渡部昇一先生のエピソード(22)~礼儀正しい

 恩師の故・渡部昇一先生の想い出話を、教え子の江藤裕之先生(東北大学大学院教授)が披露しておられます。先生が上智大学一年生の夏休み前のこと。大学のメインストリートに面した購買部の入り口の横にあった自販機で、オロナミンCドリンクを買っている人がいました。よく見ると渡部先生でした(先生はオロナミンCが大好きで、ご自宅にも常備しておられ、講義の合間に自販機で美味しそうに飲んでおられました)。本の写真でしか見たことがなかったのですが、まさにホンモノが目の前におられるのです。思わず「先生、おはようございます」と声をかけてみました。すると、パッと振り返り、丁寧に深々とお辞儀をされて「おはようございます」と答礼をしてくださいました。もちろん誰かを知るよしもなかったはずなのですが、先生はこのように誰に対しても礼儀正しい方でした。これが生身の先生との初めての出会いだった、と回想しておられます。

 故・渡部昇一先生は、ちょっとしたことでも、必ず礼状や返事を欠かされることはありませんでした。お弟子さんたちが手紙を差し上げたり、著作物を送ったりすると、必ず返信なり礼状を送られました。私も数回先生にお願いをしたことがありますが、その都度、丁寧なお返事をいただきました。定年退職の挨拶状を出したところ、心温まるお返事とねぎらいの言葉をいただきました。いつも本文はワープロで作成されていて、最後には先生直筆の署名が筆で書かれていました。本文は先生が指示してワープロで秘書に書いてもらい、先生自身がご自分の署名と相手の名前を自筆で書いておられました。手書きの見た目があまりにもお粗末にならないように、二十年以上、書道を先生について習っておられました。

 お弟子さんの江藤先生が、裏話を披露しておられます(『学問こそが教養である』(育鵬社、2019年))。渡部先生PHP関連の講演やシンポジウムに出られたり、松下政経塾で講義をされると、必ず数日後に会長の松下幸之助さんから礼状が届くというのです。それははがきで、文面も簡素なものだったようですが、渡部先生「そんなもの松下さんが書くわけないから、きっと秘書か誰かが書いているんだろうね。しかし、松下さんの直筆の署名があった。これは受け取った者は気分がいい」とおっしゃっておられました。もともと礼状なんか期待していないにもかかわらず、手書きの署名を入れた礼状がきちんと送られてくる。これは大したものですね。この松下さんの習慣を真似られたのかどうかは定かではありませんが、渡部先生も必ず直筆で、それも筆で署名をして返信をされるのでした。先生はこのように礼儀正しい方でした。

 私もお礼状を欠かすことはありません。渡部先生がご自身の著書をプレゼントすると、すぐに礼状が来るのがほとんどでしたが、中にはうんともすんとも言ってこない者もいる、とこぼされていたことがあります。残念ながら、私の周りにもそういう人はざらにいます。♥♥♥

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