メロン発言

 オーストラリアのアンソニー·アルバニージー首相が、日本の初の女性首相である高市早苗総理に対して「失礼な」発言をしたとして、野党をはじめそこら中から非難されていることが、8月14日付『朝日新聞』で小さく報じられました。前週、オーストラリアのエンタメ系ポッドキャスト「Bush Deep」に出演したアルバニージー首相は、高市首相がオーストラリア訪問時に公式に贈った「クラウンメロン」(現地では「ロイヤルメロン」と呼ばれる)について語りました。高市首相は、日本からのメロン輸入をオーストラリアが再開したことを祝し、2026年5月に静岡産の超高級メロンを2個、贈呈しています。贈られたのは静岡クラウンメロンとされる高級品で、日本では贅沢品とみなされ、1個あたり約270オーストラリアドル(約3万円)に達することもあります。高市首相自身も、5月の訪豪時にメロンを贈呈する写真をSNSに投稿していました。番組ホストのニッキ·オズボーンは冗談めかして、高市首相がメロンを税関で「密輸」したのではないか?と尋ね、手振りで女優のパメラ·アンダーソンを連想させるジェスチャーをしました。ちなみにパメラ·アンダーソンは、若い頃、豊満な胸で有名だった女優です。するとアルバニージ首相は、ホストと同じようなジェスチャーをしながら、「メロンが2個来たよ」と言ったのです。

 その動画が下に貼り付けたものです。2:40秒~3:18秒あたりが問題の場面で、二人の会話を日本語に訳すと以下のようになります。

オズボーン(ホスト): 今までの海外訪問で、一番しょーもない贈り物って何?
アルバニージー首相: うーん。最近もらった中で、ちょっと変だけど、結局はかなり良かったものがあるよ。メロンだ。日本の首相が、メロンを持ってきてくれた。
オズボーン: 彼は、どうやって税関通したのかしら?
アルバニージー首相:彼じゃなく彼女だよ。
オズボーン: 女性…そうか、密輸したのね?
アルバニージー首相: それは分からないけど……
オズボーン: ああ、きっとこうやって…(両手を胸の前で揺らす仕草)
アルバニージー首相: (同じように両手を胸のあたりに持って来て)うん、2つもらったね。
オズボーン:(やはり、というように笑い)2つ、2つ持って来たのね!
アルバニージー首相: (目を見合わせてうなずき)2つ持っていたね。誰でもそうだけど。

オズボーン: じゃあ、来た時は、パメラ·アンダーソンみたいな見た目だった。
アルバニージー首相: 彼女は2つ持ってた。そしてそれは、とても美しかったよ。

 問題の中核は、英語の俗語で「メロン(melons)」が女性の胸を指す隠語になっている点にあります。アルバニージー首相は、高市首相から受け取った日本の高級メロン2個について語る際、胸の前で両手を丸くかざすジェスチャーを添えながら「メロンを2個もらった(got a couple of melons)」「彼女は2個持ってきた」と述べました。果物のサイズを示す仕草だと本人周辺は説明していますが、俗語の含意と身振りが相まって「下品な性的冗談」と受け取られました。“I got a couple of melons.”+胸を示すような両手のジェスチャー、となると英語話者には当然「胸」の意味がかなり強く連想されます。

 しかし日本国内の報道では、抜け落ちやすい点がありました。「アルバニージー首相が高市首相の胸を有名女優パメラ・アンダーソンに例えた」との理解が広がっています。しかし、これは正しくありません。その比較を口にしたのは首相ではなく、司会者のオズボーン氏です。首相が「(彼女が)2個持ってきた」と述べた流れで、司会者が「まるでパメラ・アンダーソンみたいな姿で来たんですね」と返した、という構図です。実際の流れは、高市首相→メロンを2個贈った→「メロン2個という表現」→胸を両手で包むようなジェスチャー→司会者「パメラ・アンダーソンみたいに」→アルバニージー首相「2個持ってきた。美しいよ」ですが、司会者による発言がアルバニージー首相の発言として拡散されているのです。つまり、最も露骨とされる女優への「身体比較」は司会者側の発言であり、首相本人の発言として拡散された部分には事実誤認があります。首相への批判の当否を論じる前に、この点だけは押さえておく必要があるでしょう。一方で、首相が俗語含みの語とジェスチャーを用いた事実自体は残るため、「本人は一切下品なことを言っていない」という擁護も単純には成り立ちません。

