オフコースのアルバム『ワインの匂い』(1975年)の中に「老人のつぶやき」という歌があります。マニアックなファンなら大好きな曲です。小田和正さん(現在76歳!)が27歳の時です。あの若さで「老い」をこんな風にリアルに歌っています。私も若い頃はよく理解できなかった曲ですが、今歳を重ね、空を見上げ、若かりし頃を思い出しては「あー、わかるなあ」と共感できるようになってきました。
老人のつぶやき 作詩・作曲 小田和正
大空へ 海へ 故郷へ
私はもうすぐ 帰ってゆく
大空へ 海へ 故郷へ
私はもうすぐ 帰ってゆく
いつまでも空を見上げて
老人はあの頃を 思い出すのだろう
私の好きだった あのひとも今では
もう死んでしまったかしら
大空へ 海へ 故郷へ
私はもうすぐ 帰ってゆく
私の短い人生は
私の生き方で 生きたから
もういちど 若い頃に
戻りたいと思うこともない
ただあの人に 私の愛が伝えられなかった
それがこころ残りです
私の好きだったあのひとも今では
もう死んでしまったかしら
この曲は小田和正ファンにとっては、ちょっとした因縁のある歌なんです。1975年のことなんですが、NHKの「みんなのうた」の番組サイドから小田さんに、曲を作ってくれという依頼があって、この「老人のつぶやき」を作ったんですが、なんと見事にボツ(不採用)になってしまいました。NHKは子どもにこんな詞は聞かせられないと言うんです。
「オフコースファミリー」(オフコースのファンクラブ)の会報の一部から抜粋すると、 「NHKみんなのうたからの依頼で作ったところ「老人というテーマは良くない」と不採用になった」とあります。 この曲についての小田さんの解説によれば、 「・老人をテーマにした曲を書くことは以前からずっと考えていた。 ・今までの道を振り返ると、あの時もう片方の道を選んでいたら、という「あの時」は幾つもある。 その「あの時」を「あの人」に置き換えた。 ・「老人の秘めごと」という題が武藤ディレクターの「これはちっとも秘めじゃないよ」 という意見で「つぶやき」に」 ・まあテーマ、歌詞が当時のNHKの意図とはあわなかったんでしょうね・・・。」
かつてはライブでこの曲を披露する際に、ギャグとして自虐的にこんな言葉を口にしておられました。NHKテキスト『みんなのうた』4~5月号(2021年)にも、小田さんがスペシャルインタビューでこの苦い想い出を語っておられましたね。2021年4月に、NHK「みんなのうた」が放送開始60年を迎えるにあたり、4~5月の新曲を「みんなのうた60 記念ソング」と位置づけ、その記念ソングアーティストとして、シンガーソングライターの小田和正さん(当時72歳)が初登場しました(作詞・作曲・編曲・歌 小田和正)。「みんなのうた」60年に向けた思いと、コロナに対する気持ちという、2つの色合いが違う内容をいかに紡いでいくか、悩みました、と小田さん。2020年の夏に楽曲の依頼を受けて以来、相当の難産だったようです。この楽曲で「みんな」の心が少しでも軽くなったら嬉しく思います、とのことで、小田さんの書き下ろした「みんなのうた60記念ソング」が「こんど、君と」です。リベンジ成功!!NHK番組「そして「みんなのうた」は生まれた」でのインタビューでも、「老人のつぶやき」事件は50年の年月を経て完結した、と苦笑しておられた小田さんです。
27歳の若さでどうしてこんな風に「老い」を歌うことができたのか?という疑問が残りますね。実は、小田さんが58歳の時に、こんなことを回想しておられました。小学校5年生の時のちょっとした出来事です。小学校の校庭で生徒たちが縄跳びをしていた時、卒業生らしき人がやって来て、小田さんの担任の先生と立ち話をしていました。その様子を見て小田少年はこんな風に思ったという感想です。
あ、この人、卒業生なんだな。俺もあっという間にこの人になるんだなって、そう想ったのをとってもよく覚えている。だからどうということはないんだ。ただその光景と、そう想ったことはよく覚えている。そしてそれはいつも、俺に取ってのテーマになっている。いまだに70や80くらいのおっさんをみると、あ、振り返る時は一瞬にして訪れるなと思うんだな。だから詞も、そういう過去と未来の両方から見えるような、行ったり来たりするような、そういうものを俺は書いていると思うんだ。
「時の流れ」に対する特別なこだわりを感じられる言葉です。27歳の自分を未来の自分はどう見るだろうか?という想いに、「私の短い人生は 私の生き方で生きたから もういちど 若い頃に戻りたいと思うこともない」と返答をした、そんな感じの曲です。♥♥♥

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