ギリシャの詩人・戦士のアルキロコスが、「キツネは多くを知っているが、ハリネズミは大きな一つのことを知っている」という有名な寓話を遺しています。そのハリネズミの概念とは次のようなものです。

　賢いキツネは、食べられまいと必死なハリネズミの周りをうろつき、防御されるたびに、次はどのような方法で攻略しようかと、次々と複雑な戦略を練って、ハリネズミを不意打ちにしようとします。昼も夜もハリネズミの巣の周囲をうろつき、完璧な機会をとらえて襲いかかろうとしています。キツネは動作が俊敏で、毛並みが美しく、足が速く、頭が良く、ハリネズミごときに負けるはずがないと思えます。対するハリネズミは、何とも冴えない動物で、短い足でちょこちょこちょ歩き、餌を探して巣を守るだけの単純な生活を送っています。キツネの姿を見て危険を察知すると、身体を丸めて小さな球体のようになり、身体を覆った四方に生える堅くて強い針でキツネを追い払います。さまざまな戦略を繰り出しても、結局キツネはいつも同じ方法によってハリネズミに打ち負かされてしまうのです。頭の良いキツネが何度トライしても、ハリネズミには勝てません。キツネの方がはるかに知恵があるのに、勝つのはいつもハリネズミなんです。

　「よし今度こそ仕留めてやる」キツネは地面を蹴って、目にも止まらぬ速さで飛びかかります。ちっぽけなハリネズミは殺気を感じ、目を上げます。「またまたお出ましだ。何度失敗しても、懲りない奴だなあ」体を丸めて小さな球のようになり、鋭い針がどの方向にも飛び出しています。それを見て瞬時にキツネは飛びかかるのを諦めます。しかし、森の中に引き返しながら、もう次の作戦をあれこれと考えているのです。

【キツネの特徴】　⇒柔軟だが一貫性に欠ける

・賢い　　・いくつもの目標　　　・複雑な世界を複雑に理解

【ハリネズミの特徴】　⇒一貫性があるが柔軟性に欠ける

・複雑な世界をシンプルに解釈　　・ブレない基本概念を持ち、それに基づいて行動

　あれこれ手を尽くすことができ、能力もあり、選択肢がある。でも優秀なキツネは、結局ハリネズミに勝つことができません。たった一つしか能力がない、自分の身を丸めてハリを出すことしかできない、それでもどんなに強い敵からも身を守ることができる。ハリネズミは武器となる単純明快なものを持っていて、それが強さだということです。キツネ型の人たちは、「いくつもの目標を同時に追求し」「力を分散させ、いくつもの動きを起こして」います。その結果、彼らの思考は散在し、焦点が定まらず、目標を達成できなくなる可能性があります。それに対して、ハリネズミ型の人たちは「複雑な世界を一つの系統だった考え、基本原理、基本概念によって単純化」して、世界を簡素化して、ビジョンに焦点を合わせてそれを実現します。

　飛躍発展する企業には、その単純明快な強さがあるのだ、ということです。あれもできる、これもできる、という強さではなくて、これしかできないけれど、これならば完璧にできるという強さに、自分たちの生きるべき道を見い出しているのです。四方八方、あれもこれも、とオールラウンドに自分を伸ばしていくよりも、自分の確たる軸を見つけることの方が重要です。「好き」なことで、「得意な」ことで、「人のためになる」ことをヒントにして、自分のミッションを考えるとよいでしょう。

　ここから導き出される戦略は、次の三つの円が重なるところにあるのでしょう。

（１）情熱をもって取り組めることは何か？　⇒好きなこと

（２）世界一になれることは何か？　⇒得意なこと

（３）経済的原動力になることは何か？　⇒人の役に立ってお金がもらえること

この三つの円が重なったものをミッションとして手掛けるべきでしょう。英語教師の私の場合で当てはめて考えてみますと、「好きな英語を教えることで人の役に立ちたい」となるでしょうか。

　世の中が高度かつ複雑になっている現代社会では、「キツネ型」や「ハリネズミ型」を選んでいるのはもはやナンセンスだ、と主張する人たちもいます。これら二つの生き物を交配した新種となり、一つか二つ大きなことを知っていて、なおかつそれについて同時代の誰よりも深く詳しく知っていることが欠かせない、という考え方です。かつて、アメリカの理想の大統領とは、They campaign like hedgehogs, and they govern like foxes.（ハリネズミのようにキャンペーンし、キツネのように政治を行う者）と言われたことがあります。♥♥♥