本気のものさし

 何かに長年本気で向き合ってきた結果として身につけた、独自の判断基準・こだわり・価値観があります。長年の経験・努力・専門知識によって、普通の人には見えない違いが見えるようになるのです。経験する→深く考える→細やかな違いが見える→自分なりの基準ができる、というものさしができていくのです。いろいろな分野で本気の人に出会うと、「世の中にはこんなところまで考えている人がいるのか!」と感動し、その度にものさしが増えることもあります。仕事に燃えて取り組んでいるかどうかを測る時に、私は4つのものさしを用いています。大島修治(おおしましゅうじ)*(下記参照)さんに習って、「本気のものさし」と呼んでいます。自分が本気で取り組んできたからこそ持てる自分なりの高い基準です。

 一つ目のものさしは、自分の意志で行動しているかどうかということです。一つの行動をとる時に、これをやることによってどのような結果が得られるのか、それがどのように周囲の喜びに結びついていくのか、自分にどのような意味があるのかと、常に先を考えていくことが大切です。そういう習慣を身につけることによって、一つひとつの行動を自分自身で意思決定できるようになります。そのためには、三つの「し」を心がけることが大切です。①は「師」で、人生、自分以外の人はみんな師です。大学でも、教育現場においても、数多くの先生方からたくさんの学びをいただいてきました。②は「志」です。高い志を持って、夢を追いかけることで、成長してきました。③は使命感「使」です。自分は何のために生かされているのか、何に生涯をかけるのかを知ることで、生き生きとした人生を送ることができます。

 二つ目のものさしは、一度決めたことを続けてやれているかどうかです。「継続は力なり」と言いますが、自分でやろうと決めたことは続けなければ意味がありません。もし続かないとしたら、それはまだ本気ではないということです。「したい人10,000人、始める人100人、続ける人1人」(中谷彰宏)という言葉もあるくらいです。

 三つ目のものさしは、助けてくれる人が現れたかどうかです。何かを本気で続けていたら、必ずどこからか助けてくれる人が現れます。一生懸命やり続けていると、天から助けのロープが下りてくるのです。これは故・渡部昇一先生の口癖でした。

 最後の四つ目は、楽しんでやっているかどうかです。物事を本気で一生懸命やっていると必ず楽しくなります。楽しくないのなら、それはまだ本気ではないということです。本気で取り組めば楽しくやれるようになるのです。私の場合教えることが本当に楽しかったというのが実感です。楽しいから長年続けてやってこれたのだと思います。

 私は教育の世界に長年身を置いてきて、痛感することは、一貫して「生徒の心に火をつける」ために頑張ってきたんだなということです。19世紀のイギリスの哲学者であるウィリアム・アーサー・ウォードは、こう述べています。名言だと思います。

The mediocre teacher tells.
The good teacher explains.
The superior teacher demonstrates.
The great teacher inspires.
凡庸な教師はただしゃべる。
良い教師は説明する。
優れた教師は自らやってみせる。
しかし偉大な教師は心に火をつける

 「生徒の心に火をつける教師を目指して、これまで一生懸命やってきました。一人でも二人でも、そういう生徒が出てきたのであれば嬉しいのですが…。次の言葉も同様の主旨です。

いい先生は丁寧に説明してくれる。もうちょっといい先生は自ら範を垂れ、最高な先生は俄然やる気にさせてくれる。(W.A.ワーズ)

 私は生徒を大学に入れるために英語を教えているのではありません。英語の面白さ・難しさ・奥深さを生徒に伝えて、大学へ行ってからも、そして社会人となってからも英語の勉強を続けてもらうために必要な基礎・基本をしっかりと教え、本物の英語の力をつけるために毎日の授業をしています。決して「分かりやすい授業」とか「面白い授業」が私の目標ではありません。「生徒の心に火を付ける」のが私の仕事だと思ってやってきました。そのためには、成績が目に見えて上がった、模試の得点が飛躍的に伸びた、というのが一番の薬・励みになるようですから、「結果」にもこだわりたいと思っています。そのために毎日の反省・分析を怠りません。私の授業の目標は「分かりやすい授業」ではなく、「あ~、英語の勉強って面白いな」「ワクワク、ドキドキ」を伝えて、「もっと勉強してみよう!」と励ます授業こそが、私の目標なんです。生徒一人でも、二人でもそういう気持ちを体験してもらえる授業こそが、私にとっての「良い授業」です。毎日の授業を私は、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」をモットーにしてやってきました。これは作家の井上ひさしさんの言葉です。1時間の授業の中に「笑い」が必ず出るように心がけています。

 「生徒たちの心に火を付ける」ために、私は多くの卒業生たちに協力してもらって、学校案内やパンフレットでは知ることのできない大学生活の生のレポートを送ってもらい、それを「あむーる」と題する通信に掲載して生徒に配布してきました。もう何十年も続けていることです。松江南高校で学級担任を務めていた際に毎週発行していた「学級通信」が元になりました。大田高校で進路部長を務めていた時には、「進路だより」と形を変えて毎週発行しました。津和野高校では「学校だより」に形を変え、松江北高に帰ってからは「学級通信」「英語通信」と進化していきました。高校時代に担任した生徒の保護者や同僚が楽しみにしてくださって、今でも全部保存してあります、と言っていただいたこともあります。今は勝田ケ丘志学館で月に一回発行しています。ちなみに「あむーる」(愛)というのは私の大好きなフランス人ピアニスト・リチャード・クレーダーマンのアルバムのタイトルからいただきました。生徒たちに大変好評で、これを読んで、その大学を志した例も少なくありません。

▲「あむーる」最新号 大阪大学・島根大学医学部を特集

 京都大学の元総長・平澤興(ひらさわこう)先生「教育とは人を燃やすことである。人を教えるということは人を燃やすことである。燃やす側が芯から火がついていれば、燃やされる側は自然に火がつく」とおっしゃっておられました。そのためにも、自分自身が燃えることを常に課してきました。自分が感動していないことを伝えても生徒が感動するわけがありません。生徒たちを動機づけるには、自分がまずしっかり燃えていることが大切です。自分が燃えていれば、周りにいる人はとやかく言われなくても燃えるようになるものです。❤❤❤

大島さんは20歳代から事業を始め、1971年に「大島重機商会」を設立。しかし、オイルショックによる不況で倒産を経験します。その後、パチンコ、飲食店、カラオケ、金券ショップ、テレビショッピング、通販など、さまざまな事業を手掛け、40歳代には巨大な企業グループを築きました。年商は75億~100億円規模に達したとされています。ところが、1996年7月23日、人生を一変させる事件が起こります。「ガソリン焼き討ち事件」です。経営していた会社に男が侵入し、大島さんにガソリンを浴びせて火をつけるという事件に遭いました。大島さんは全身の約6割(資料によっては65%)に及ぶ大やけどを負い、5度も危篤状態になりました。さらに十数回にわたる皮膚移植などの手術を受け、長期間にわたって治療を続けました。この体験は、単なる「経営者の苦労話」ではありません。大島さん自身が後に語っているところによると、当初は犯人や周囲に対する恨みを抱いていたものの、壮絶な闘病生活を経て、次第に人生に対する考え方が変わっていったそうです。大島さんのこの人生観をまとめた著書が、『人生逃げたらあかん』(致知出版、2002年)でした。♠♠♠

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