▲故・稲盛和夫氏
「京都賞」(Kyoto Prize)は、京セラ創業者の故・稲盛和夫(いなもりかずお)氏が、約200億円の私財を投じて創設した、世界的に非常に評価の高い日本発の国際賞です。科学・技術だけでなく、思想や芸術まで対象にしているところが大きな特徴です。稲盛和夫氏は1984年に稲盛財団を設立し、翌1985年に第1回京都賞を実施しました。
その背景には、「人類の未来は、科学の発展と人類の精神的深化のバランスがとれて、初めて安定したものになる」という稲盛氏の考えがありました。つまり、科学技術が進歩するだけでは、人類は本当の意味で幸福になれない。人間の精神や文化も同時に豊かにならなければならない」という発想です。稲盛氏の人生哲学です。
〇人のため、世のために役立つことをなすことが、人間として最高の行為である。
〇科学や文明の発展と人類の精神的深化のバランスをとりながら、未来の進歩に貢献したい。
京都賞はしばしば「日本版ノーベル賞」と紹介されます。ただし、ノーベル賞の単なる日本版ではありません。大きな違いは、京都賞が
◎先端技術
◎基礎科学
◎思想・芸術
の3部門を設けていることです。特に「思想・芸術」を科学と同じレベルで顕彰している点は、京都賞の非常にユニークなところです。稲盛財団自身も、京都賞はノーベル賞が対象としていない分野にも光を当てることを目指している、と説明しています。京都賞は3部門、それぞれ4分野、合計12分野から構成されています。選考は3段階の審査機関によって行われます。専門委員会(各分野の専門家が候補者を絞り込み)→審査委員会(より広い視点で審査)→京都賞委員会(理念に照らして総合判断)最終的には理事会が承認して受賞者が決定します。
| 部門 | 主な対象 |
|---|---|
| ◎先端技術部門 | エレクトロニクス、材料科学、情報科学、バイオ・メディカルなど |
| ◎基礎科学部門 | 生物科学、数理科学、地球・宇宙科学、生命科学など |
| ◎思想・芸術部門 | 音楽、美術、映画・演劇、思想・倫理 |
ただし、毎年すべての分野から受賞者が出るわけではありません。毎年、各部門から1分野ずつ、計3分野が対象になります。そして4年かけて12分野を一巡します。この仕組みは非常に面白いところです。
現在の京都賞は、各部門の受賞者に、賞金1億円+京都賞メダル(20K金製総重量約250g中央には「永遠」の象徴である「楠(くすのき)」、周囲にはエメラルド(4.56ct)とルビー(6.88ct))+ディプロマ(賞状)(臨済宗妙心寺派管長による墨書入)が贈られます。3部門ですから、毎年3人、総額3億円の賞金ということになります。ちなみに創設当初の賞金は現在よりずっと少なく、時代とともに増額されてきました。
歴代受賞者を見ると、京都賞の「幅広さ」がよく分かります。例えば、
山中伸弥――iPS細胞研究
大隅良典――オートファジー研究
赤﨑 勇――青色LED
金出武雄――ロボット工学・コンピュータビジョン
安藤忠雄――建築
坂東玉三郎――歌舞伎
志村ふくみ――染織
アンジェイ・ワイダ――映画
ユルゲン・ハーバーマス――哲学・社会思想
などがおられます。例えば、安藤忠雄氏は2002年、坂東玉三郎氏は2011年、山中伸弥氏は2010年、大隅良典氏は2012年の京都賞受賞者です。
京都賞は、単に「この人はこんな素晴らしい発見をした」という業績だけを表彰する賞ではありません。稲盛財団は京都賞について、「業績を成し遂げた感性や意識・人生哲学をも含めた、現代の知性ともいうべき『人を讃える』」ことを大きな特徴として説明しています。ここが、京都賞を理解する上で非常に重要です。つまり、何を成し遂げたかだけでなく、どのような人間として、それを成し遂げたのかにも注目をするわけです。これは、稲盛和夫氏自身の「人間としてどう生きるか」という思想・哲学とも深く結びついています。
そして、2026年は第41回で、2026年6月19日に受賞者が発表されました。今回の対象分野は、
◎先端技術部門=エレクトロニクス:宮坂 力(みやさか つとむ)
◎基礎科学部門=生物科学(進化・行動・生態・環境):ファルーク・アザム(Farooq Azam)
◎思想・芸術部門=音楽:ローリー・アンダーソン(Laurie Anderson)
となっています。つまり、今年は特に音楽の受賞者にも注目すると、京都賞のユニークさがよく分かります。
私は京都賞の最大の特徴は、単に「賞金が1億円」ということではなく、「科学技術」と「人間の精神・文化」を同じ視野に入れていることだと思います。ノーベル賞は非常に大きな権威を持っていますが、基本的には物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学です。一方、京都賞は、科学 → 技術 → 芸術 → 哲学・倫理を一つの「人類の知」の体系として捉えようとしています。これは、稲盛和夫氏自身の「科学の発展と人類の精神的深化のバランス」という考え方そのものなのです。
京都賞の歴代受賞者には、ノーベル賞受賞者もかなり含まれています。例えば山中伸弥、大隅良典、赤﨑勇などです。一方で、安藤忠雄、坂東玉三郎、志村ふくみ、アンジェイ・ワイダ、ハーバーマスなど、ノーベル賞では基本的に顕彰されにくい分野の巨人も選ばれています。その意味で京都賞は、「ノーベル賞の補完賞」ではなく、「ノーベル賞とは違う価値観から世界の知性を評価する賞」と考えると、その存在意義がよく分かるでしょう。♥♥♥


