「さぼてん」

◎週末はグルメ情報!!今週はとんかつ

 岡山駅構内の「さんすて」2Fにあるトンカツ屋さんが「新宿とんかつ さぼてん」です。改装前からあったお店で、私もよく利用していました。キャベツ・ご飯・味噌汁がお代わり自由です。まずキャベツが運ばれてきます。このキャベツがとっても美味しいんです。最初に胡麻を擦ってそれにソースを入れて食べるのですが、今では一般的なこの食べ方の元祖が「新宿とんかつ さぼてん」なんです。

 「新宿とんかつ さぼてん」を経営するグリーンハウスグループの創業者田沼文蔵さんは、1918年(大正7年)1月16日に生まれました。24歳の時、召集令状を受け戦地に赴きます。戦場での役割は最前線に食料と弾薬を輸送する任務でした。当時は太平洋戦争末期で戦況は悲惨の一途を辿っており、多くの部下の命を失ってしまいました。そしてあの敗戦の知らせを聞きます。文蔵さんは「これだけの犠牲を強いてしまい、生き残った自分だけ日本に帰れるものか。」と異国の地で自決する覚悟をしていました。「自分に生きる価値などない」と思い詰める文蔵さんの命をつなぎとめたのは連合国中国陸軍総司令で蒋介石の名参謀と謳われた何応欽(かおうきん)将軍でした。何応欽将軍は文蔵さん等に「君たちには祖国を復興させる仕事が待っている」と諭され、ようやく日本に帰国することを決心した文蔵さんはこう心に誓いました。「生き残った自分に与えられた役目は世の中に役立つ仕事をしていくことだ」帰国した文蔵さんは学生時代の恩師を通じて慶應義塾大学の教授から「うちの学生寮の食事の用意をしてくれませんか」と頼まれました。1947年4月 当時川崎市登戸にあった慶應の学び舎の一角で、150名の学生の命を預かる食堂を開設しました。当時は戦後すぐの食糧難で、配給される食料では到底足りず、学生と共に農家に向かい食料を買付けしました。文蔵さんは時には繁忙期の農業を一緒になって手伝うなど奔走していたそうです。

 登戸の学生寮から日吉校舎の食堂運営を行うようになり経営は順調でしたが、ある時、大学側の都合で立ち退きを余儀なくされました。その後、社員食堂の運営などに事業は広がりましたが、文蔵さんはその時の苦い経験から、受託の立場だけの仕事ではなく自社で経営するレストラン事業への進出を考えるようになります。そして1966年(昭和41年)にいよいよ「とんかつ新宿さぼてん」第一号店をオープンするに至ったのです。

 「さぼてん」という店名の由来は、さぼてんの、砂漠の中で少量の水でもたくましく生き抜く生命力や、太陽に向かってまっすぐに育つ力強さにあやかりたい、という思いから名づけられました。慶應義塾大学学生寮の食堂をやっていた頃から「わらじかつ」は人気メニューでした。文蔵さんの、美味しいものをお腹いっぱい食べて元気を出して欲しいという思いと、当時どの食堂でも人気があり、豚肉が欠かせない食材であったことから「とんかつ」をメインメニューに決められたようです。

 いまでは多くのとんかつ屋さんの定番になった2つの食べ方は、田沼文蔵さんが考案した食べ方です。

(1)ゴマをすり鉢ですってソースを入れて食べるやり方

「とんかつは揚げるのに時間がかかる料理なので、お客さんが手持ち無沙汰では申し訳ない」とゴマを擦ってソースと混ぜて自分流のたれを作る楽しみを味わってほしい、という文蔵さんの願いから生まれました(ちなみにこのゴマ、あまり擦り過ぎず、軽く香りが立つくらいの粗めに擦るのがお薦めだそうです)。

IMG_9649.JPG

(2)キャベツとごはんとみそ汁をおかわり自由にする

 「おかわり自由にする」ことは、コスト増が危惧される冒険的試みでしたが、「お客さんにお腹いっぱいになってもらいたい」という文蔵さんの思いが、社内の反対を押し切って実現されました。結果は大きな売り上げ増を生み出しました。今では多くのとんかつ屋さんが当たり前のように「おかわり方式」をとっていますが、昔はスタンダードではなかったんですね。個人的に私はおいしいキャベツを好きなだけおかわりできることが、「とんかつさぼてん」に通う一番の理由かもしれません。