 「首相の職にふさわしくない」「侮辱的だ」「侮辱的で思慮を欠く」「首相の性的なメロンの冗談は無礼なだけでなく、両国の緊密な絆を裏切った」「発言は極めて無礼で首相の職にふさわしくない」「首相の職に値しない発言だ。個人的に謝罪すべきだ」「若いリスナーに受けようとした幼稚な発言」「下品で品位を欠く」と非難が殺到し、謝罪が要求されました。8月11日(火)の議会で、「無礼な振る舞い」について謝罪するかを問われたアルバニージー首相自身は「そのような指摘は当たらない」と答え、謝罪を明確に拒否し、「高市首相はオーストラリアの友人であり、私の友人でもある」と強調しました。「首相は、野党が言うような意図で発言したのではないと明言している」「完全な曲解だ」と首相の擁護に回る議員たちもいます。

 今回の騒動では、英語の “melons” が女性の胸を指す俗語として使われることがあることが、かなり重要なポイントです。「melons = 女性の大きな胸」という英語の俗語的用法です。したがって、英語を知っている人には、単なる「メロンを2個」という話ではなく、女性の胸を連想させる下品な二重の意味に聞こえる可能性があります。アルバニージー首相本人は、発言に性的な意味はなかったと否定しています。日本側もこの件を大きな外交問題とは扱っておらず、駐オーストラリア日本大使は、豪政府から「報道されたような形での発言ではなかった」と説明を受けたとしています。

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 ここの会話内に登場するパメラ・アンダーソン(Pamela Anderson)は、1967年生まれのカナダ出身の女優・モデルです。特に有名なのが、1990年代の人気テレビドラマ 『ベイウォッチ(Baywatch)』。赤い水着姿のライフガード役で世界的な人気を得て、特に大きな胸のイメージが強く、当時の代表的なセックスシンボルの一人になりました。元・Playboyのモデルでもあります。そのため、欧米の人が、“She looks like Pamela Anderson.”と言えば、単に「パメラ・アンダーソンに顔が似ている」という意味だけではなく、豊かな胸など、1990年代に定着した彼女のセクシーなイメージを連想させる場合があります。今回のジョークでは、そこにさらに “melons”=女性の胸 という俗語が重なったというわけです。「これは単なる果物の話ではなく、女性の胸についての性的な冗談なのだ」と非常に明確になってしまいました。性的な意味に受け取られる仕掛けが会話全体の中に非常に濃厚に存在していたのです。

 “melons” がなぜ普通の「メロン」から性的な意味に転じるのでしょうか?結論から言うと、「丸くて大きい果実」→「丸くて大きい女性の胸」という、非常に典型的な「形の類似」による比喩です。もちろん、I bought two melons.(メロンを2個買った)なら、普通は果物のメロンです。ところが英語には、melons を「女性の胸、特に大きな胸」という俗語として使う用法があります。American Heritage Dictionaryも melons を “Vulgar Slang” として「a woman’s breasts」と掲載しています。ポイントは、単数の melon より、複数の melons が圧倒的に性的な意味になりやすいことです。She has big melons.と言えば、「彼女は大きなメロンを持っている」ではなく、通常は「胸が大きい」というかなり下品な表現になります。

 理由として一番分かりやすいのは、形と大きさです。メロンは、

  • 丸い

  • 大きい

  • 左右に2個あるものとしてイメージできる

  • 食べ物として「豊か」「みずみずしい」という連想もある

という特徴があります。そこで、大きく丸い果物 → 大きく丸い女性の胸 という比喩が生まれました。

 英語では実は「胸」を果物に喩える表現がかなり豊富です。言語学の資料には、apples, cantaloupes, grapefruits, lemons, melons, watermelons などが女性の胸を表す俗語として挙げられています。つまり「メロンだけが特別」なのではありません。さらに面白いことに、この発想そのものは英語だけのものではありません。Etymonline によれば、古代ギリシャ語の mēlon は「リンゴ」など果実を広く指す語でしたが、その複数形が古代から「少女の胸」を指す用法を持っていたとされています。したがって、果物 → 女性の胸、という比喩は、かなり古い文化的連想なのです。

 ここが重要です。melons = breasts と辞書的には説明できますが、実際のニュアンスは単なる「胸」ではありません。かなりしばしば、“large / prominent breasts”という意味になります。そのため、

She has big melons.

は、単に「彼女は胸が大きい」というだけでなく、女性の身体を性的な目線で品評する感じが強く、かなり下品な響きがあります。UCLAのスラング資料でも melons を “big breasts” と説明しています。❤❤❤

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