授業で、毎年今頃東京大学の2002年度の「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」に関する二次試験の入試問題を読んでいます。東大入試の英文は毎年本当に良く練られた質の高いもので、受験生や教育現場にメッセージを発することでも有名です。英文は、「神が世界を相手にサイコロ遊びをするなどとはとうてい思えない」というアインシュタインの有名な言葉で始まりますが、人生は理詰めで動くチェスではなく、一手ごとにサイコロを振る運任せのバックギャモン・ゲームなのだ、と展開します。次に何が起こるか分からないということです。しかし、日常生活では過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想することが有益である、という内容の英文でした。
「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」(Gambler’s fallacy)とは、「独立した偶然の出来事が起き続けると、そのうち『偏りを埋め合わせるような逆の結果』が出る確率が高まる」と誤って思い込んでしまう心理的バイアスのことです。「モンテカルロの誤謬」とも呼ばれ、日常生活やギャンブルの場面で多くの人が陥りがちな思考の罠です。具体例としては、コイン投げのケースが代表的です。
コインを投げて5回連続で「表」が出たとします。表→表→表→表→表。この時、多くの人はこう考えてしまいます。「これだけ表が続いたんだから、次こそは裏が出る確率が高いはずだ」。これが「ギャンブラーの誤謬」の本質です。しかし、数学的な真実は「次に裏が出る確率は、何回表が続こうとも常に50%(1/2)」です。コインに「記憶」などはなく、過去の結果が未来の確率に影響を与えることはありません。
人間の脳は、パターンを見つけ出したり、バランスを好んだりするように進化してきました。
◎大数の法則の誤解: 本来「大数の法則(試行回数を増やせば、結果は本来の確率に近づく)」という正しい法則があります。しかし、人間の脳はそれを「短期間の間でも、すぐにバランスが取れるはずだ」と勝手に勘違いしてしまいます。
◎「ランダム(偶然)」への不信: コインが5回連続で表になると、私たちは「そんな偏ったことが起きるはずがない、そろそろ調整されるはずだ」と感じてしまいます。しかし、本当のランダムの中では、時に偏りが連続することはごく普通に起こります。
この誤謬は、カジノのルーレットや宝くじだけでなく、私たちの身近な場面でも顔を出します。例えば、
◎投資・株取引: 「この株価は連日下がり続けているから、そろそろ反発する(上がる)はずだ」と根拠なく買いに走る。
◎日常生活: 「最近、赤信号ばかりに引っかかるから、次の交差点は絶対に青信号の確率が高い」と思い込む。
◎スポーツ: 「あの選手は3回連続でシュートを外したから、次は絶対に入るはずだ(いわゆる「ホットハンド」の誤認の逆)」
「ギャンブラーの誤謬」を防ぐための基本は、「過去の独立した結果は、未来の確率を変えない」という事実を冷静に思い出すことです。
「ギャンブラーの誤謬」というのは、コイン投げで表、表、表と連続して表が出ると、次は裏が出そうな気がするという心理傾向です。実際には、何回表が連続して出ようとも、コイン投げは、毎回独立事象(前回の結果と次のコイン投げは無関係)ですから、次に表が出る確率は1/2なんですが。日常生活においては、過去の歴史から、パターンを読んで、次に何が起こるかを予想する(ギャンブラ-の誤謬)ことは、意味のあることですし、またそうすべきです。日常生活の多くの事象は独立ではないからです。天気・人間の行動・機械の故障などは連続性があるために、「そろそろ変わるはずだ」と言うのは合理的な推測になるのです。天気は前日の気圧配置が翌日に影響しますし、交通信号の流れにしても、制御システムが周期的に動いています。人間の行動も、疲労・習慣・心理状態が連続して影響を与えます。これらは「前の結果が次の結果に影響する」ため、流れがあると感じる直感が部分的に正しくなるのです。
ところがそれが通用しない例外が一つだけあります。それが「ギャンブル装置」です。出来事がそのような予想過程とは無関係に起こるように設計されている機械には、今言ったような過程は通用しないのです。さてこの後に、次の英文が続きます。生徒は訳はできるのですが、その言わんとする「論理展開」を考えることができません。
If our love of patterns were not sensible because randomness is everywhere, gambling machines should be easy to build and gamblers easy to beat.(どこもかしこも行き当たりばったりのことばかりだという理由で、私たちのパターン好きは分別のある振る舞いではないとすれば、ギャンブル装置を作るのは簡単なはずであり、ギャンブラーを打ち負かすのも簡単なはずである)