 これら二つのアイデアは、文蔵さんがお店の現場でお客さんの様子をよく観察していたからこそ生まれたものです。

 とんかつ屋さんのこだわりと言えば何でしょうか?豚肉の質?揚げる油?パン粉?もちろんそれらの要素も重要ですが、田沼文蔵さんが食事を提供する事業をするにあたり、一貫してこだわってきたのが「米のうまさ」でした。そこには出征前、旧友と東北を旅した時、新潟の旅館で食べた米のうまさが忘れられなかったという記憶がありました。「おかずなしで茶碗1杯を夢中で食べてしまったほど」だったそうです。「新宿とんかつ さぼてん」では、お米は味噌汁、漬物とともに「三種の神器」と言われ、最優先して味を追求すべき食の基本として今も受け継がれています。

 「新宿とんかつ さぼてん」のお店に入って注文すると、すぐにこちらのキャベツが運ばれてきます。

 そうキャベツです。しかもおおきな器に山盛りで届きます。このキャベツ、おかわり自由です。「とんかつ新宿さぼてん」の千切りキャベツは秀逸です。単なるとんかつのつけあわせレベルではありません。キャベツがしっかりと役割を果たしています。切り口は限りなく細く薄く(写真からもその繊細さが伝わるのではないでしょうか)、ひんやりしていて口に含んで噛みしめるとじゅわ~っと野菜の水分が溢れてきます。いくらでも食べ続けられそうな食感です。「食事をする時はまず野菜から食べる」は今でこそよく知られるようになった健康的な食べ方(血糖値の急上昇を防ぐ)ですが、「新宿とんかつ さぼてん」ではそれをずっと前から実践していたんですね。

 そしてこのたっぷりのキャベツのお伴は・・・

IMG_8235.JPG

 左からゴマドレッシング岩塩ゆずドレッシング、の最強トリオです。私は塩→ゆず→ゴマと味を変えてループしながら食べていく・・・いえひとつ大事なものを忘れてました。ゴマの後にはさぼてん特製のとんかつソースをかけて食べます。最強トリオじゃなくて最強カルテットですね。このとんかつソースはウスターソースが利いているので、キリッとさっぱりしていてキャベツにもすごく合うんです。

 三元麦豚ロースカツ、赤だしのなめこ汁(こちらもおかわり自由)と浅漬けの大根のお新香。大根にゆずの香りが爽やかで口の中をさっぱりさせてくれます。サラリーマンの懐にも優しいランチ限定メニューが「熟成三元麦豚ロースかつ御膳」(1,000円+税)です。

豚肉は95gでやや小さめですが、肉の断面はこちら。

どうですか、充分でしょう?脂たっぷりというよりは引き締まった歯ごたえのある身でかつ柔らかい。そしてこのランチでももちろん、キャベツ、ごはん、味噌汁おかわり自由です。お腹一杯食べられます。味噌汁は赤だし(なめこ入り)でしっかりした濃いめの味。ごはんのお供としては最強です。

 「とんかつ 新宿さぼてん」の一番の魅力は“キャベツ”“ごはん”なのではないかと思います。豚肉が美味しいのは当たり前、というか、豚肉はもちろんハイレベルで美味しいのです。さらにその上にキャベツやごはんにもとことんこだわるという企業姿勢。これが素晴らしい。自家精米センターを建ててまで「理想のお米」を追求する、一歩間違えると大幅なコスト増になって経営を圧迫する危険性がある「キャベツおかわり自由」、なかなか出来ることではありません。そういうところに手を抜かないのは、利益追求を第一ではなく常に現場でお客さんの様子を見てきた文蔵さん、そして千秋さんの「人が喜ぶ顔が見たい」「人に喜ばれてこそ会社は発展する」というブレない信念があったからこそではないかと思います。だから70年以上も会社を続けて来られたのでしょう。

 途中下車した倉敷駅の改札を出て、「アリオ倉敷」のある右側に進んだ左手に、「新宿とんかつ さぼてん」のデリカテッセンのお店がありました。イートインスペースはなく、テイクアウトのみです。昨晩のトンカツがあまりにも柔らかくて美味しかったので、「北海道コロッケ」(140円)「メンチかつ」(280円)を試しに買って帰りました。これまた美味しかったですよ。♥♥♥

カテゴリー: グルメ パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中