命・時・心

 「人間道」を語るために、私の大好きなシンガーソング・ライターのさだまさしさんは、今まで一体「何」を素材に歌にしてこられたのでしょうか?それは「命」「時」「心」の三つです。さださんが一貫して歌作りの「主題」と位置付けてきたものは、自分の意思ではどうにもならないものでした。どうにもならないものとの格闘こそが、「生きること」と受け止めておられたのです。

 「命」「時」「心」-。さださんは、この揺るぎない三つの主題を「不平等の三元素」と呼んでおられます。人は生まれ、死に向かって生きていますが、その与えられた「命」は平等ではありません。命の重さは同じですが、人によって長さは異なります。たとえ長生きしたいと願っていても病に倒れる命があれば、自ら絶ってしまう命もあります。理不尽にも犯罪や災害、不幸な事故で奪われてしまう命もあります。「時」も平等には流れることはありません。過ごす長さは同じでも、使い方によって質量ともに大きく変わるのです。後になって反省したり、後悔したりすることは少なくありませんが、過ぎた時間は二度と戻ることはありません。最後の「心」は、自分の持ち物だから人間誰しも思い通りになると思いがちですが、実は最も自分の意思通りにならない不平等なものかもしれません。例えば、やめようと決心してもやめられないことは多いのです。人は元来弱く、情けない生き物だからこそ、そこに心の葛藤が生まれます。 「曲を作って歌うことを仕事と決めた時に『僕に与えられた任務は何なのか』と考え、導き出した答えが不平等の三元素を歌っていこうという決意だった。その主題がぶれなかったからこそ、歌い続けることができたのかもしれないね」さださん。どうあがいてみても「命」「時」「心」は永遠に制御することはできまません。だからこそ、さださんはいつまで経っても「歌い尽くした」「書き尽くした」という境地に達することはあり得ないのです。

 このように「命」「時」「心」を歌ってきたさださんの軌跡は、2013年の6月26日に発売された、ベストアルバム『天晴~オールタイム・ベスト』の中に凝縮されていました。「歌手生活40周年」などを記念してユーキャンが実施した「あなたが選ぶさだまさしベスト さだまさし国民投票」の結果を基に、上位39曲をCD3枚に収録したのです。それぞれのCDにテーマ別のタイトルが付いていました。一枚目は「こころ」、2枚目は「とき」、3枚目は「いのち」でした。全ての楽曲が「命」「時」「心」に分類できたことがまさに、さださんの軸足がぶれることがなかったことの証明でもありました。ところで、このアルバムが発表された時、私などは40周年で39曲とはいかにも中途半端だな、なぜ40曲にしなかったんだろう?と不思議に思ったりしたものでした。現場からタネ明かしをされて納得しました。「親父の一番長い日」「風に立つライオン」「フレディもしくは三教街~ロシア租界にて」「遙かなるクリスマス」といった長い曲がずら~りとランクインしたためにどうしても1曲収録できなくなり、39曲にせざるを得なかったんだそうです。ではちなみに40位は何だったか?というと、ほんのわずかな差で私の大好きな「驛舎」(えき)という歌でした(⇒「驛舎」の私の紹介記事はコチラです)。

 当時、彼が紡いだ520曲を超える楽曲の中から、「国民投票」で第一位に輝いたのは「主人公」でした。1978年3月、ソロになって3枚目のアルバム『私花集(アンソロジイ)』の中の一曲として発表されてから35年。アルバム発売後にシングルカットされたことはありましたが、ミリオンセラーとなったヒット曲ではありません。にもかかわらず、発表以来これまで何回か実施された人気投票で常に第1位にランクされ、この時もその首位の座を譲ることはありませんでした。「正直言って、ちょっと暴れたくなる感じはあるね。『35年、俺はこの曲よりいい曲を書いてないって言うのか、おまえら』ってね。人生の応援歌として大事にしてくれてる人が多いってことだと思うけど、それだけの力がこの歌にはあるということだろうね」さださん。発表直後から女性を中心に圧倒的な支持を受ける「主人公」の歌詞は、こう綴られています。

      主人公

             作詩・作曲  さだまさし

時には思い出ゆきの旅行案内書(ガイドブック)にまかせ
「あの頃」という名の駅で下りて「昔通り」を歩く
いつもの喫茶店(テラス)にはまだ時の名残りが少し
地下鉄(メトロ)の駅の前には「62番」のバス
鈴懸(プラタナス)並木の古い広場と学生だらけの街
そういえばあなたの服の模様さえ覚えてる
あなたの眩しい笑顔と友だちの笑い声に
抱かれて私はいつでも必ずきらめいていた

「或いは」「もしも」だなんて あなたは嫌ったけど
時を遡る切符(チケット)があれば欲しくなる時がある
あそこの別れ道で選びなおせるならって…
勿論 今の私を悲しむつもりはない
確かに自分で選んだ以上 精一杯生きる
そうでなきゃあなたにとても とても恥ずかしいから
あなたは教えてくれた小さな物語でも
自分の人生の中では誰もがみな主人公
時折思い出の中であなたは支えてください
私の人生の中では私が主人公だと

 私は松江北高に赴任したその年、初めて担任をした3年生の卒業生たちを前に、「卒業式」の日に教室で次の言葉を贈ったんです。

 卒業おめでとう!英語で「卒業式」はcommencementと言います。これは「始まり」という意味です。この意味をしっかりと考えてみましょう。今は、スタートラインに立っただけ。これからの生活をどう送るかで将来の結果は大きく違ってくるはずです。僕は22歳、教員のスタートを切った辞令交付式で「無限の可能性」を持った若者たちの眠れる力を引き出したい、と決意を述べました。その気持ちは○○歳(?)になった今も変わることはありません。英語の指導を通じて、英語の面白さや、やりがいを伝えたいと思って、今までやってきました。勉強だけでなく、人としてどう生きるか、にも強い関心があります。大学へ行って、しっかり勉強して、新たな人生を切り開いてください。祈っています。

 そして、大好きなさだまさしさんのこの曲「主人公」を流しました。彼の500曲以上ある曲の中から、ファンの間でベストテンを取ると、必ずダントツ首位に来る名曲です。私はその詩の内容の深さに特に惹かれています。彼の真骨頂は美しいメロディーだけでなく、実はその詩の奥深さにあるというのが私の実感です。(トークはさておくとして…〔笑〕)。一人一人が主人公であり、その人生を臆することなく果敢に切り開いていって欲しい、という願いを込めての選曲でした。

 時の流れは止めることはできず、思い出に浸ることはできても、時を遡ることはできません。この「主人公」は、平易な言葉で分かりやすく「時」の無常を描き出した作品ですが、先のベストアルバムの『天晴』では「こころ」に分類されていました。心変わりによって別れた恋人との思い出をたどる「恋心」の歌だからでしょう。さらに、美しいバラードの旋律に乗せて、一度きりの人生を精一杯前向きに生きようとするする「命」の歌でもありました。つまり「主人公」「命」「時」「心」の全てが凝縮された楽曲であり、そこに長年にわたって多くのファンに支持されている理由があるのかもしれませんね。多くの人が自分の人生への不安におののきながら、なかなか自信を持てないで恐る恐る小さな人生を精一杯に生きているのです。♥♥♥

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