18÷0=?

 先日、ネット上である投稿が物議を醸しました。小学校の算数ドリルの一ページです。現在の学習指導要領では、小学校3年生で「割り算」を学習することになっています。小学校3年生レベルの、ごく普通の割り算問題に混じって「18÷0」という問題がまぎれ込んでいました。これに対して、投稿者のお子さんが「答えなし」と回答したところ、先生はバツをつけた上に「正しい答えは0」と書き直したのです。何が問題なのか、と思われるかもしれませんが、実は、数学において「0で割る」行為は、認められていません。試しに、電卓や、スマホで「18÷0」と入れてみてください。きっと「エラー(E)」と出るはずです。

 小学校は、教育機関です。もちろん、誤ったことを教えてはいけないはずです。それに、教員側は仮にも大学教育までを修了してきているはずなのに、正しい答えである「答えなし」にバツをつけただけではなく、「18÷0=0」と初歩的かつ致命的なミスをしてしまいました。これについて、採点した先生のうかつさや、無知さを叩く声がSNS上では急増しました。今回の騒動について、東大生たちの反応が挙がっていました。

◎「小学校の間は、とりあえず計算の能力を身につけたり、正しい順序で計算するルールを覚えたりすることが大事。確かにゼロ除算はNGだが、そういった細かいことは中学校や高校に上がってからでもなんとかなる」

◎「18÷0の答えはともかく、採点した教師が『18÷0=答えなし』に対してバツをつけたことが問題。『自分の教えたことと違うからバツ』ならば、教員としてあるまじき態度。『小学生にとっては難しすぎるから、いったんゼロにしておきましょう』ならわかるが、『答えなし』にバツをつける理由にはならない」

◎「そもそも『18÷0』の文字列に対して、気持ち悪さを持つようになることが、数の暗黙知を育てることにつながると思う。特殊例と一般的な計算式を同列に並べてしまうことが問題であって、教員側の知識の整理がついていないのではないか」

◎「機械的に『÷0』は成立しないと教えても、単純暗記になってしまうから、数学的なセンスは身につかない。そうではなく、『18÷1=?』『18÷0.1=?』『18÷0.01=?』……と問題を出して、その果てに『18÷0=?』と出題すれば、考える能力を身に着けるきっかけになる。」

◎「普通は『定義できない』と教わることが多いが、本当に定義できないのか、そもそも定義できないとはどんな状況かを考えることが重要。ただし、子どもたちが自力でそこまでたどり着くのは難しいと思われるので、そこを大人が補助する必要がある。 別に『18÷0=0』と教えるのも、いったんはいいかもしれないが、『なぜそうなるのか』を筋道立てて説明できないのであれば、教員側の力不足と指摘されても仕方ない部分がある」

 近年、教育現場では「子どもたちが自分で考えることの大切さ」を説かれるようになっています。昔のような先生の独り舞台ではなく、子どもたちに積極的に発表させたり、グループを作って話し合わせたりするのです。こういった教育の目的は「自立した思考力」を身に着けてほしいため。となれば、今回の「18÷0」の問題に関しては、思考力を育むための絶好のケースと言えるのではないでしょうか。今回の問題については、結局「子どもの思考力を阻害しないことが大事」という結論になりました。教育現場も同じ方向を向いているはずですが、その実情はまだまだ発展途上の印象。先生と生徒、教育の未来は一体どちらを向いているのでしょうか?

 数学的にこの問題に対する説明の仕方はいろいろあるでしょうが、私にはこれに関して思い出すことがあります。私が高校一年生に入学したばかりの4月、故・森脇 均先生の数学の授業は教科書をやらずに『量数概論』というテキストを使って、数学の基礎・基本を徹底的に教え込まれました。他のクラスは方程式だ二次関数だと、普通通り教科書をどんどん進んでいましたから、生徒達はブーブー言っていたのかもしれません。他の数学の先生方からもいろいろと批判があったのかもしれません。いずれにしても、今の現場ではあり得ない光景です。でも私はとても面白くて引き込まれていきました。その時に先生から「0」にまつわるいろいろなお話を伺いました。吉田洋一『0の発見』という岩波新書を読むように薦められたのもその時でした。そもそも数字を0で割るとはどういうことか?「1÷0=不能、0÷1=0、0÷0=不定」を教えるのに、森脇先生はこのようにお話しされたのを覚えています。「距離÷時速=かかる時間」でしょ。時速0キロとはその場で足踏みしていることです。「1キロの距離をその場で足踏みしていたらどれぐらいで行くことができるか?⇒到着することは不可能」(=不能)「その場にいるのに時速1キロで進んだら何分で行けるか?⇒時間はかからない。もう着いている」(=0)「その場に着くのにその場で足踏みしていたら何分で到着するか?⇒1分でも5分でも30分でも行ける=定まらない」(=不定)時速0キロをその場で足踏みしている、と説明されたのがとても新鮮でした。この年になった今でもそのことをはっきりと覚えています。こんな風に説明してあげたら小学生でも容易に理解できるのになあ、と今回の騒動を聞いて感じたことでした。♥♥♥

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