大好きなシンガーソングライターさだまさしさんの昔の歌に、「凛憧(りんどう)」という切ないバラード曲があります。アルバム『風待通りの人々』(1988年)の中にひっそりと収められた1曲で、コンサートでもほとんど披露されることもなく、マニアくらいしか知らない曲
です。さださんの今は亡きお父さんと、妹の佐田玲子さんをモデルにした曲です。さださんの代表作である「雨宿り」「秋桜」「親父の一番長い日」のモチーフと同様、妹・玲子さんの結婚を念頭においた曲なんですが、当の本人はどこ吹く風とやら、まだ独身です(長崎で玲子さんの暮らしているマンションを見てきましたよ)。さださんのコンサートでは「玲子と結婚する勇気のある奴はいないのか?!今ならもれなくさだまさしがついてくるぞ」と、冗談を言っていた時期がありましたが、さすがに最近はなくなりましたね。通常、植物のりんどうは「竜胆」と表記されますが、さださんはあて字で「凛憧」と綴りました。タイトルに込めた気持ちはよくわかります。
「りんどう」(通称autumn bell-flower)は長寿の花として有名な花で、私も薄紫の花が大好きです。秋空に映える青紫色の花は、野趣・美しさ・かわいらしさなどを兼ね備えた日本人の心に響き、古くから親しまれてきた野草ともいえると思います。りんどう(竜胆)の花言葉は、「悲しんでいるあなたを愛する」というものです。群生せず、一本ずつ咲く姿からつけられた花言葉です。また別の花言葉では、「誠実」「正義」「寛容な心」もあります。りんどうの根から「りんどうこん」という胃薬がとれるのですが、これが漢方薬として有名な「熊胆」と同じくらい苦く、これに匹敵するのは竜のキモくらいしかないんじゃないか、ということで「竜胆」、なまって「りんどう」と呼ばれるようになりました。
エピソードがあります。この曲を作った前日に、さださんを「息子」のように可愛がってくださった文芸評論家の山本健吉(やまもとけんきち)先生がお亡くなりになりました。名曲「防人の歌」(さきもりのうた)を出した時に、「戦争賛美!」「右翼!」「好戦的!」と、音楽評論家から激しいバッシングを受けていたさださんを、擁護してくださったのが山本先生です。そのときの詳しい様子はこのブログにも紹介しました。⇒コチラです 翌日、お宅に弔問に訪れたさださんは、あまりに突然のことで実感がわきません。当時アルバムの曲作りの追い込みに入っていたさださんは、あまりのショックに茫然自失とし、散漫になり明け方近くまで何もできずにいました。仕方なくもう寝ようと思ったときに、不意に口をついて出てきたのが、このメロディーだったのです。何か山本先生からのプレゼントでできた曲のような気がする、とさださんは回想しています(ライナーノーツによる)。私は二番の歌詞がとっても好きです(前半は実話。結婚シーンは創作)。昔のさださんの曲の中には、こういう心を揺さぶる名曲がゴロゴロと転がっています。最近はちょっと…。❤❤❤
僕が父の 涙を見たのは その一度きりだった
祖母を送り 友を送り その時にも涙は 見せなかった
あれ程に 可愛がった妹が 嫁ぐと決めた日も
ただ おだやかな 父の姿に 僕はふと あの日を 思い出した
父といえど 男といえど 時のはざまに 落ちる刻がある
今となれば わかることがあり そっと 胸がつまる
花嫁の父が 今 少し照れた背中で


