「KOBEうわさプロジェクト」

 神戸で劇場型水族館「アトア」を見学した後、タクシーで戻ってきて、市営地下鉄三宮駅の構内に下りていくと、ちょっと変わった吹き出しが、駅の至るところに貼り付けられており、思わず目を引かれました。「おおっ、あれは何だ?」突如として出現したポップアップメニューのような「うわさ話」。壁や柱などに貼り付けられた白地のフキダシに青字で書かれた文字が、次々と目に飛び込んできます。思わず、どんどん読み入ってしまいますが、いったい、これって、いったい誰が何の目的で「うわさ」しているんでしょう?あちこちに、「・・・らしい」 のシールが貼られています。ここにも、あんなうわさや、こんなうわさが。

 関西人らしい、ボケとツッコミの作法も踏まえた楽しいうわさ話に、思わずクスッとしてしまいますね。うわさ話のシールは駅構内から、駅のトイレ(トイレの男女のマークがうわさ話をしているよう!)、改札付近まで続いています。内容は「これ知っとう?」とでも言いたげな、ちょっとマニアックな神戸の地元情報から、日々の生活に役立ちそうなおトク情報まで。そしてうわさ話の下には、もれなく神戸市のマークと「KOBE うわさプロジェクト」の文字が添えられています。

 仕掛け人は神戸市広報課の本田亙課長(45歳)さんです。広報課へ配属され、気付いた課題は、市政情報が市民に行き届いていないということでした。そんな時、アーティスト山本耕一郎さん(50歳)=青森県八戸市=の活動に興味を持ちました。山本さんが同市や川崎市などで実施する「うわさプロジェクト」は、まちの自慢などを取材し、吹き出し形のシールにして店舗などに貼っていくものです。“うわさ”を通じて人と人が交流し、まちの活性化につながった取り組みです。これを市政情報の発信に活用しようと考えた本田さんは、山本さんと会い、協力を得ました。庁内に「うわさ部」を発足。参加者を募ると、部局を超えて20~50代の60人以上が手を挙げました。山本さんを招いた研修を受け、神戸弁を使う“うわさ”の設置を進めました。山本さんによると、行政が発信するスタイルは初といいます。いつかはあの手法を使って行政の情報をやわらかく、無理のないかたちで市民の皆さんに伝えていけたらと思っていました。今年の4月から広報課に異動となり、念願の活動を開始するときが来たぞ、と」山本耕一郎さんは、さまざまなアート・プロジェクトに参加したのち、青森県東部に位置する八戸市南郷島守市に移住したコミュニティー・アーティストです。商店街を一店一店取材し、店主や従業員のプライベートや、お店でのお客さんのエピソードなどを「うわさ話」として書きこんだフキダシ型の黄色のポップを作成。これを店先に貼りつける「うわさプロジェクト」が注目を集めました。八戸のまちと人をつなぐ市民集団「まちぐみ」組長として活躍しつつ、全国でプロジェクトを進行中、といいます。

―どうしてこんな「うわさ話」を始めたのでしょう。

「以前から、せっかく用意した施策が、それを必要としている市民に届いていないと感じることが多く、歯がゆさがありました」

「そんなときに『地域を変えるデザイン――コミュニティが元気になる30のアイデア』という単行本にデザイン都市・神戸についての文章を寄稿しました。他の事例を読み進めるうちに、山本耕一郎さんの「八戸のうわさ」プロジェクトに興味を持ちました。それが約10年前です」

―どんなことを伝えたい、と思いましたか。

「例えば、2020年の6月から市営地下鉄の三宮~谷上駅間が現行の550円から280円に値下げされるんですね。でも地下鉄利用者でも知らない方が多かったりして…まずはそういうところから伝えていきたい、と思いました」

―どれくらいの方々がかかわっていますか。

「庁内では『うわさ部』という、有志が集まる部活動のようなかたちで今年の9月に募集をかけました。事前告知なしの急な応募でしたが、最初のミーティングに60人以上が集まり、現在63人が部活動に参加してくれています。これは自分にとっては予想外の数字。20~30代の若い人が多いのですが、上は50代もいます。職種もまちづくり課や広報課はもちろん、各区の現場の担当者や水道局や消防局の職員、そして区長まで参加してくれています」

 ―活動のインスピレーションとなった山本耕一郎氏とのつながりは。

「わたし自身、八戸まで行って、八戸で興したプロジェクトの手法を神戸の地で行政の情報を市民に伝える、というかたちで実施してもいいか許諾を得にいきました」

「ご快諾いただき、部の一回目のワークショップではご本人に来神いただきました。以後、ひと月に一回は来神いただき、ご助力いただいています。ポップのフォントはヒラギノゴシックを用いること、文字の行間の詰めや、特に伝えたい情報の強調の仕方などさまざまなアドバイスをいただいています。トイレの女性マークと男性マークがうわさ話を会話調でしているふうにしたら面白いのでは、というのも山本さんのアイデアです」

―反響はどうでしょうか。

「地下鉄三宮駅の構内のうわさ話のポップは10月11日から貼り付け始めました。部内の若い人たちと共に、一枚、一枚、駅構内に貼っていきました。その際『北区は(夏場でも)エアコンなしで寝れるらしい』といううわさを貼り付けている最中、通りすがりの女性に“昔はそうやったけど今はアカンで、無理やで”ってお声がけいただいたり。SNSでも“地下鉄三宮駅に6月1日から280円っていっぱい貼ってあった”と画像と共にアップしてくださっている方も。見てもらえていると実感しています」

―今後はどんな「うわさ話」を?

「子育て関係の情報をもっと「うわさ話」として伝えていきたいですね。神戸市は実は、子育て応援サイト「ママフレ」をはじめ、新婚のための助成金を最大で30万円支給したり、中古住宅のリノベーション費用を50万円負担したりしています。このリノベーション費用負担は、市外からの移住ですと最大70万円まで支給されるんです。意外と、こういうことを知らない人も多いので。そういう行政の情報だけでなく、市内の素敵なスポットや、暮らしのお役立ち情報なんかも織り交ぜつつ、この部活動が市民と行政のつなぎ手となれば、と願っています」

 この手の吹き出しは、神戸市営地下鉄の車両や駅だけでなく、神戸電鉄車内にも「うわさプロジェクト」は進出しています。「すぐに役立たない」情報を面白しろおかしく届けることで共感を呼び、それが見る人にとって、市政への関心を高める最初の接点にもなりうる=市民と行政のつなぎ手、という考え方なのでしょう。少しでも市政に関心を持ってくれたり、神戸市のファンを増やすことができればいいですね。実に印象的な貼り紙でした。♥♥♥

カテゴリー: 日々の日記 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中