故・西村京太郎先生の「十津川警部シリーズ」のテレビドラマ化において、十津川警部の相棒の亀井刑事役を務めた役者さんを整理してみましょう。通称は「カメさん」。「亀井」という名前からきたと思われますが、「首を突き出すようにして歩いている様子が「亀」にそっくりだから」という説もあります。青森出身の仙台育ちの生粋の東北人です。
綿引勝彦(1979~1982)
愛川欽也(1981~2001)
犬塚 弘(1982)
坂上二郎(1982~1983)
山谷初男(1986)
川谷拓三(1987)
室田日出男(1989)
いかりや長介(1990)
伊東四朗(1992~)
小林稔侍(2003~2004)
古谷一行(2009~2022)
高田純次(2012~)
石丸謙二郎(2017~)
角野卓造(2020~)
名探偵には、大体相棒がつきもので、シャーロック・ホームズと言ったらワトソン、金田一耕助といえば等々力警部か磯川警部、御手洗潔なら石岡和巳等々ですね。そういう要領でいけば、十津川警部のワトソン役が亀井刑事に当たると言えるでしょう。西村京太郎先生のトラベル・ミステリーシリーズが始まる以前から、十津川警部とはコンビを組んでいます。年齢は45歳で、小柄で細身。汗っかき。十津川警部の年上ではありますが、部下にあたり、警視庁の階級社会を妙にリアルに描いていたりします。ちなみに『消えた乗組員』ではカメさんの方が十津川警部より2歳年下(当時35歳)でしたが、いつの間にか年齢を追い越してしまいました。名作『終着駅殺人事件』は、カメさんが主人公と言えるような作品であり、実際、テレビ朝日版ドラマ1作目が「終着駅殺人事件」で、愛川欽也のカメさんが主役として描かれており、この時点(1981年)で、ドラマ版では「亀井定夫」という本名がつけられていました。
原作には『松山・道後十七文字の殺人』まで、亀井刑事の名前は一切登場していませんでした。「西村京太郎公式サイト」が立ち上がり、そこのQ&Aコーナーでは、亀井刑事の本名は「定雄」とされており、原作の「定夫」とは漢字が異なっていました。ちなみに「定雄」の漢字は、TBS版伊東四朗の亀井刑事では「亀井定雄」とされていますが、キャラクター設定がまだしっかりされていなかった時は「亀井正」となっていることもありました。また、フジテレビ版の古谷一行の亀井刑事は「亀井定男」となっています。家族構成は、妻・公子、長男・健一、長女・マユミの4人家族。亀井刑事は十津川警部を含む他の刑事からは、「カメさん」というあだ名で呼ばれ、ほとんど敬語を使われていますね。原作の話の内容から察するに、十津川班の上下関係は下記のようになるでしょう。
十津川警部>亀井刑事>西本・日下・三田村・北条・その他
亀井刑事より下の若い刑事は、原作では皆お互いがタメ口で話しており、上下関係はありません。ちなみに初期の頃は、亀井刑事とタメ口で話す「鈴木刑事」がいて、あだ名は「スズさん」でした。階級については、「警部補」との考え方が基本です。十津川警部の直近の部下と年齢を合わせて「警部補」と考えられていますが、原作では描かれていないと思います。また、テレビ朝日系ドラマ「津軽・陸中殺人ルート」やTBS版では何回か名刺等が登場し、「警部補」と描かれている場面がありました。
ただし、テレビ朝日系ドラマ『寝台特急あかつき殺人事件』(1983)の時には、北条早苗刑事(当時初登場!)が「亀井部長刑事」と呼んでいます。部長刑事というのは、「巡査部長」階級の呼び名であるため、この時の設定は「巡査部長」であったと言えます。まあその後昇進したと考えれば、何でもありません。ちなみに警視庁捜査一課に所属する刑事の階級は、巡査部長以上です。私は故・愛川欽也さん(テレビ朝日系)と伊東四朗さん(TBS系)の亀井刑事が大好きでした(原作者の西村京太郎先生は、「この愛川が亀井のイメージに一番近い」とおっしゃいました)。愛川さんは、1981~2012年、テレビ朝日系土曜ワイド劇場西村京太郎トラベルミステリーで、十津川省三(主人公)のパートナーの亀井刑事役を、実に31年間に
渡って演じており、愛川さん演じる人情味溢れる亀井刑事は好評で、ドラマの視聴率も良かったそうですが、2012年、自ら申し出て降板しました。愛川さんは、その理由について、「このドラマの亀井刑事は、30年以上演じてきましたので、ひときわ思い入れはあります。が、“亀さん”は事件現場で結構動き回るのですよ。永遠の青年を自任する僕も、さすがにキツい時があります。そこで、元気なうちにほかのどなたかにバトンタッチしたいなと考えたわけで。セリフを覚えられないから、みんなに迷惑がかかる。だったら、もう俳優業は引退しようと思っている」と語りました。現在BS朝日で「西村京太郎没後一周年記念企画」として、過去の名作品を集中して放映していますが、愛川さんの亀井刑事は実にハマリ役でいい味を出しています。テレビ朝日のシリーズも昨年末に最終回を迎え、もう亀井刑事を見ることはなさそうです。
性格は、人に恨みを買うことが最も少なく、人情味と誠実さを併せ持つが、容疑者等に腹を立てるとすぐ熱くなる、直情径行型の面もあります。十津川警部が怒りで冷静さを失うと、諫めに走ります。お互いを補い合う名コンビです。家族は妻・公子、長男・健一と長女・マユミの3人。小学生の健一は大の鉄道マニアであり、健一に鉄道を見に連れて行かされた先々で、難事件に遭遇することが度々ありました。
こうして原作の十津川警部シリーズは、数多くの作品がテレビドラマ化されていますが、西村先生は、そのドラマは、ご自分ではほとんど見ないとおっしゃっておられました。♥♥♥
自分の作品がテレビドラマ化されても、ほとんど見ません。原作とは違っている部分が多いですし、それにドラマって、必ず最後に主人公が“いいこと”を言うでしょ。あれが嫌なんですよ。主婦がターゲットなので、忙しい家事の合間に気持ちよく見られるように、あえて大げさな演出にしているそうなのですが、僕には受け入れられないんです。 (赤川次郎先生との対談より)
日垣: 先生は、テレビはお好きですか。
奥様: 自分の作品は一切見ません。
西村: 嫌なんだ。
日垣: どのあたりを見たくないのですか。
奥様: 先生のご本の中には、あまり女性は出ていないんですよね。だけどテレビには 女性を入れないと絵にならないので、女性の刑事や、飲み屋のおかみさんが出るでしょ。だから、自分の作品と違うから見ないと。
日垣: 原作と違うというのは、やはりストレスになりますか。
西村: 小学生のときに、学校でお弁当を食べるでしょう。その時、手で隠しながら食べていたんです。それがずっと続いている。隠れて食べていたから、隠れて見ているんです。 自分の作品のテレビを見ているのを見られるのも恥ずかしいんですよ。見ていない 時の方が多いですけれどもね。なんとなく照れちゃうんだな。 ―日 垣 隆「日本一 有名 な 作家 直撃・西村京太郎 さん 公開 インタビュー」(2016年)