『大学で何を学ぶか』

 50年前に従業員3人で始めた小さな会社(28歳で起業、最初の本社は自宅の6畳間、工場はプレハブ小屋)が、今では世界43カ国に300社を超える関連会社と、約14万人の従業員を抱え、1兆9,000億円の売上高を誇る世界一の総合モーターメーカーに成長した「日本電産」。その社長・永守重信(ながもりしげのぶ)さんが、現在の教育社会に投げかけた問題提起の書が、『大学で何を学ぶか』(小学館新書、2022年10月)です。

 自分のやりたい学問よりも偏差値で大学や学部を選ぶ、有名大学に入ることにこだわる「ブランド大学主義」、親や先生が勧めるからという理由で大学や学部を選ぶ「他人任せ」、これまで1万2千人以上を採用してきた日本電産のトップである著者は、「今の日本の大学教育は間違っているのではないか?」と考えるようになりました。高校の進路指導でも、学部や学科選びの指導は二の次で、とにかく有名大学、すなわち偏差値の高い大学を目指すことが優先されます。本人が何を学びたいのか、どんな仕事をしたいのかを十分に話すことが少なく、大学選びが最も重要視され、有名大学に入ることが推奨されるのです。永守さんには、今の若い人たちに何が足りないのか、なぜ元気がないのかが分かるそうです。そうした理由で大学や学部を選んでしまうと、大学に入ってもやる気が起きずに何も学ばずに卒業、深く考えずに企業を選ぶから、入社後は五月病になったり、会社を辞めたくなるといいます。そういう状態では、仕事への情熱は持ちにくいでしょう。では、大学をどう選べばよいのか?大学に入る前に、自分が就きたい職業や、やりたい仕事を見極め、その夢に合致する学部、大学を選べばよいのです。夢や目標が見つからない人にはその見つけ方も、著者が伝授してくれます。これからは真の実力主義の時代がやって来ます。カリスマ経営者が、どんな観点で大学を選ぶべきか、大学でどのようなことを学べばいいかを述べるとともに、社会で活躍するために必要なもの、これからの時代の生き方について赤裸々に語ったのが本書です。

 大学では何を学べばいいのか?についても詳しく解説。専攻分野に磨きをかけることに加えて、英語力、雑談力、ディベート力を身につける必要があると述べます。もちろん、身につけ方のヒントも掲載しています。大学選びから大学での学び、友達づくり、仕事についての考え方、社会に出てから伸びる人材についてまで、充実した大学生活を送るアドバイスを多数収録しています。

 一流大学を出た社員も、世間では三流と呼ばれる大学を出た社員も、日本電産入社10年ほどの時点では、仕事の成果に大きな差がないことが分かりました。偏差値の高い大学を出ているのに成果をあげていない人というのは、与えられた仕事はうまくこなすものの、自分から率先して仕事を取ってきたり、創意工夫して良い方法を考え出したり、状況変化に応じて自分で判断して動くことが少ないと言います。いわゆる「指示待ち族」ですね。一方、偏差値の高い低いにかかわらず、何かに打ち込んできた人や個性の光る人は、何でも前向きに取り組み、人が嫌がるような雑務も進んでこなす気概があります。自ら問題意識を持って仕事に臨むので、みるみる実力をつけていき、入社数年後には大きな成果を出しているのです。結局のところ、入試のときの偏差値が高い大学を出たからといって、社会に出てから活躍できるというわけではないのです。

 問題点は、世界水準の実力を備えた人材が、今の大学で十分に育っていないということです。それなら、実力が身につくような大学を自分で作ってしまえばいい。永守さんは、まず京都にある京都学園大学の理事長となり、校名も京都先端科学大学に変更。設備も中身も一新しました。この改革に私財200億円を投じています。医学部も作る予定とか。なぜ、そこまでやるのか。それは日本電産に入社してくる有名大学卒業生の中に、商学部卒業でもバランスシートは読めない、工学部卒でも基本的なモーターの知識がないなど、即戦力にはほど遠い人材を多数見てきたからです。諸外国の一流大学出身者はそんなことはないとのこと。この本では、永守さんが考える、大学の選び方、大学で必要な学びに加えて、夢を持つことの大切さまで力説しています。読めば、誰でも勇気づけられ、前向きになれること、請け合いです!

 「失敗したくなかったら、たくさん失敗せよ」「困難なときこそ、人は成長する」「人間というのは、意識を変えれば必ず変わる」「若者には信じられないほどの潜在能力がある」など、名言が一杯の本です。もし若い人たちに覇気が無く、夢がない人が多いとすれば、それはそのように育ててしまった我々大人の責任だ、という永守さんの覚悟を感じることでした。

 永守さんは貧しい家の出身で(6人兄弟の末っ子)、若い時に父親も亡くしたために、中学を出たら働けと言われていました。永守さんのことを気にかけてくれていた先生のおかげで、奨学金で工業高校と職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)に行けることになり、当時は、とにかく学べることが嬉しくて、寝る時間も惜しんで勉強しました(首席で卒業)。♥♥♥

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