よくできた話

 「先生、「ぐっすり眠る」の「ぐっすり」はgood sleep(グッドスリープ)から来ていると聞いたのですが、本当ですか?」という質問を受けました。笑い話としては面白いと思うのですが、そんな馬鹿なことはありません。似たような話で、newsという英単語は、東西南北の頭文字(north, east, west, south)をとったもので、東西南北で怒る新しい出来事の情報だ、というのも冗談です。世の中にはこのように「よくできた話」というものはあるものです。

 かつて松江北高の芸術鑑賞会 「学校寄席」で披露された「Who are you ?事件」もまことしやかに語られていますが、非常によくできた作り話です。

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 沖縄サミットを控えた2000年、アメリカのワシントンで、クリントン大統領と日米首脳会談を行った当時のの森 喜朗総理大臣が、とんでもない失言をかましたというものですね。森さんは、側近から「クリントン大統領に会ったら、まず“How are you?“(ご機嫌いかがですか)と言って握手をしてください。そしたら大統領は“I’m fine. And you?“(調子は上々です。あなたはいかがですか)と答えるので、“Me too.“(私もいいですよ)と応じてください」とアドバイスを受けました。ところがいざ本番になると、森首相は極度の緊張のせいか、クリントン大統領“Who are you?“(あなたは誰?)と切り出してしまったのです。これには側近も通訳も絶句、周囲は一瞬凍り付きシーンとしたといいます。しかし、そこはさすがは合衆国大統領、クリントン大統領は苦笑いしながらも、“I’m Hillary’s husband.”(私はヒラリーの夫です)と絶妙のジョークで受け答えを見せます。ところが、森首相は当初のシナリオ通り“Me too.”(私もヒラリーの夫です)とやってしまったというのです。巷ではこれを、「Who are you?事件」と呼んでいます〔笑〕。笑い話としては実に面白い。でも出来過ぎた話です。実は、まったくのデマでした。

 これは全くの誤報であったことが、後になって判明しています。当の森首相は退陣後、一連の捏造でっち上げ報道について次のように語りました『訪米した際、私がクリントン大統領に「フー・アー・ユー」と言ったと、まことしやかに報道された…いくら私が英語が得意でなくても、そんなこと言うわけがない。それを、私に確認もせずに載せてしまう…      こうなると、ほとんどもう…悪意そのもの。それが私個人の誹謗中傷で済むならいい…しかし、そういう報道が、日本の総理大臣、ひいては日本そのものを賤しめていることを、考えて欲しいのです』

 さらに、このデマの発信源として、森政権退陣後の2004年、毎日新聞記者の高畑昭男さんが、名乗り出て証言しています。

 これは元々お隣の韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が英語が苦手なのを皮肉ったジョークです。それをどこかで聞いて、外務省記者クラブで「これ森さんに替えても使えるよね」と言ったら、それがあっという間に広がってしまった。森ジョークは私が広めた張本人でございまして、森首相には申し訳ないと思っております。これが実話のように新聞や週刊誌にも書かれて、一年くらい経った後でも、永六輔さんが講演をされた際に「これは本当にあった話だ」と話されたとか聞いております。

 マスコミ報道というのは、かくもこわいものであります。真実の中にデマも紛れ込んでいます。何でもかんでも信用しないことです。先生方・生徒たちにはすぐに翌日「あむーる」に取り上げて、真実をフォローしておきました。⇒コチラで読むことができます

 「共通テスト」リーディング「事実」「意見」を区別する設問が出題されるのは、こういった背景があります。現在、インターネット上では記事と読者が書き込んだコメントが混在しています。そこには真実もあれば、フェイクニュースもたくさん存在しています。このように「事実」「意見」が混在するネット情報を、自分の力で正しく読み解いて欲しい、という出題者の意図が見え隠れしています。情報を取得する際には、「何が事実で何が事実ではないか」ということが大切です。ここを捉えた問題ということですね。世の中には「よくできた話」というのがあふれていますから注意が必要です。♥♥♥

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