the other day

 1992年に、Washington Interantional Center of Meredian Houseというところが出しているInternational Exchange Newsに、下記のような記事が出ていて、「オイオイ」と思ったことがあります。問題はthe other day(先日)という表現です。

   When a Latin American refers to something  happening  “the other day,” most Americans presume that the speaker is referring to an event that occurred the previous day. To the Latin, however, “the other day” often can mean that the event transpired at some time in the past―perhaps as much as a month or more ago. These two different concepts of time, which members of each culture consider to be “natural,” are bound to cause confusion.  (下線は八幡)

 いくらなんでもそれはないだろう、と思いました。辞書を引くと次のような記述まであり、私の疑念はますます強いものになりました。当時『ライトハウス英和辞典』(研究社)の改訂版の準備作業にあたっていた私は強い興味を持って調査を開始しました。

●日本語の「先日」より現在に近いこともあり,場合によっては1日前のこともある.―『ジーニアス英和辞典』(2014)、『プラクティカルジーニアス英和辞典』(2004)、『アクティブジーニアス英和辞典』(1999)、『ジーニアス和英辞典』(2011)

●日本語で「先日」というと、比較的前のことを指すこともありますが、the other dayはもっと「現在」に近い時を表し、「1日前」のことを言うこともあります。―竹岡広信『必携英語表現集』(2015年、数研出版)

 私たちの編集顧問のアルジオ博士(John Algeo)は、この記述は誤りで、“a few days ago”, “several days ago”, “a couple of weeks ago”という解釈がほとんどのアメリカ人にとって普通とのことでした。アルジオ博士にお願いして、ジョージア大学の学生たち(学部生・大学院生38名)の反応も調査していただきましたが、大部分が過去の数日前を、かなりの学生が数週間前を、数人は数か月前を表すと答えました。また、2人は昨日を、2人は昨日を表すことはない、と反応しました。要するに、近い過去を表すあいまいな表現で、話し手の状況に応じて幅のある英語表現、ということになります。しかしどう考えても、「昨日」という解釈は普通ではありません。私の周りの関係者を通じて、アメリカ人インフォーマント調査を実施しましたが、同様の結果が得られました。イギリス英語の立場から、イルソン博士(Robert F. Ilson、ロンドン大学)は、上のアルジオ博士の反応を支持されましたが、個人的には数週間前までさかのぼることは普通ではないとのことでした。この点にはSylvia Chalker博士(The Oxford Dictionary of English Grammer編者)も同意されました。

 I met Mrs. Smith the other day.
I met Mrs. Smith the other night.
?I met Mrs. Smith the other morning.
??I met Mrs. Smith the other week.
*I met Mrs. Smith the other month.
*I met Mrs. Smith the other year.

 このような段階の容認度を考えてみると、比較的最近の過去を表す表現であることが明らかとなります。高校生でも知っている「先日」の英語にも、深くて面白い問題が秘められていることがおわかりですね。

 西岡宣明・福田稔・松瀬憲司・長谷信夫・緒方隆文・橋本美喜男(編)『ことばを編む』(開拓社、2018年)という研究論文集が出版されました。この本は、37年の長きにわたり、教育、研究に没頭され、多くの教え子を育てていらっしゃった、熊本大学・登田龍彦(とだたつひこ)教授の定年退職を祝して、友人、同僚、教え子たちが寄稿した40篇から成る研究論文集です。登田龍彦先生は、私の大学時代の英語研究室の尊敬する先輩で、私もこの論集に「The other dayの語法」という調査結果を寄稿しています。冒頭に挙げた辞典・参考書に挙がっている注記の問題点を分析・検討したものです。結論的には次の通りです:

(1)the other dayの本質的な意味は、近い過去を表すあいまいな表現であって、話し手の状況に応じて幅のある表現であり、現在では通例「数日前」を表すのが一般的である。

(2) 「昨日」の意味での使用は不可能ではないにしても、一般的ではなく《まれ》である。

(3)いくつかの辞書に収録されているthe other morning/ afternoon/ evening/ weekなどの表現は容認度が低い。the other nightは普通の表現である。したがって、the other day/morning/afternoon/evening/night[McCaig & Manser]、the other day/morning/week etc [LDCE6]、the other day/morning/evening/week [OALD9]のような示し方には疑義があることは明らかである。

(4)かなり以前に起こったことでも、この句を使うことで、あたかも近い最近に起こったような印象を与えることが可能になる。


 『ジーニアス英和辞典』の編集責任者・南出康世先生にもこのことをお知らせしました。その結果、今年新しくなった同辞典の第6版(2023年)では、前版の誤った記述が訂正されました。

2日前から1週間くらい前までを指す。 ―『ジーニアス英和辞典』第6版 2023年

 それでは宿題です。英語で“a few days ago”といったら、何日くらい前のことを言うのでしょうか?私は疑問に思って調査したことがあります。♥♥♥

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