最後の結論部分の次の英文も、生徒たちは、その背後にある「論理展開」を読むことができませんでした。この論理をじっくりと考えて「あー、そうか!」と納得するのに、あーでもない、こうでもないと、1時間以上を費やしました。
Indeed, calling our intuitive predictions reliable because they fail with gambling devices is unreasonable. A gambling device is an artificially invented machine which is, by definition, designed to defeat our intuitive predictions. It is like calling our hands badly designed because their shape makes it hard to get out of handcuffs.(いやそれどころか実際のところ、ギャンブル装置でしくじったからといって、直感的な予想が当てにならないと言うのは筋が通らない。ギャンブル装置というのは人工的に考案された機械であり、明らかに直感的な予想を負かすように設計されているのだから。それはちょうど、手の形のせいで手錠をすり抜けるのが難しいからといって、手のデザインが悪いと言って非難するのと同じようなものである)
①「語彙」の部分でつまづいたのは、by definition(明らかに、当然のことながら=definitely)という成句でした。生徒たちは「定義によって」と単語を訳しただけでそれ以上考えようとしません。私も学生時代この成句に初めて出会った時には、はたと考え込んでしまいました。当時の辞典には載っていませんでした。今は英米の学習辞典にも、当然日本の学習英和辞典にも収録されています。分からない時には、辞書を引く手間を惜しんではなりません。両英文中に何度も出てくるbecauseも「~だからといって」の用法です。calling~部分は「SVOC」(日本人高校生が苦手な構造)となっており、ここまでが主語であり、述語部分はis unreasonableで「SVC」の構文となっています。ここら辺は、②「文法・構文」の力が必要ですね。そして一番厄介なのが、両英文が何を言わんとしているのか、その③「論理」をしっかりと把握しなければなりません。訳はしたけれど、何を言っているのか分からない、では英文を読んだことにはなりません。生徒たちの理解は、最初は2割~5割程度でしたが、いろいろな「具体例」を出して考えてもらい(パチンコ屋さんの例、ラスベガスのカジノのサイコロまで持って来て実演、モンテの実演、ドイツのカードシャーク社から出た最新の不思議なトリック・デックを実演)、最後にはようやく10割の理解にたどり着きました。先生方は、この二つの英文をどのように料理なさいますか?考えてみてください。
かつて、「センター試験」時代に第1問A,Bの発音・アクセント問題において、過去に出た単語が繰り返し出題されている実態から、私は「お色直し」が予想される、と毎年予言していましたが、やはり過去問からの出題が毎年かなりの語数に及んでいました。そこで私は1990年以来の「センター試験」に出題された全ての英単語を自費で(「プリントパック」は今までの印刷屋と違い安くて質も良かった!)一覧表にカラー印刷して(複数回出題されたものには色をつけた)、生徒たちに事前確認をさせていました(写真下)。音声が欲しいという生徒たちの要望が多かったので、これも自費でCD化して配付していました。これも「過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想できる」好例でした。私の講演会で配布して、全国の先生方にも喜んでいただきました。

▲センター試験発音・アクセント出題語リスト 沢山の先生方にも喜んでいただきました
私が講演会等で毎年強調してきた、(1)昨年度の追試、(2)評価委員会の3種類の報告書の二つから、次年度の問題の内容がある程度予測できる、というのも同じことでしょう。よく「なぜ予想が当たるのですか?」という質問を受けるのですが、ちゃんと立派な根拠があり、過去の出題例を分析して、「ギャンブラーの誤謬」を実践すればよいのです。来年の「共通テスト」で、(1)NOT問題(not / error / removeの形で )、(2)推測問題、(3)複数箇所を参照する問題、複数解答の問題、(4)物語文の「心温まるいい話」、(5)「事実」と「意見」を問う問題、(6)「つなぎ語」「文補充」を問う問題、(7)要約問題、タイトル付け問題、(8)出来事の並べ替え二題には4/5でダミーが1つ含まれる、(9)第4問題Aはグラフとイラストが交互に出題、などが出題されるであろうという私の予想も、これに基づいています。
そんな内容の英文でしたが、人生において種々の決断を迫られる時にも役立つお話なので、毎年取り上げることにしています。❤❤❤
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