つんつるてん

 浴室を出ると、そこに女ものの浴衣が置いてあった。迪子だって決して小さいほ
うではない。だが一行が着るとつんつるてんだった。「ごめんなさい。鏑木さんに
着てもらうようなものがないの」
 ―峰 隆一郎『東京・上野3.6キロの完全犯罪』(講談社文庫)

 ところがドイツでは奨学金が200マルクで寮費が40マルク、あとは何も心配
ないのです。生まれて初めてなんの心配もなく勉強と遊びができました。ダンスを
ならい、友人ができ、実に楽しかったのです。だから驚いたことに、帰る前の年に
は、突如身長が伸び、持っていった洋服がみんなツンツルテンになってしまいまし
た。
 ―渡部昇一『人生の出発点は低いほどいい』(PHP出版)

その日の夜には認証式に出るため、モーニングを着て皇居に行かなければなりません
でした。しょうがないから官邸にあった誰かのモーニングを借りたら、ズボンがつん
つるてん。見かねた支持者に「先生、カネがないのかもしれないけど、モーニングぐ
らい持っていてくださいよ」と苦言を呈されました。
 ―「話の肖像画(12)(谷垣禎一)」『産経新聞』4月13日、2022年.

 上の例に見るような「つんつるてん」という表現は、身長に対して極端に短い丈の衣服や、そういった短い衣服を着ているさまをからかったり、自嘲する際に使う言葉です。最近ではあまり使われなくなった言葉ですが、私は小さい頃からよく聞いたおなじみの表現です。「ズボンなど衣服の丈が短くて(very short/ too short)手足や膝が見えていること、そのさま」を言います。「つんつるてん」の語源は、丈が短いズボン(袴)は正しい寸法よりも上にあがることから、寸法が天に釣りあがる=寸釣天(すん・つる・てん)になったとされるようです。また、坊主頭のことや一文無しを指して、つんつるてん」という地域もあるようです。地方によっては「ちんちくりん」、「ちょんちょこりん」とも言うらしいですよ。

 このことは、物質以外にもいろいろな利益を私に与えてくれた。まず第一に健康
のいちじるしい改善で、身長ものびて、行く時持っていた着物はみなちんちくりん
になった。 ―渡部昇一『わが体験的キリスト教論』(ビジネス社、2021年)

 坊主頭のことや一文無しを指して「つんつるてん」ということもありますが、これらは「つんつるてん」という表現の語感からくるイメージで、後付けされたものと考えられています。完全にはげているという意味や、一文無しの状態を、「何もない状態」と転化して使い始めたのでしょう。

 『広辞苑』「つんつるてん」を調べてみると、

① 着物の丈が短くて脚のあらわれているさま。
② 頭が完全にはげているさま。

やはり二つの意味が出てきました。地域によっても使い方が異なるようです。現代では、あまり使われることがなく、ほぼ死語となっている表現です。♥♥♥

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